2 / 60
第一章 女王と五人の王子たち
2:本当の目的
しおりを挟む「女王陛下、本日よりよろしくお願いいたします」
城入りしたアシュリーは、女王エリザベスの部屋で深々と頭を下げていた。
緊張のあまり身体はカチコチで思うように動かない。
「こちらこそよろしくね。もう一人の侍女を紹介するわね」
そう言って女王エリザベスは、アシュリーより三歳年上で現在二十歳の、無表情で静かに佇むセリーナを紹介した。
金髪をキッチリ後頭部でお団子にし、薄い茶色の瞳に(意志が強そうだ)とアシュリーは感じた。
元々エリザベスは、乳母をそのまま侍女としてそばに置き続けていた。
三年前にその乳母が他界し、亡き夫の親戚の娘である伯爵令嬢セリーナを侍女として迎え入れた。
エリザベスはあまり人をそばに置きたがらず、今回二人目の侍女としてアシュリーが城入りしたことを、皆が驚いているのだった。
「セリーナ、アシュリーに話があるから席を外してくれるかい?」
「はい。失礼いたします」
そう言い、お手本のような綺麗なお辞儀をしてセリーナは部屋を出て行く。
「セリーナの常に冷静で無駄口を叩かない、口の堅いところを気に入っているのだよ。根は優しくて良い子だ。色々相談に乗ってくれると思うし、ここでの姉だと思って頼ると良いよ」
「はい」
緊張していたアシュリーは、歳の近いセリーナの存在に少し"ホッ"とした顔をした。
「ふふっ。やっと少し緊張が解れたかしら?」
「あっ、はいっ……」
エリザベスの心遣いにアシュリーは温かい気持ちを感じ、思わず微笑む。
「実は侍女というのは建前で、アシュリーに城へ来てもらったのには理由があるのよ。頼みがあるの」
「えっ? それは一体……」
椅子に座ってお茶を飲んでいるエリザベスの横で、アシュリーは驚いた顔で直立している。
物事に動じず感情の読めないセリーナとは真逆で、アシュリーは感情が全て顔に出てしまっていた。
それを面白く感じながら、エリザベスは口を開く。
「ふふっ。まだ王子たちにしか話していないことだから、内密にしてね。実はね…最近物忘れが酷いの。それが、私の母の病気の始めとよく似ているのよ」
エリザベスは苦笑いをしながらそう言った。
アシュリーは目と口をポカンと開けて固まってしまう。
エリザベスの母親である前王妃は、若くして物忘れを生じてしまう病気を患ってしまった。
徐々に病状が進行し人格が変わってしまい、何年もの間エリザベスが面倒をみたという話は、この国では知らない人がいないほど有名な話だった。
この話は、この国初めての女王が国民に祝福されるきっかけともなったエピソードでもあり、"王女は優しく情に厚い素敵な人柄だ"と国中に広まったのだ。
ちょうどその時、ブルック王国は戦争には何とか勝利したが、城まで攻め込まれた。
王太子が戦死し、国王はその時の傷が癒えず合併症を生じて数週間後に亡くなった。
そのような中、王太子の妹であり王妃を看取ったばかりのエリザベスを、国王は息絶える前に次期国王に任命した。
男児が一人しかいなかったため国王には元々その考えがあり、エリザベスは念の為に密かに教育を受けていたのだ。
こうして王女エリザベスは、女王エリザベスとして国のトップに立つこととなる。
そしてエリザベスは、幼い頃より交流のあった公爵家の次男であり、騎士トップに瞬く間に上り詰めたローレンとの婚姻を決めた。
彼は腕の怪我で、騎士として最前線で動けなくなったところだった。
エリザベスは、密かに想いを寄せていたローレンを生涯の伴侶とすることが出来、更にそばで自分の頭脳の手助けをしてくれるという、理想の人生を手に入れたのだ。
「私は本当に恵まれた人生だったと思うわ。産まれの家族にも恵まれ、好きな人と結婚できて添い遂げられ、その人との子どもを五人も産むことが出来た。国も戦争に勝ち続け、守り抜くことが出来ているわ」
エリザベスはやや遠くを見る目で言った。
(ローレン殿下のことを想っていらっしゃるのかしら……)
アシュリーはエリザベスの哀愁漂う表情から、そう思った。
ローレンは一年前に四十二歳の若さでこの世を去ったのだ。
急な事故死だった。
エリザベスはバッと顔を上げてアシュリーを見た。
「それでね、本格的に次の国王を選ぼうと思うの」
「はい」
それは何も驚くことのない話だった。
「私には、幸せなことに五人も王子がいるのよね。誰を次期国王にするか、選ぶのをアシュリーにも一緒に手伝って貰いたいのよ。アシュリーを城に呼んだ本当の理由はこれよ」
「えっ!?」
これには驚き、思わずアシュリーは声を発してしまう。
「えっ、あのっ……私なんかが、そんな……」
アシュリーのその言葉を聞いた瞬間、エリザベスは厳しい女王の顔となった。
「自分を蔑む発言は私の前ではしないと約束して」
エリザベスは、ビシッとそう言う。
アシュリーは思わず"ビクッ"と身体を震わせた。
しかし、すぐに表情を崩してエリザベスは言った。
「アシュリー、私はずっとあなたのことをマーズの娘としてしか見ていなかったわ。でもね、あなたは会う度に、どんどん良い瞳をするようになって行っていたのよ。次第に私は、あなたの瞳がずっと脳裏に焼きつくようになったの。更に、どんどん賢くなっていくし、あなたの成長が楽しみで仕方なかったの」
そう言って笑うエリザベスを見ながら、アシュリーは思った。
(優しさと厳しさを併せ持ち、常に全体を把握しながら物事を判断されていらっしゃるのね……。屋敷を訪れて下さる度に色々質問されていたのは、私を試されていたのね……)
戸惑いの表情を浮かべているアシュリーには気にも止めず、エリザベスは続ける。
「このようなことを頼める人、あなたしか思いつかなかったの。頼めるかしら?」
急に下手に出たエリザベスだが、既に入城しており女王直々の頼みなのだ。
アシュリーに拒否権などある訳がなかった。
「精一杯お役に立てるように頑張ります。何なりとお申し付け下さいませ」
(やるしかないわ!)
アシュリーは覚悟を決めたのだった。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる