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最終章:新たな国王の誕生
12:その後③手紙
しおりを挟む「そうですか、アシュリーが帰りましたか」
渡された手紙を見ながらイーサンは真顔で答える。
「ところでイーサン、サンブルレイドへ行くことは納得しているのかしら?」
「はい、あんなことをしでかした私にこのような任務を与えて下さり、とても感謝しております。父上とヴィクターの想いも忘れずに、サンブルレイドを、この国を守って行きたいと考えております」
イーサンはエリザベスの目をしっかりと見ながら、そう決意表明をした。
「良い顔をしているわ。イーサン、頼りにしていますよ」
エリザベスもしっかりと目を見つめ返しながら、笑顔で言う。
去ろうとしたエリザベスは、思い出したかのように口にする。
「あっ、そう言えば、アシュリーが城を出たのです」
「……はい、最初に伺いました」
「あっ、そうだったわね! うっかりしていたわ。忘れて!」
そう言ってそそくさと去って行くエリザベスを、イーサンは眉を顰めて見送ったのだった。
次にエリザベスはエイダンの部屋を訪れた。
自室はもはや研究室のようになっている。
「……」
アシュリーからの手紙を読んだエイダンは、何も言わずに手紙を引き出しにしまい、研究の続きを再開した。
「……エイダン、精が出るわね」
「うん……」
「エイダン、楽しい?」
「うん……」
全くエリザベスの方を見ようともしないエイダンに、エリザベスは何とか会話を続けようと試みてみる。
「今は何をしているの?」
「アシュリーに渡した黒い球みたいな、投げてぶつけるシリーズは好評だったから、新しいのを作ってる。けど、うまくいかない……」
エイダンの集中が伝わって来たエリザベスは、自分が邪魔であることを悟り、退室することとした。
「研究に没頭するのは良いけれど、朝食の時は必ず来てね」
エリザベスが隠居してから、エリザベスの提案で出来る限り五人の息子と朝食を共にすることとしているのだ。
ヴィクターとアダム、イーサンは同席することが出来ないことも多々あるが、エイダンとオーウェンは今のところ毎朝来てくれていた。
「……」
エイダンからの返事はなく、集中しているようだった。
退室しようとしたエリザベスは、ふと思い出したことを口にする。
「そう言えば、アシュリーの手紙を渡しに来たのだったわ!」
「……」
エイダンはピタッと手を止めエリザベスを見て言った。
「……もう貰ったよ」
「あら、そうだったわね! うっかりしていたわ! それじゃあね!」
手紙を探す手を止めそそくさと退室していくエリザベスの後ろ姿を、エイダンは扉が閉まるまでじっと見ていたのだった。
(ああ、駄目ね……。あと二人よ!)
エリザベスは、自分でも自分が何故そのようなことを口にするのかがわからずに、もどかしい想いをしている。
常に頭にもやがかかっている感じがして、全くすっきりしないのだった。
「えー! アシュリー帰っちゃったの!? パンがやっぱり全然言うことを聞かないから、また躾について相談に行こうと思っていたのに!!!」
アシュリーからの手紙を読み終えたオーウェンは、盛大にがっかりした顔をしている。
「オーウェン、最近はとても熱心に勉学と武術に励んでいるそうね」
「うん! 僕もみんなみたいに立派な王子になる!」
オーウェンは戦闘直前にイーサンに追い返されたことがショックだった。
しかし言われたことは納得出来たので、現在はやる気が漲っている状況である。
「そう。今でも充分立派だけれど、これからをもっと期待しているわね」
「はい、母上!」
笑顔のエリザベスに、オーウェンは凛々しい顔で答えた。
「母上、僕もう勉強の時間だから行かなきゃ。また明日の朝お会いしましょう!」
「ええ。頑張ってね」
去ろうとするオーウェンに、エリザベスは言葉をかける。
「最近はとても熱心に勉学と武術に励んでいるそうね」
オーウェンは去ろうとしていた足を止め、エリザベスを振り返る。
「はい。僕も皆んなみたいに立派な王子になります……」
笑顔のエリザベスにオーウェンは再びそう答えた。
「そう。今でも充分立派だけれど、これからをもっと期待しているわね」
「……はい、母上……」
同じ会話を繰り返した後、オーウェンはニコッとエリザベスに笑顔を向けて去って行ったのだった。
