捨てたいキミ、拾いたい僕。

ふじのはら

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三話 時間

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川原かわはら、またさぼり?」
草を踏む音に振り返った顔が驚きもせず言った。黒い髪が風にサラサラと揺れている。
和倉わくらは?休み?」
少し離れて座ったオレの言葉に「あー、まぁね、、」と曖昧に答えた和倉は、うーんと伸びをしてその場に寝そべった。

たびたび来ては踏み固めた背の高い草はすっかり倒れて、まるで川を眺めるための絨毯のようになっていた。
それは小さな頃に近所に作った秘密基地のようで懐かしく妙にホッとする場所だ。

目を閉じて寝そべる和倉を見る。腕を頭の下に敷いて枕にしているせいで、シャツの裾から腹が見えていた。
「和倉なんか少し痩せた?」
「えー、わかんない。川原よりは痩せてないよ」
目を開けるとオレを見て笑う。

和倉の言う通り、オレの方が細い。腕や足も細過ぎて肌を出す事に抵抗がある程だ。肌の色も白過ぎる。
「オレはこれから肥える予定なんだよ」
投げやりに返せば、「ふーん」と言って和倉はまた目を閉じた。

髪の毛と同じ黒いまつ毛が長く、思わず無遠慮に観察してしまう。
俺より背が高く、ほっそりとしている和倉は整った顔をしている。けれど本気で笑うところを見たことはまだなかった。オレの目に映る和倉は、影があってどこか寂しげで、とても不安定に見えた。

「川原、学校そんなサボって平気なの?」
目を閉じたまま和倉が聞く。
「んー。わりとね。親も先生も黙認状態だから」
「なにそれチートかよ」
「まーね」
ー自分だって毎日学校休んでるのに
心の中でそう呟いて、和倉のように寝転ぶと空を見上げた。
ずっと窓越しに見ていた空が見渡す限りに広がっていて、ため息が出そうだ。この空の下にいつまで居られるだろうか、と自由を失うことを恐れたりする。


オレと和倉は夏から秋にかけてこの場所でよく一緒に過ごした。
約束をしていたわけでも何でもない。それどころか、ただ同じ場所で過ごしただけで、特別何かを話したわけでもないし、特に仲良くなったわけでもない。
ただ時間を共有していただけだ。
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