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第一章 女王と五人の王子たち
10:第三王子ヴィクター②
しおりを挟むそのあとすぐに、途中やめをしていた花をいけに戻ったアシュリーだったが、心ここにあらずという様子で、中々作業が進まなかった……ーーー
(あのようにきちっとした方があんな悪戯小僧のような笑顔を……反則よ!!!)
熊のような男性には動じないが、綺麗な男性に免疫の乏しいアシュリーは、ついつい動じてしまうのだった。
その夜エリザベスは、約一カ月ぶりに息子に会えたことが嬉しいのか、いつもよりも本当の笑顔を浮かべていた。
「ヴィクターのことをどう思ったかしら?」
エリザベスから王子の第一印象を問う質問を受けるのは三回目だが、今回はスムーズに言葉が出て来なかった。
「……」
アシュリーが言葉に窮している様子を、エリザベスはジーっと面白そうに見ている。
「……よく、わかりませんでした」
少しの間の後、アシュリーはそう言った。
「陛下のことを大切に思っていることは感じましたが……」
何故だかアシュリーは、ヴィクターのことを客観的に見ることが出来ていなかった。
「ふふっ。そう」
「申し訳ありません……」
何も役立つことを言えずにアシュリーは申し訳なく思う。
しかしエリザベスは、何やらニヤニヤしている。
「ふふっ。いいのよ。今日は本当に挨拶だけだったものね。ヴィクターはあの通り国王になることには関心がなくて、サンブルレイド公爵の養子になって跡を継ぎたいと思っているのよ。ただ次期国王さえ決まっていない現状で、それを簡単に許可することは出来ないけれどね」
そう言ってニッコリと笑うエリザベスを見ながら、アシュリーは当然の疑問を抱く。
(サンブルレイド領は国境に位置し、地形からも侵略を受けやすい大変な地域だと聞くわ。何故公爵の養子に入ってまで、あとを継ぎたいのかしら……?)
しかしアシュリーは、エリザベスに尋ねることはしなかった。
(その人を知るには、大切なことは他人からではなく本人から直接聞くべきだわ)
そう思ったからだ。
何も聞いてこないアシュリーに、エリザベスは微笑みを浮かべる。
「私が居る場では王子の本性は見えにくいわ。今度は、二人でゆっくり会ってもらう機会を作るわね」
エリザベスにそう言われたアシュリーは、何故か咄嗟に顔が熱を帯びるのを感じた。
(二人で会う……)
アシュリーは、なぜ心がザワザワと落ち着かないのか、自分でもわからないのだった……
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