刺朗

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可能性⑥

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後藤は会場を正視した。
「20年前、川原は一人娘を失いました。
この事件は、乳飲児(ちのみご)の惨殺というショッキングなものでした。乳児の遺体はバラバラにされ、川に流されていました。ただひとつ、腕の無い、胸から上の遺体が、ポリ袋に詰められ、ゴミ置き場に置かれていました。川原は我が児を連れて散歩に出、惨事に遭遇したということになっていますが、これも川原が何らか加害にかかわっているのではという、疑惑を抱えたまま時効になっています…」
後藤にも今年25になる娘がいる。それだけにこの事件は身につまされるものがあった。
「川原は犯人と思われる人物に、強い睡眠薬を飲まされ、我が娘を手放したようです。しかもその人物は当時10歳くらいの少年であったようです。しかしこの少年は事件以降、行方不明になっていて、20年が経った今も発見されていません。川原の創作かとも当時思われたようですが、川原幸恵さんにかかって来た電話の声が子供だったこと、被害者川原凛…かわはらりん、亡くなった一人娘の名前ですが、川原凛の遺体の一部が入れられていたポリ袋に子供の指紋があったことから、完全な川原の虚言ではないと断定されました」
会場は静まり返っていた。この複雑な状況をなんとか整理しようと、筆記する者、暗唱する者、黙考する者、刑事たちの無言の動きが場を支配していた。
「個人的にはこの時も、半分は警察の都合で事件は処理されたように思います。だとすれば36年前も20年前も、川原は嫌疑を奇跡的に逃がれたということになります。これは単なる偶然なのだろうかという疑問が、私には生じました」
後藤は息をつき続けた。
「これがこのふたつの事件だけであれば、川原への嫌疑は変わらないのですが、今回はその川原自身が、ふたつの事件と同じ方法で殺害されています。これはどういうことか?前のふたつの事件と今回は同一犯なのか、それとも川原になんらかの怨みをもつ者がいて、前のふたつの事件と同一の方法を使ったのか?これらの秘密は、厳重に保管されているUSBの情報がもたらせてくれないものかと、私は思っています」
次に後藤は、自分の推理の核を話した。
「この複雑な事件を紐解くには、捜査のもっとも基本である、誰がなんのために犯行を行い、いったい何を得るかという、動機と目的の洗い出しが必要かと思います」
話しながら後藤は、肝心の核がまったく見えないもどかしさを、自分が一番感じていると思っていた。
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