【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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第二章 シャインブレイド

4:イーサンと草原にて②

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アシュリーが草原のイーサンが見える所まで辿り着いた時、ちょうどイーサンが立ち上がるのが見えた。

(いやー、待ってー!!!)

「イーサン殿下ー!!!」

息を切らしながら、何とかそれだけを叫ぶ。
脚はもうガクガクだ。

(すっかり体力が落ちてしまったわ……)

アシュリーの声に立ち止まり振り返ったイーサンを見ながら、アシュリーはそんなことを考えていた。

「ああ、えっと……アシュリーだったな」

「はいっ! こんにちは! ゼエゼエ、ハアハア……」

イーサンの目の前で、両膝に両手を置いて乱れた息で呼吸をしているアシュリーの後頭部を見ながら、イーサンは急に笑った。

「ふっ。それほど急いで来たのか? 伯爵令嬢がそれほど息を切らしているところを初めて見た。ははっ」

(普通に笑えるんだ……)

そんな失礼なことを考えながら、アシュリーは一生懸命に呼吸を整えようとしている。

「はあ、はあ……。はい、お会いしたかったのです……。はい、お急ぎですか?……はあ、はあ……」

「いや、今日はスケジュールに余裕がある。全く急いではいない。アシュリーも時間があるのなら、最近の陛下の様子を教えてくれ」

もう真顔に戻っているイーサンは、先ほどまで座っていた場所に再び腰を下ろした。

「はい、是非っ!」

「話しにくいから座れ」

「はっはい! 失礼いたします」

アシュリーはおずおずと、イーサンの隣1mに腰を下ろした。

「で、私に何の用だったのだ?」

「あっ、先日お会いした時に、陛下の様子を知らせて欲しいと仰っていたので、取り敢えず一度お話が出来たらと思ったのです」

「陛下に何かあったのか!?」

「あっ、いえ……現状をお伝えしていた方が、今後変化があった際にお伝えし易いと思っただけです……」

イーサンはホッとした顔をした。その顔を見て、アシュリーもホッとする。

「そうか。何かあった訳でないのならよかった。で、現在の状況とは?」

「はい。日常生活や仕事への影響は明らかではありませんが、少しずつうっかりした場面が見受けられるます」

「"うっかり"か……」

「はい……。人に貸したことを一瞬忘れてはすぐに思い出すといったことが、本日もありました」

「そうか……病は確実に芽を出して来ているのだな……」

変わらない真顔で何やら考え込んでいる様子のイーサンに、アシュリーは思い切って声をかける。

「あっあの、王子殿下方は大変仲が良いと伺いました。他の王子殿下と、陛下のお話をなさったりすることはありますか?」

「ああ、勿論ある。特に兄上のもとには定期的に訪ねるようにしているし、兄上と話すことが一番多いな」

「ああ、やはりご長男ですものね……」

アシュリーはイーサンがアダムを訪ねる理由を"長男だから"だと捉えて、そう言った。
しかしイーサンは肯定も否定もせずに、無表情で前を見ている。

「……イーサン殿下? どうかされましたか?」

「いや……。陛下も兄上も、体調が心配だからな……」

「ご兄弟で情報共有をなさっているのですね」

「それは勿論だ……。俺は第二王子だ」

淡々と真顔で言うイーサンだが、アシュリーは発言の中に"含み"を感じた。

「……第二王子殿下だから、何ですか?」

「えっ?」

アシュリーの質問に、イーサンは驚いた顔をしてアシュリーを見た。

「……失礼でしたら申し訳ありません。続きがあるように感じましたので……」

イーサンは驚いた顔のまま、少し思考を巡らせているようだ。

「さすがだな。陛下の親友マーズ様のご令嬢……。陛下から、マーズ様は"とても賢くて器量も良い、自分が唯一憧れる女性だ"と聞いている。アシュリーはしっかりとその血を受け継いでいるようだな」

イーサンは"ニッ"っと口角を僅かにあげて笑った。
目も少し笑っているようにも感じる……。

(陛下はお母様のことをそのように王子殿下方に伝えて下さっているのですね……!?)

アシュリーは僅かな記憶しか残っていない母マーズに対する賛辞が、嬉しくて嬉しくて、身体中が暖かくなるのを感じた。


「……会話の内容は、全て陛下に報告するのか?」

イーサンはもう真顔に戻り真面目にそう言うので、アシュリーも緩みかけていた頬を引き締める。

「……話した方が良いと思うことは報告いたします」

「そうか……」

少しの間があく。
この小高い草原からは武術練習場がよく見える。

(今度から、何かあればここからイーサン殿下の様子を伺えば良いわね……)

アシュリーがそう思いついた時、イーサンが
口を開いた。

「……私は第二王子だ。兄上が王位継承出来なければ、またはしなければ、次の候補は私だ」

アシュリーは目を見開き、"バッ"とイーサンの顔を見た。
イーサンは変わらず、武術練習場の方を真顔で見ている。

「……次期国王におなりになりたいのですか……?」

アシュリーは"ゴクリ"と一つ唾を飲んでから尋ねた。

「兄上は素晴らしいお方だ。王になる器もあると思う。だが、病弱な国王では悪人が付け入る隙も多く、国が不安定になってしまう。国民も安心出来ないだろう」

イーサンは視線をそのままにそう言うと、立ち上がった。
そしてアシュリーを見て言った。

「そろそろ戻る。何かあれば、またいつでも来てくれ。連絡をくれれば私からも会いに行く」

アシュリーは去るイーサンの大きく広い背中を見つめながら思った。

(王子殿下方は、陛下の耳に入れたくないことを私には言わないはず。イーサン殿下は伝えるかどうかをわざわざ確認してから言ったということは、陛下に伝えて欲しくてわざと私に言ったに違いないわ……)





その夜、アシュリーはエリザベスへ報告した。

「一つ気になったのです。イーサン様なら、陛下へ直接お話になるのではないかと思いまして……」

書斎でいつものようにエリザベスの机の前に直立して、アシュリーは言う。

「言って来たことはあるのよ」

「えっ?」

真顔で言うエリザベスに、アシュリーは少し驚いたが、すぐに(やっぱりそうなのね)そう思った。

「けれど私は、"次期国王は私が決める"それだけを伝えて、話をそこで打ち切ったの。だからイーサンは、私にはもう直接言って来ないのよ。ふふっ。空気も読む子なの」

最後はわざとふざけた様にエリザベスは言った。

「やはりまだ、同じ考えなのね……」

エリザベスはそう呟くと、少し目を伏せた。
目の下にはクマが出来ている。

「陛下、お疲れなのではありませんか?」

「ええ、少しね。最近噂話がよく耳に入ってくるの……」

エリザベスはそう言って、アシュリーを見て苦笑いした。

「噂話?」

「ええ、国民の間でも、次期国王に誰がなるのかという関心が増えているようなの。……皆を不安にさせているようね……」

「そうなのですね! 私も少しでも多く情報を聞き出せるように頑張ります!」

アシュリーは思った。

(ゆっくりしてられないわ)










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