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第二章 シャインブレイド
8:サンブルレイド領④:ヴィクターの想い
しおりを挟む「アシュリー、最近母上の様子はどうだ?」
観念したアシュリーがお茶を淹れてヴィクターに出すと、一つしか淹れなかったことを咎められたため、自分の分も淹れてテーブルを挟んでヴィクターの前にアシュリーが座ったところで、そう話しかけられた。
(人前では出来ない話ですものね。殿下は尋ねるのを夜まで待っていたのね……)
ヴィクターの真面目な顔を見てアシュリーはそう感じながら、お決まりの内容を答える。
「お元気にされています。日常生活や公務にも明らかな影響はないようです。ただ、うっかりした、ちょっとした物忘れは時折見られます」
「そうか……母上は、気を落とされてはいないか?」
「……はい、今のところは。私には見せていないだけかもしれませんが」
「後継者については何か聞いているか?」
「えっ!? 私にそのような大切な話をされる訳がありません!」
急な質問にアシュリーは驚き、やや慌ててしまう。
まさか、国王になることに興味関心のないヴィクターにその質問をされるとは思っていなかったため、油断した。
(いえ、自分がなることに興味関心がないからこそ、ストレートに尋ねられるのかもしれないわね……)
アシュリーはそう考えながら、落ち着こうとお茶を一口啜る。
「母上がこのタイミングでアシュリーを城へ呼んだんだ。何か意図があるとしか思えないだろ? 俺は見ての通り、サンブルレイドのただの騎士だ。後継争いなど全く関心がない。俺はここの土地をおさめて行きたいのだ。だから、さあ、話してみろ」
"ニッ"と、またしても悪戯っぽく笑うヴィクターに、アシュリーは心臓が大きく波打つのを感じた。
(本当に一晩も、私の心臓はもつのかしら……?)
アシュリーは"はあっ"と小さくため息をついてから、口を開く。
「私なんかが、時期国王選びに関与する訳がないではありませんか。私はご病気になられた陛下の話し相手として呼ばれただけです。私はどんどん母に似ているそうですから、それもあるのでしょう」
「そうか。けどまあ、アシュリーが信用出来る人間だということは間違いないな。母上は信用出来る人間しかそばに置かない」
「……そう思っていただけているのなら、幸いです」
女王に信頼されて良い気がしない訳がない。その自信が、王子たち相手にも物怖じせずにいられている一因でもある。
「俺に聞きたいことはあるか?」
ヴィクターのいきなりの問いに、アシュリーは再び驚いた。
(この人は本当に、突拍子もないわね……)
そこでアシュリーはハッとする。
「あっ、では……もしよろしければ、何故サンブルレイドをお継になりたいのか、教えていただけますか?」
「ああ、そのことか!」
ヴィクターは笑顔をアシュリーに向けながら、話し始めた。
「サンブルレイドが国にとってとても大切な地域だということは、理解してくれているよな?」
「はい」
アシュリーは真面目な顔でヴィクターをジッと見る。
「陛下の夫であり俺の父は、ここサンブルレイド公爵家の次男だ。元はここで騎士をしていて、ゆくゆくは継ぐ予定だった。騎士としての腕も良く、頭も良かったため長男ではなく、父が跡継ぎに選ばれたのだ」
(ローレン殿下は公爵家のご子息だとは聞いていたけれど、サンブルレイド公爵家のご子息だったのね……)
アシュリーは瞬き一つせず、相変わらず丁寧に説明をしてくれるヴィクターを見つめる。
「すると長男は拗ねて、出て行ってしまったのだ。父が戦で負傷しあとを継げなくなったが、長男は戻らなかった。そして今は行方不明だ……悪事に手を染めているという噂もある」
ヴィクターが珍しく眉間に皺を寄せているので、アシュリーもつられて眉間に皺を寄せながら聞いた。
「現公爵は私の祖父で、もう今や六十歳を過ぎているにも関わらず、後継ぎがいないのだ。だから私は、父に代わってここを継ぎ、この土地を、国を、守りたいと考えているのだ」
話し終えたヴィクターは眉間の皺をほぐして、やや苦笑いでアシュリーを見る。
「サンブルレイドで戦が起こる度に、辛そうにしている父をずっと見て来たのだ。きっともどかしかったのだろうな……」
「ヴィクター殿下もローレン殿下もとてもご立派ですね……」
そう言ってからアシュリーはハッする。
「生意気なことを申しました!失礼いたしました!」
「はは、いやいい。ありがとう」
「……ローレン殿下も怪我をされた後、エリザベス女王陛下とご結婚され、陛下の頭脳としてとても有能だったと聞いております。ヴィクター殿下も、国王としてではありませんが、違う立場で国を守ろうとしておいでです」
アシュリーは眉間に皺を寄せたまま、真面目な顔で言う。
ヴィクターの覚悟を、本当に素晴らしいと思ったのだ。
「……ありがとう」
ヴィクターは少し驚いた顔をした後、優しい笑顔でそう言った。
「まあ、二人も素晴らしい兄がいるし弟たちもいる。だから城に俺は不要だろうしな」
ヴィクターは残念がっているわけではなく、本当にそう思っているようだった。
アシュリーは"ゴクッ"と唾を飲んだ。
ふと、思ったのだ。
(あのことについて、ヴィクター殿下の意見を尋ねてみようかしら?)
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