短い話たち

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運命

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ある日僕は、今、自分が歩いている道を、自分の運命だと思うことにした。
今、自分が運ばれているんだなとふと感じたからだ。
ちょうど春の天気のいい日で、僕の運命の両側には桜並木が続いていた。
温かい日差しがあって、穏やかな風が吹いている。
僕は深呼吸しながら自分の運命を進んでいた。
なかなかすがすがしい運命だなと満足していた。

少し歩いた時、目の前にタクシーが停まった。
密かな空想が邪魔された。

「オイ!人の運命にタクシーなんか停めやがって!」
と怒鳴った。
あくまで心の中でだけど。
でもその表現がなんか面白いなと思った。
ただの道をそう思うだけでこの世にない感覚になれる。

ふっと、でも本当に運命にタクシーを停める人がいたらそれは誰だろうと思った。
これはあくまで僕の運命だ。その僕の運命にタクシーを停めるなんて、どこのどいつなんだ?

ちょっと考えた。
そいつはタクシーに乗るのか?
それともタクシーから降りるのか?

乗るんだったら僕の運命にいたやつだ。
友だちか?
恋人か?
タクシーに乗ってどこへ行くんだ?
僕に何か買いに行ってくれるのか?

それとも降りるのか?
だとしてもこれから友だちになるやつか?
恋人になるやつか?

天気のせいか面白い仮定のせいか
僕の想像はなんだか都合のいいものばかりだった。

タクシーは人を乗せていた。
平凡な夫婦が降りた。
こっちへ来る。
奥さんは手にお土産らしき包みを持っている。

だけど僕には見向きもしないですれ違った。
僕の過去に向かって歩いて行く。

過去の僕に何の用事があるんだろう?
過去の僕はもしかしてなんかおめでたいことがあったのか?

そのお祝いだろうか?

天気のせいか面白い仮定のせいか
僕の想像はなんだか都合のいいものばかりだった。

僕は苦笑いしてまた歩き始めた。
自分の運命を。

これから退職届を出しに行く。


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