2 / 8
第二話 【名前】
しおりを挟む
ココに来てからの事実上の世話係は七宝だった。
零も七宝がいない時には色々してくれたけど私が質問攻めにするのが面倒くさいのか本当に忙しいのか、ふらっと部屋に来てふらっと帰って行くだけだ。誰も居ない間は私は吸い込まれるように眠りについた。
既に私が此処へ来て、いや、私が死んでその時間が動き出してから3日が経った。この窓もないただ白い部屋の中で自分が何者かわからないあやふやな状態であることにも少し慣れた気がする。
「理解できた?」
まあるい輪が4個に区切られていて、区切られた所には“現世”“成仏”“天界”“審判”とそれぞれ書かれている。
これが輪廻転生。
「うーん、七宝とか零は“天界”にずっといるってこと?」
「違う違う。審判で下される転生先が更に別れていて、殆どの人は人間としてまた現世に行くけど、一定数の人は天上に転生するの。だから僕や零は人間じゃない。今は朔希も違うけどね。」
七宝は金色の髪をサラサラと揺らして首を振ると私にわかりやすいように一生懸命説明してくれる。
「ーで、私の存在は現世と成仏の間にあるってことだよね?」
「そう!だから此処で眠っている間は朔希の魂が現世に漂ってて変な夢を見てるみたいになるんだよ。本当は眠ってるんじゃなくて、魂が居場所を失って迷子になってる。」
「なにそれ、、私めちゃくちゃ可哀想じゃん。」
現実味は無いけど、言葉だけ聞くと私って可哀想すぎ、、。死んでも迷子だなんて。
「うん、ごめんね。」
七宝が白い手で頭を撫でてくれる。
「私を落としちゃったのは七宝だけど悪いのは零だよ。」
「ハハッ零は今日探しに行ってくれてるよ。大丈夫。零は有能だから。」
「零自分では“禁忌をおかした落ちこぼれ”って言ってたよ?」
何でだろう?他の羅網を知らないけれど、あんなに綺麗で上品で洗練されてて、アレで落ちこぼれってどういう世界なんだろう。
「あー、それはね、うん、僕からは言えないかな。でも零がそう言うならその通りかも。」
七宝は人差し指で形の良い鼻をポリポリとかいて困った顔をする。一人称を“僕”という七宝は正確にはまだ性別がないのだという。とてもしっかりしているように見えるけど、見た目はどう見てもまだ12、3歳くらい。
中性的なフランス人形みたいに可愛い顔をしていて、零とは違って感情もクルクルとかわるのが愛らしい。
少し困った残念そうな表情がとっても可愛くて、今度は私が手を伸ばして七宝の頭を撫でた。
「ずいぶん仲良くなったんですね。」
音もなく入ってきて、私たちの前に透明なビー玉のような物を置く零
「零!!見つけたんですね!!」
「もちろん。私の本気にかかればね。」
「朔希!コレ、あなたの名前だよ!!覗いて見て!!」
「え、コレが、、?」
恐る恐るその透明な球に手を伸ばすと、触れる寸前に零の手が私の腕を掴んで
「待って下さい朔希」
「?」
「覗くのは夜ベッドに入ってからにした方が良いです。たぶん魂が現世に戻ってしまうので、すぐにこちらへ帰ってこられるとは限りませんよ。」
「!な、なんか怖い、、。」
「でも朔希、名前も記憶も取り戻せるんだよ!?」
七宝はそう言うけれど、何だか怖い。私はどういう人間だったの?どうやって死んだの?家族や、愛していた人たちを遺して死んでしまったんじゃないの?
