【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

文字の大きさ
1 / 60
第一章 女王と五人の王子たち

1:女王エリザベス

しおりを挟む


「アシュリー、私の話し相手として城に来てはくれないかしら?」

ブルック王国の女王であるエリザベスは、アシュリーの母マーズの墓参りの後でオーグナー伯爵邸を訪れて言った。

エリザベスは年に最低二回は墓参りをし、その足で必ず、ローズの夫であるモーグナー伯爵と長女アシュリー、次女ペニーの様子を伺いに来てくれる。
今年十七歳になるアシュリーは、黒髪にグリーンの瞳といういで立ちで、亡き母マーズにとてもよく似ていた。

「女王陛下、それは一体どのような御意向でしょうか?」

四人で談笑中にエリザベスのした突然の発言に、驚きながらもアシュリーの父が口を開いた。

「私の子どもは男ばかり五人だし、女の話し相手が欲しいのよ。年々マーズに似てくるアシュリーを見ていたら、マーズを思い出して懐かしいしね」

「そうゆうことなら是非、城に通わせましょう」

お茶を啜りながら昔を懐かしむように言う女王に、伯爵は笑顔で快諾する。

「いえ、城に住んで欲しいのよ。そうね……侍女としてそばにいて貰うのはどうかしら?」

この国の王であるエリザベスは、現在四十五歳である。158cm、58kgとややぽっちゃりした体型で、一見"町のおばちゃん"という見た目だ。
しかし、なんとも言えない独特のオーラがあり、とても貫禄があった。

「えっ……!?」

黙って話を聞いていたアシュリーは思わず驚きの声が漏れ、すぐに口を手で塞いだ。
そんなアシュリーを見て微笑んだ女王エリザベスは、オーグナー伯爵を見て尋ねる。

「伯爵、今のこの領地の一番の問題点は何だと考えているかしら?」

「えっ、はっはい、今年は農作物も豊作ですし、今は特に問題は見当たらず順調です。なので、これが維持できるように領主として精一杯努める所存でございます」

「そう。領地が落ち着いていて何よりだわ」

「はい、ありがとうございます」

突然の質問に驚きながらもすぐに答えた伯爵との会話の後、女王エリザベスは再びアシュリーを見て口を開いた。

「アシュリー、あなたはこの領地の一番の問題点は何だと考えているかしら?」

「えっ……!?」

再び驚きに声が漏れたアシュリーだが、今度は口を手で覆う余裕はなく、口をポカンと開けている。
いつも女王エリザベスは、会う度にアシュリーに色々と質問をして来る。
その内容は、ただの近況から始まり、ここ数年は知識や思考を問うようなことを尋ねてくるようになっていた。

アシュリーはグッと口を一旦つぐんだ後、緊張しながら口を開いた。

「私は、子どもや若い人が少ないことが問題だと考えています」

「少ないの?」

「はい。昨年領地で亡くなった人数は十人なのに対し、産まれた子どもは三人です。そして、十五歳から五十五歳までの働き盛りの人数の割合は、年々減少しています」

「それは何故だと考えているの?」

「若い世代に領地を出る人が多いからです。ここオーグナー領は農耕が主です。しかし隣のラングール領は、王都に隣接していることもあり、商業が盛んで活気があります。そのラングール領へ若い世代が移住するケースが多発しているのです」

「そう……では、ここオーグナー領はどうするのかしら?」

伯爵は二人の会話を眉を顰めて聞いている。
いつもアシュリーと意見交換をしている二つ下で十五歳のペニーは、アシュリーの横で大きく頷きながら聞いていた。

「はい、ここオーグナー領も農耕のみに頼る時代は終わるべきだと考えております。農業は気候にも影響され易く不安定です。他の収入源を作ることで領地の安定と領民の安心にも繋がり、領地の活性化にも繋がると考えています。具体的内容については現在ペニーと考えているところで、意見が纏まり次第、父へ提案しようと考えていたところです」

アシュリーは、結論の出ていないあやふやなことは言わなかった。
そこもまた、女王エリザベスは好ましく感じる。ニコッと笑い、再びモーグナー伯爵を見て言う。

「いずれここの領地はアシュリーかペニーが継ぐ予定なのよね。姉妹二人で切磋琢磨しながら勉強をしている様子を、私はいつも女王として心強く思いながら見ています。男児はいなくても、ここオーグナー領は安心ね」

「……はい、二人とも妻に似て聡明に育ってくれております……」

面目なく居心地が悪そうに、伯爵は苦笑いで言った。

「アシュリーがそばにいてくれたら、私はとても嬉しいわ。城での生活は学びも多いと思うわよ? アシュリー、どうかしら?」

アシュリーは目を輝かせる。

「……お父様さえよろしければ、私は是非行きたいです」

アシュリーは父の顔を伺う。
伯爵は駄目だなどと言えるわけがないなかった。

「陛下、アシュリーをよろしくお願いいたします」



アシュリーは領地経営を学ぶにつれ、王都や城への興味関心は増していた。
そしてしばしば来訪してくれて母の親友だった、ここブルック王国の現トップに君臨するこの女性に対しても、関心が増すばかりだったのだ。

(城や王都での生活……楽しみだわ。勉強にもなるはず。将来領地に還元できる知識を身に付けたいわ。それに、お母様の話も聞く機会があると良いな……)

アシュリーはそのようなことを思いながら、初めての領地を出ての新しい生活に心を躍らせた。



こうして、アシュリーは女王エリザベスの侍女として城で生活することとなったのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...