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29.水族館

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 水族館の最寄り駅に着くと、他の車両に乗っていた全員と合流した。
 軽い挨拶の後は、2人ずつに何となく分かれながら、近い距離を保ちつつ、すぐに真珠取り出し体験に向かった。

 早めに各自お昼を食べて、お昼時に来れば、6人同時でも並ばずに済むかなと思ったのだ。
 読み筋は当たって、すいている様子だ。

「はい、真珠取り出し体験ね、この中から、好きなアコヤ貝を選んでね」

 ザルの中から、運命の貝を選び、係の人に説明を受けながらナイフで殻を開け、ピンセットで探す。

「なぜか見つかんない。あ、あったかも」
「俺も、あった」
「どれどれー」
「ちょっと待って、まだ取り出してない」
「あ、すごーい、透明感のある真珠だね。素敵」

 長テーブルで隣りあう斉藤くんと、ワイワイ言いながら、取り出す。
 コロンとタッパの中に光る真珠は、可愛らしい。

「私のは真珠らしい白さだな。それぞれで全然色味も違うんだね」

 どちらの真珠も綺麗で、目を奪われる。

「俺のは桜ちゃんにあげるけど、どれに加工する?」
「加工費もかかるけど……」
「こんな機会ないから、いいよ。俺そんな物欲ないから、小遣い貯め込んでるし。まぁ小遣いってとこが、カッコ悪いけど」
「そこは高校生だし。いきなり働いてるからとか言われたら、びっくりすぎだよ」
「そらそうだ」

 どうしようかなー、と見本を見る。

 真珠のイヤリングや指輪は普段使いしにくいし、チャーム付きのネックレスはデートの時につけられるけど、ストラップなら毎日スマホにつけて持ち歩きできる。
 でも、スマホにつけると、傷がつきやすいかな。
 やっぱりデートの時に特別感が出るネックレスを選んで、自分の真珠をストラップかな。

 方針が決まったところで、係の人にお願いしようとした時、麻衣の声が聞こえた。

「私はね、自分の真珠は指輪にしちゃって、この中の誰かの結婚式の時につけてこっかなー! あ、後で皆で写真撮ろうね。皆で遊ぶ時もつけてこ」

 麻衣の言葉で、楓と沙月が悩み出したのが見て取れた。
 基本、スマホは鞄の中だから、目立たない。それに、ストラップにして劣化してしまえば、いつかは外してしまうだろう。

 真珠の指輪は、普段つけない気がするけど、おそろいにはしたいし。
 麻衣の言う誰かの結婚式は想像が全然つかないけど、思い出と一緒に指輪をしていくのも、悪くないのかもしれない。

 悩んだ末に、斉藤くんからもらう真珠はネックレスに、自分のはゆらゆらと揺れるデザインの指輪に決めた。

 麻衣と真鍋くんは、いつの間にかもういない。まだ沙月と楓は悩んでいるようだ。
 2人に手を振って、私たちも席を立った。

 加工には15分くらい時間がかかるので、ぶらぶらと見て回り、アクセサリーを受け取った後に、イルカショーの時間になったらスタジアムで待ち合わせだ。

 私たちは、光の中で桜吹雪のように舞い踊るマイワシのトルネードに息を呑んだり、鮮やかなサンゴの中を色とりどりの魚が泳ぐ大水槽に目を奪われたりしながら過ごした。

「水族館って、青の世界だよね」
「そうだな。幻想的で、ずっと見ていると別世界に迷い込んだみたいだよな」
「斉藤くんって、あれだよね」
「乙女チックだって?」
「あはは」

 そろそろ出来上がった頃かと、真珠貝アクセを受け取りに行く。

「はい、こちらですね」

 透明の袋に、虹色に輝くアコヤ貝と真珠アクセサリーが入っている。

「アコヤ貝もすっごいキラキラしてる」
「綺麗なもんだな。ペンギン水槽の後ろ、通路とは別に立見するところがあるみたいだし、そこでつけるか」
「うん」

 他の4人にどこかのタイミングで会うかと思ったけれど、姿は見えない。

 これは、イチャイチャしていいよという神の啓示かな。

 ペンギン大水槽のところに来ると、そこは別世界だった。
 透明感のある、白と黒と水の世界だ。

「うわぁー! 可愛いね、ペンギン。よちよち歩いて。でも速い! 水の中のペンギンって、ジェット機だね」
「だな、めちゃくちゃ速い。可愛いだけじゃないんだな」

 他の4人には悪いけれど、やっぱりボーリングじゃなくて水族館で良かったなと思う。
 恋人とあちこち回って非現実空間を楽しみつつ、友達との思い出もできるなら一挙両得というもの!

 私たちは暗い通路の後ろにある立見席の一番奥の隅に進んだ。

 暗いと、人に見られていない安心感がある。

 先に、斉藤くんがネックレスを取り出すと、チェーンの留め具を外した。

「後ろ向いて」
「う、うん」

 邪魔にならないよう、髪を束ねて持つ。

 鼓動がトクントクンと早くなる。
 無防備なうなじを晒しているのも、チェーンと一緒に彼の指が首筋に当たるのも、そんな様子をチラリと他の人から見られるのも、心拍数が上がる。

 友達が、ここにいなくてよかった。
 こんなシーン見られたら、恥ずかしくて生きていけない。

「つけたよ」
「ありがと」

 振り返って首元を見た後に、自分を指差す。

「似合う?」
「可愛いよ」

 他に立見客もいるのに、何でそんな歯が浮くような台詞を言えるんだろう。
 恥ずかしいからやめてって、言葉に出さず、直接脳内に語りかけたい。

「指輪もしよっと」

 取り出すと、斉藤くんが手の平を上に向けた。

「俺がはめるよ。ちょうだい、それから手ぇ出して」
「う……うん」

 結婚式みたいなんだけど!
 どっちの手を出すか、試されているんだろうか。

 迷っている姿も見られたくなくて、さっと左手を出す。

「そっちなんだ」
「特別感あるでしょ」

 余裕ぶった返事をしながら、引かれていないか表情を探る。
 暗くてよく分からないけれど、軽く笑ってるみたいだし、大丈夫かな。

 ゆっくりと、白く輝く真珠の指輪が私の薬指にするすると通っていく。

「じゃ、この指の予約ってことで」
「いいの? そんなこと言って」
「桜ちゃんこそ。他の予約、入れられないよ」
「望むところだよ」

 左手を少し上に掲げる。
 コロンと揺れる真珠が可愛い。

 そんな私の腰に、さりげなく斉藤くんが手を回した。
 私も、軽く体重をかける。

 恋人同士の甘い空気を堪能しながら、私たちはじっとペンギンを見続けた。
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