【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第一章 女王と五人の王子たち

2:本当の目的

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「女王陛下、本日よりよろしくお願いいたします」

城入りしたアシュリーは、女王エリザベスの部屋で深々と頭を下げていた。
緊張のあまり身体はカチコチで思うように動かない。

「こちらこそよろしくね。もう一人の侍女を紹介するわね」

そう言って女王エリザベスは、アシュリーより三歳年上で現在二十歳の、無表情で静かに佇むセリーナを紹介した。
金髪をキッチリ後頭部でお団子にし、薄い茶色の瞳に(意志が強そうだ)とアシュリーは感じた。

元々エリザベスは、乳母をそのまま侍女としてそばに置き続けていた。
三年前にその乳母が他界し、亡き夫の親戚の娘である伯爵令嬢セリーナを侍女として迎え入れた。
エリザベスはあまり人をそばに置きたがらず、今回二人目の侍女としてアシュリーが城入りしたことを、皆が驚いているのだった。

「セリーナ、アシュリーに話があるから席を外してくれるかい?」

「はい。失礼いたします」

そう言い、お手本のような綺麗なお辞儀をしてセリーナは部屋を出て行く。

「セリーナの常に冷静で無駄口を叩かない、口の堅いところを気に入っているのだよ。根は優しくて良い子だ。色々相談に乗ってくれると思うし、ここでの姉だと思って頼ると良いよ」

「はい」

緊張していたアシュリーは、歳の近いセリーナの存在に少し"ホッ"とした顔をした。

「ふふっ。やっと少し緊張が解れたかしら?」

「あっ、はいっ……」

エリザベスの心遣いにアシュリーは温かい気持ちを感じ、思わず微笑む。

「実は侍女というのは建前で、アシュリーに城へ来てもらったのには理由があるのよ。頼みがあるの」

「えっ? それは一体……」

椅子に座ってお茶を飲んでいるエリザベスの横で、アシュリーは驚いた顔で直立している。
物事に動じず感情の読めないセリーナとは真逆で、アシュリーは感情が全て顔に出てしまっていた。
それを面白く感じながら、エリザベスは口を開く。

「ふふっ。まだ王子たちにしか話していないことだから、内密にしてね。実はね…最近物忘れが酷いの。それが、私の母の病気の始めとよく似ているのよ」

エリザベスは苦笑いをしながらそう言った。
アシュリーは目と口をポカンと開けて固まってしまう。

エリザベスの母親である前王妃は、若くして物忘れを生じてしまう病気を患ってしまった。
徐々に病状が進行し人格が変わってしまい、何年もの間エリザベスが面倒をみたという話は、この国では知らない人がいないほど有名な話だった。

この話は、この国初めての女王が国民に祝福されるきっかけともなったエピソードでもあり、"王女は優しく情に厚い素敵な人柄だ"と国中に広まったのだ。

ちょうどその時、ブルック王国は戦争には何とか勝利したが、城まで攻め込まれた。
王太子が戦死し、国王はその時の傷が癒えず合併症を生じて数週間後に亡くなった。
そのような中、王太子の妹であり王妃を看取ったばかりのエリザベスを、国王は息絶える前に次期国王に任命した。
男児が一人しかいなかったため国王には元々その考えがあり、エリザベスは念の為に密かに教育を受けていたのだ。

こうして王女エリザベスは、女王エリザベスとして国のトップに立つこととなる。

そしてエリザベスは、幼い頃より交流のあった公爵家の次男であり、騎士トップに瞬く間に上り詰めたローレンとの婚姻を決めた。
彼は腕の怪我で、騎士として最前線で動けなくなったところだった。
エリザベスは、密かに想いを寄せていたローレンを生涯の伴侶とすることが出来、更にそばで自分の頭脳の手助けをしてくれるという、理想の人生を手に入れたのだ。

「私は本当に恵まれた人生だったと思うわ。産まれの家族にも恵まれ、好きな人と結婚できて添い遂げられ、その人との子どもを五人も産むことが出来た。国も戦争に勝ち続け、守り抜くことが出来ているわ」

エリザベスはやや遠くを見る目で言った。

(ローレン殿下のことを想っていらっしゃるのかしら……)

アシュリーはエリザベスの哀愁漂う表情から、そう思った。
ローレンは一年前に四十二歳の若さでこの世を去ったのだ。
急な事故死だった。

エリザベスはバッと顔を上げてアシュリーを見た。

「それでね、本格的に次の国王を選ぼうと思うの」

「はい」

それは何も驚くことのない話だった。

「私には、幸せなことに五人も王子がいるのよね。誰を次期国王にするか、選ぶのをアシュリーにも一緒に手伝って貰いたいのよ。アシュリーを城に呼んだ本当の理由はこれよ」

「えっ!?」

これには驚き、思わずアシュリーは声を発してしまう。

「えっ、あのっ……私なんかが、そんな……」

アシュリーのその言葉を聞いた瞬間、エリザベスは厳しい女王の顔となった。

「自分を蔑む発言は私の前ではしないと約束して」

エリザベスは、ビシッとそう言う。
アシュリーは思わず"ビクッ"と身体を震わせた。

しかし、すぐに表情を崩してエリザベスは言った。

「アシュリー、私はずっとあなたのことをマーズの娘としてしか見ていなかったわ。でもね、あなたは会う度に、どんどん良い瞳をするようになって行っていたのよ。次第に私は、あなたの瞳がずっと脳裏に焼きつくようになったの。更に、どんどん賢くなっていくし、あなたの成長が楽しみで仕方なかったの」

そう言って笑うエリザベスを見ながら、アシュリーは思った。

(優しさと厳しさを併せ持ち、常に全体を把握しながら物事を判断されていらっしゃるのね……。屋敷を訪れて下さる度に色々質問されていたのは、私を試されていたのね……)

戸惑いの表情を浮かべているアシュリーには気にも止めず、エリザベスは続ける。

「このようなことを頼める人、あなたしか思いつかなかったの。頼めるかしら?」

急に下手に出たエリザベスだが、既に入城しており女王直々の頼みなのだ。
アシュリーに拒否権などある訳がなかった。

「精一杯お役に立てるように頑張ります。何なりとお申し付け下さいませ」

(やるしかないわ!)

アシュリーは覚悟を決めたのだった。



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