最後にエリザベスが訪れたのはヴィクターだった。
書斎で書類の処理に追われ難しい顔をしているヴィクターに、エリザベスは声をかける。
「ヴィクター、少し話があるの。キリの良い時に少し時間をくれないかしら? 待っているから」
「母上! 今、ちょうどキリが良いですよ」
難しい顔からいつもの笑顔になったヴィクターに、エリザベスも微笑む。
ヴィクターは基本的には前とは変わらないが、最近は引き締まった表情をしていることが増えた。
(この表情を見れば、いかに真摯に国王としての仕事に取り組んでいるのかがよくわかるわね……)
ヴィクターやアダムの仕事ぶりを見ていて、エリザベスは何も心配をしていなかった。
「アシュリーが城を去ったの。皆んな忙しくしていたから手紙を預かったわ」
ヴィクターは目を見開いて固まったまま、手紙を見つめている。
「……いつですか?」
「昨日よ」
「……」
ヴィクターはその場で手紙の封を切った。
『ヴィクター国王陛下へ
大変お世話になりました。
直接挨拶をせずに去ることをお許し下さい。
私も陛下に負けないように、オーグナー領の発展に尽くします。
どうかお元気で。
アシュリー』
「なんだこの内容は……」
「……私は内容までは知りませんよ」
苦い顔をしているヴィクターに、エリザベスは呆れた顔で答える。
「……当たり障りのない……とても素っ気ないものです」
「……そう。そういう関係だったのではないの?」
「違います!」
エリザベスを見てそう言ったヴィクターは、ハッと下を向いて付け加えた。
「少なくとも私は、違いました……」
「伝えなければ、伝わりませんよ」
エリザベスは微笑みながら言う。
ヴィクターのこの様な姿を見るのは初めてで、母として物珍しかったのだ。
「……まさか、黙って出て行くなんて思いもしませんでした」
「……アシュリーは顔の傷をとても気にしていたわ。だから会いたくなかったのもあると思うわ」
エリザベスの顔を再び見るヴィクターに、エリザベスは続ける。
「顔に傷が出来たのは私のせいだから、いろいろとよくしてあげたかったのに……。城にいてくれた方が、してあげやすかったのですけれどね……」
「では、何故止めなかったのですか?」
ヴィクターの険しい表情に、エリザベスは微笑みを絶やさずに言う。
「元々期間限定の約束だったし、アシュリーはオーグナー領を継ぐつもりでずっといるのよ」
「……他に継ぐ者は?」
ヴィクターは奥歯を噛み締めた。
「妹のペニーがいるわ。その子もとても良い子で、アシュリーと切磋琢磨しているわ」
「……わかりました。母上自ら、わざわざ手紙を届けて下さりありがとうございました」
「……いいえ、いいのよ。脳に刺激を与えるのは良いことですしね」
ヴィクターは背を向けてしまい、エリザベスには表情が見えなかった。
(ああ、恋愛には不器用な子ね……)
母としてそんな息子を愛しく想う。
「……ヴィクター、あのノート、あなたは全部見たの?」
「いいえ、直接は……」
ヴィクターはエリザベスの方を向いて言う。
「今更だけれど、是非読んでみてはくれないかしら?」
「……わかりました。アダム兄上が持っていると思うので、読ませていただきます」
「ええ、そうしてね。では、仕事の邪魔をして悪かったわね。あ、そうだったは、アシュリーの手紙を渡しに来たのだった……あら? もう渡したかしら?」
エリザベスは去ろうとして立ち止まり、巾着の中を探しながら言う。
「……はい、戴きましたよ」
そんなエリザベスの様子を見て一瞬驚いたヴィクターだったが、すぐに穏やかに返す。
「そう。……また、うっかりしちゃったわ」
エリザベスの苦笑いに、ヴィクターはエリザベスの側へ行き、手を握った。
「母上、いつでも私に会いに来て下さい。朝食の席には一緒につけないことが多いので」
エリザベスは手の温もりにホッとしながら、笑顔でヴィクターを見上げる。
「ヴィクター、慕う人と一緒になる人生はとても素敵よ」
「……はい」
「一歩を踏み出しやすくするように、手を差し伸べてあげることも大切なことよ」
「……はい」
「私はアシュリーが大好きよ」
「……はい、私もです……」
エリザベスとヴィクターは微笑み合ったのだった……
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