思い出すと言うことは、自分の過去として実感してしまうこと、、
「零、あなたの言う通り、寝る時にする。ーだから零、その時私と一緒に居て欲しい、、」
私の懇願する言葉に、見上げた零は一瞬目を見開く。正面の七宝がハッとして零を見上げた。けれど一瞬の後には零は何でもないと言う表情に戻っていて、いつも通りの微笑で頷いた。
「ええ、朔希がそう望むなら。」
明かりの落ちた暗い部屋。
ベッドに入った私の祈るような両手の中にある小さな球。
「大丈夫ですよ。それは元々あなたが持っていたものなんですから。」
そっと私の手に重ねられた零の手のひらは優しくて温かい。
ベッドの横に腰掛けて、私を見下ろす零の表情が照明のせいか少し優しく感じた。
いや、私が緊張と不安でいっぱいだからそう見えるのかもしれない。
こくりと頷いた私は、微かに震える手でガラス玉のような物を覗き込んだ。
そして吸い込まれるように体を残して現世に彷徨いでていく。
目を閉じて眠る私の髪の毛に細い指を通して、頬を慈しむように撫でる。
「どうか、思い出して。朔希。ーオレのこと、、」
零は微笑をたたえずに切なげに呟いたのだった。
零も七宝がいない時には色々してくれたけど私が質問攻めにするのが面倒くさいのか本当に忙しいのか、ふらっと部屋に来てふらっと帰って行くだけだ。誰も居ない間は私は吸い込まれるように眠りについた。
既に私が此処へ来て、いや、私が死んでその時間が動き出してから3日が経った。この窓もないただ白い部屋の中で自分が何者かわからないあやふやな状態であることにも少し慣れた気がする。
「理解できた?」
まあるい輪が4個に区切られていて、区切られた所には“現世”“成仏”“天界”“審判”とそれぞれ書かれている。
これが輪廻転生。
「うーん、七宝とか零は“天界”にずっといるってこと?」
「違う違う。審判で下される転生先が更に別れていて、殆どの人は人間としてまた現世に行くけど、一定数の人は天上に転生するの。だから僕や零は人間じゃない。今は朔希も違うけどね。」
七宝は金色の髪をサラサラと揺らして首を振ると私にわかりやすいように一生懸命説明してくれる。
「ーで、私の存在は現世と成仏の間にあるってことだよね?」
「そう!だから此処で眠っている間は朔希の魂が現世に漂ってて変な夢を見てるみたいになるんだよ。本当は眠ってるんじゃなくて、魂が居場所を失って迷子になってる。」
「なにそれ、、私めちゃくちゃ可哀想じゃん。」
現実味は無いけど、言葉だけ聞くと私って可哀想すぎ、、。死んでも迷子だなんて。
「うん、ごめんね。」
七宝が白い手で頭を撫でてくれる。
「私を落としちゃったのは七宝だけど悪いのは零だよ。」
「ハハッ零は今日探しに行ってくれてるよ。大丈夫。零は有能だから。」
「零自分では“禁忌をおかした落ちこぼれ”って言ってたよ?」
何でだろう?他の羅網を知らないけれど、あんなに綺麗で上品で洗練されてて、アレで落ちこぼれってどういう世界なんだろう。
「あー、それはね、うん、僕からは言えないかな。でも零がそう言うならその通りかも。」
七宝は人差し指で形の良い鼻をポリポリとかいて困った顔をする。一人称を“僕”という七宝は正確にはまだ性別がないのだという。とてもしっかりしているように見えるけど、見た目はどう見てもまだ12、3歳くらい。
中性的なフランス人形みたいに可愛い顔をしていて、零とは違って感情もクルクルとかわるのが愛らしい。
少し困った残念そうな表情がとっても可愛くて、今度は私が手を伸ばして七宝の頭を撫でた。
「ずいぶん仲良くなったんですね。」
音もなく入ってきて、私たちの前に透明なビー玉のような物を置く零
「零!!見つけたんですね!!」
「もちろん。私の本気にかかればね。」
「朔希!コレ、あなたの名前だよ!!覗いて見て!!」
「え、コレが、、?」
恐る恐るその透明な球に手を伸ばすと、触れる寸前に零の手が私の腕を掴んで
「待って下さい朔希」
「?」
「覗くのは夜ベッドに入ってからにした方が良いです。たぶん魂が現世に戻ってしまうので、すぐにこちらへ帰ってこられるとは限りませんよ。」
「!な、なんか怖い、、。」
「でも朔希、名前も記憶も取り戻せるんだよ!?」
七宝はそう言うけれど、何だか怖い。私はどういう人間だったの?どうやって死んだの?家族や、愛していた人たちを遺して死んでしまったんじゃないの?
思い出すと言うことは、自分の過去として実感してしまうこと、、
「零、あなたの言う通り、寝る時にする。ーだから零、その時私と一緒に居て欲しい、、」
私の懇願する言葉に、見上げた零は一瞬目を見開く。正面の七宝がハッとして零を見上げた。けれど一瞬の後には零は何でもないと言う表情に戻っていて、いつも通りの微笑で頷いた。
「ええ、朔希がそう望むなら。」
明かりの落ちた暗い部屋。
ベッドに入った私の祈るような両手の中にある小さな球。
「大丈夫ですよ。それは元々あなたが持っていたものなんですから。」
そっと私の手に重ねられた零の手のひらは優しくて温かい。
ベッドの横に腰掛けて、私を見下ろす零の表情が照明のせいか少し優しく感じた。
いや、私が緊張と不安でいっぱいだからそう見えるのかもしれない。
こくりと頷いた私は、微かに震える手でガラス玉のような物を覗き込んだ。
そして吸い込まれるように体を残して現世に彷徨いでていく。
目を閉じて眠る私の髪の毛に細い指を通して、頬を慈しむように撫でる。
「どうか、思い出して。朔希。ーオレのこと、、」
零は微笑をたたえずに切なげに呟いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる