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第一章 女王と五人の王子たち
3:決意
しおりを挟む城入りしたばかりのアシュリーだが『どうしても』とお願いし、翌日に休みを貰いブルック領へ戻った。
エリザベスが騎士に送迎を依頼してくれたため、馬に二人乗りで信じられないスピードで帰ることが出来た。
そのため、通常の馬車の1/5程度の時間で、用事だけ済ましてトンボ帰りをすることが出来たのだった。
「女王陛下、わがままを聞いて下さり大変ありがとうございました」
「ああ、アシュリー、お帰り。目的は果たせたのかしら?」
書斎で書類に目を通していたエリザベスは、掛けていた丸い眼鏡を外して微笑みながら言った。
「はい。陛下、よろしければこちらをお使い下さいませ」
二人きりの室内だったが、無意識にアシュリーは小声で言う。
「何かしら?……ノート?」
アシュリーが両手で差し出しているノートを不思議そうに眺めながら、エリザベスは言った。
「はいっ! 実は我がブルック領にも、若くして物忘れを患っている人がいるのです。その人は工夫をしながら一人暮らしをしていて、何か陛下にお役に立てることはないかと話を聞いて参りました!」
いつもよりも少し近い距離で小声でコソコソと話すアシュリーの顔を見ながら、エリザベスは驚いた顔をしている。
「それで、普段からメモを取る癖をつけていると言っていました! なので、もしよければそのノートをメモや日記帳代わりにお使い下さい。実は最近、我がブルック領では新しい産業に出来ないかと、紙製品の製作に力を入れているのです。それは、本棚に並べると一見本に見えるとても丈夫なノートなのです。もしよろしければお使い下さいませ」
アシュリーはそう言ってニッコリと笑った後、急にハッとして付け足す。
「あっ、勿論無理にとは申しません! もしよろしければ……」
(女王陛下相手に図々しかったかしら……?)
アシュリーが急に気弱になっていると、エリザベスの笑みが溢れた。
「ふふっ。アシュリーは本当に、賢いだけではなくて優しいわね。あなたのグリーンの瞳には強さだけでなく、優しさや暖かさが灯っているのを感じるのよ。だから惹かれたの。目を見れば大体その人がわかるものだけれど……今回も当たっていたわね」
エリザベスはそう言うとアシュリーの手からノートを受け取って続ける。
「ありがとう。今はまだそこまでではないから、必要性を感じるようになったらこのノートを使わせて貰うわね。それまではお守りとして大事に持っておくわ」
アシュリーはエリザベスのその言葉に、温かいものが胸に広がるのを感じた。
(ああ、陛下は素敵なお方だわ……)
アシュリーは五歳の時に母親を亡くしている。
少ない母親の記憶の中に、エリザベスと楽しそうにおしゃべりをしている光景があるのだ。
(お母様の親友だから素敵な人に違いないとは思っていたけれど、本当に素敵なお方だったわ! お父様から、お母様がいつも陛下の手助けが何か出来たら良いのにと言っていたと聞いているわ。私がお母様の代わりに陛下の手伝いをする!!!)
アシュリーは改めて、そう心に決めたのだった。
決意を新たにしているアシュリーの横で、エリザベスも女王の顔で口を開く。
「アシュリー、今後の計画について話すわね」
エリザベスは、国王選びの話をする時は書斎にアシュリーを呼んで二人きりで話しをすることとした。
今も書斎に二人きりだ。
セレーナや周りの者達には、"アシュリーは親友の娘であり、侍女だけではなく話し相手も兼ねている"と説明してある。
「はい、陛下」
アシュリーは机を挟んでエリザベスの目の前に立ち、『さあ、来い!』と言わんばかりの表情でジッとエリザベスを見つめている。
「……実は、大した計画はないのよ。アシュリーに王子五人全員と接触をして貰って、どう感じたのかを正直に教えて貰いたいだけなの」
エリザベスは苦笑いをしてそう言った。
「へっ……?」
何を言われるのかと身構えていたアシュリーは、思わず肩透かしを喰らったように感じてしまい、間抜けな声を出してしまう。
「ただ一つ、約束をして欲しいの」
「はっ、はい! 何でしょうか?」
アシュリーは、拍子抜けした顔を再び引き締める。
「絶対に、私には嘘をつかないこと」
「はい、わかりました!」
アシュリーはハッキリと返事をした。
それは信頼関係を築く上で、当然のことだと思っていた。
こうして、アシュリーの王子たちとの接触が開始されることとなった。
まず始めに会うこととなったのは、第一王子アダムだ。
「先入観を持って欲しくないから、前もっての情報提供は最低限にするわね」
「はい、それでよろしくお願い致します」
「長男アダムは……んー。やっぱりやめるわ。情報は名前のみ!」
「えっ!?」
エリザベスはケロッとそう言い放った。
伯爵令嬢であるアシュリーは、パーティーなどで来城した際に親に伴われて、王子たちに挨拶をしたことはあった。
そのため、王子たちの顔と名前くらいはなんとなくは知っている。
つまり、新たな情報はゼロということだ。
(仕方ないわね。先入観は人を見誤るものだしね! 私は感じたことをそのまま正直に女王陛下へお伝えすれば良いだけよね!)
アシュリーは小さくガッツポーズを作り、そう自分を鼓舞したのだった。
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