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第二章 シャインブレイド
9:サンブルレイド領⑤:ヴィクターの想いその2
しおりを挟む「あの、ヴィクター殿下……。もう一つ生意気なことを尋ねてもよろしいでしょうか?」
「ああ、何だ?」
ヴィクターはいつものケロッとした顔でお茶を飲んでいる。
「体の弱い国王だと国は不安定だと、ヴィクター殿下もそう思われますか?」
ヴィクターは目を見開いてアシュリーを見た。
真っ直ぐなアシュリーの瞳と目が合い、少しの間お互いに見つめ合う。
アシュリーは探られているような気がして、尚更真っ直ぐに見つめ続けた。
「……誰かに聞いたのか?」
「……イーサン殿下から伺いました」
アシュリーは正直に言うこととした。
ヴィクターの正直な気持ちを知りたかったからだ。
「そうか。半年ほど前に、イーサン兄上が陛下に直談判に行ったのは知っている。今も同じ気持ちなのだな……」
「……」
アシュリーは何も言わなかった。
ヴィクターが何をどこまで話そうかと頭の中で考えているのがわかったため、敢えて何も言わずに待つ。
「……勿論、屈強な国王の方が、より国民は安心し国は安定するだろう。しかし、俺はアダム兄上が時期国王となるのが良いと思っている」
「……理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「アダム兄上は身体が弱い分、とても思慮深い。物事をとてもよく見ている。国のことも城のことも、兄弟のことも……。国王になる器を持っている」
「……国民は不安に想い、また悪い輩にもつけ込まれやすいと、イーサン殿下は仰っていました」
「ああ、そうだな。だから、俺たちがいるのだ。周りの人間が支えれば良いのだ。残り四人の王子が周りを固めれば良い。そして俺は、そのためにもサンブルレイドを守る」
ヴィクターは至極真面目な顔で、迷いなくそう言った。
「……」
アシュリーがヴィクターの心意気に感化されていると、ヴィクターは少し小声で言った。
「まぁ第一王子派と第二王子派で、最近揺れているらしいがな……。母上も自身の病のこともあるし、気を揉んでいるであろうな……」
「……派閥が出来ているのですね。……陛下のお心は、もう決まっているように感じ……」
アシュリーは言いかけてすぐにやめた。出過ぎたことの上に、ただの憶測だからだ。
「私などに、たくさんの大事な話をして下さりありがとうございます。とても学びの多い一日でした」
(これ程まで色々と話してくれるとは思わなかった。ヴィクター様のお考えはよくわかったわ……)
アシュリーは心からの感謝を込めて礼を言い、頭を下げた。
「アシュリーがただの侍女ではないことはわかっている。だが、陛下の味方だと信じているから話した。裏切るなよ?」
ヴィクターの言葉にアシュリーは"バッ"と顔をあげる。
真面目な顔かと思いきや、キリッとした顔に笑顔を浮かべた顔をしている。
驚いたアシュリーは、思わず尋ねた。
「私を怪しんでいるにも関わらず、信じて下さるのですか?」
「怪しむ……か。まあ確かにそうだが、悪い方には怪しんでいない。何か理由があって、陛下はアシュリーを呼んだのだと思っているだけだ。俺にとっても味方だと思っている。そうだろ?」
アシュリーは目を見開いた。後押しをしてくれる人物に、力強さを感じる。
「はいっ!私は絶対に陛下を裏切りません! 陛下のお力になりたいだけなのです」
「ああ、信じる」
アシュリーのまっすぐな言葉に、ヴィクターは明るい笑顔となる。
「だから、親たち王子側に母上の近況を教えてくれたりを頼むぞ? ギブアンドテイクで行こう」
"ニッ"と笑うヴィクターに、アシュリーも思わず笑顔が溢れる。
(病気のことは言えないけれど、何かあって必要が生じれば、必ず王子殿下のどなたかに相談いたします)
アシュリーは心の中でそう思った。
「アシュリー、あと一つ、頼みがある」
ヴィクターは急に真面目な顔で言った。
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