【完結】城入りした伯爵令嬢と王子たちの物語

ひかり芽衣

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最終章:新たな国王の誕生

14:一年ぶりの再会

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紙製品工場へ一人で視察に行った帰り道、アシュリーは歩いて帰路についていた。

「たまにはゆっくり歩くのも良いわね。天気も良くて、空気も美味しい。青と黄色のコントラストが本当に綺麗ね!」

アシュリーは、快晴の空の下に咲く一面の菜の花を眺めながら、大きな声を出してみる。

「ふふっ。誰もいないわ。気持ち良い!」

気分良く鼻歌を歌いながら歩いていたアシュリーは、ふと足を止めた。
そして、呟く。

「……ヴィクター国王陛下、お元気ですか?」

アシュリーは今も、毎日ヴィクターのことを思い出さない日はなかった。

「急に国王になって、本当に大変だったでしょうね……。今もきっと、忙しくされているのだろうな……」

アシュリーは開放感から、独り言をぶつぶつ言ってしまう。

「……私も負けずに頑張っていますよ。今なら胸を張って会えるかしら?」

アシュリーは逃げ出してしまった一年前を思い出し、苦笑いをした。

「顔の傷にも慣れましたよ。女王陛下を守るために出来た傷ですもの。勲章だと思うことにしました。……まあ、誰もこんな傷のある女と結婚しようなんて人はいないでしょうけどね…」

しゃがんで菜の花の上を飛んでいる蝶々を眺めながら、アシュリーの独り言は続く。

「けどまあ、結婚が全てではないわよね! 後継は、ペニーが産んでくれることを期待しましょう。それか、養子をとるという手もあるし……」

アシュリーが少ししんみりしてしまったタイミングで、蝶々は遠くへ飛んで行ってしまった。

立ち上がったアシュリーは、両手で口を囲って空に向かって大声で叫ぶ。

「おーい! 一年経ちましたよー!」

思いっきり大声を出したアシュリーは、「ふーっ」とスッキリしたというような顔をし、帰ろうと後ろを向いた。



その時……


「そうだな、一年経ったな」

誰もいないと思っていたアシュリーは、人がいて驚いた。
その人はとても立派な服を着て、堂々とした佇まいでそこに立っている。
そして、アシュリーはそれが誰なのかを認識した瞬間、目を見開いてその場に固まった。

「アシュリー、迎えに来た。考えてくれたか?」

目の前に立ち、アシュリーに話し掛けているのはヴィクターだった。

「……本物?」

「ははっ! 第一声がそれか!」

楽しそうな口調でそう言うヴィクターに、ただただポカンとしていたアシュリーは、"ふっ"と笑ってしまう。

しかしすぐに冷静になり、姿勢を正した。

「国王陛下、お久しぶりでございます」

「ああ、久しぶりだなアシュリー。何とか一年で迎えに来られる状態にしようと、かなり頑張ったぞ」

ニッと笑うヴィクターに、アシュリーは驚いて声が出ない。

(えっ、それは、つまり……)

アシュリーの頭の中は、軽くパニックを起こしている。

そんなアシュリーにはお構いなしに、ヴィクターは少しずつ近づいて来て、アシュリーの目の前に止まった。

そしてそっとアシュリーの左頬の傷に手を置く。

「……更に綺麗になったな。誰かに言い寄られたりしていないか?」

甘い瞳で見つめてくるヴィクターに、アシュリーは思わず顔を逸らす。

「顔にこんな傷のある女に言い寄る男性なんている訳がありません!」

「そうか、それは幸いだった。アシュリーに言い寄る男は、この世で一人で良い」

ヴィクターは左頬にも手をやり、背けた顔を自分の方へ向けた。
しかし、意地でもヴィクターと目を合わせないアシュリーに、思わず笑みがこぼれる。

「母上を守ろうとした勇敢な傷だ。勲章だ。その傷を含めて、とても綺麗だアシュリー」

「……」

アシュリーは頭の中が真っ白だった。

「アシュリー、私の目を見てくれ。頼む」

ヴィクターの懇願に、アシュリーは動揺する。

(うう……恥ずかしすぎる。けれど、国王陛下の命令には従わなければ……)

アシュリーはおずおずとヴィクターを上目遣いで見た。

「!?」

その瞬間、ヴィクターはアシュリーの唇に自分の唇を重ねる。

数秒ののちにそっと離された唇の感触が残っていて、アシュリーはボーッととヴィクターを見つめてしまう。

「あっ、すまない! 可愛かったからつい……」

その言葉に、アシュリーは一気に顔を真っ赤に染める。
そんなアシュリーに思わず笑いがこぼれるも、すぐに真面目な顔になって言った。

「アシュリー、俺と生涯を共に歩んでくれ」

アシュリーはヴィクターから目が離せない。

「……身分は問題ありませんか?」

「ない。母上もアシュリーに嫁に来て貰いたがっているしな」

「えっ?」

するとヴィクターはアシュリーがエリザベスに渡したノートを取り出し、あるページを開いて見せた。

「私を城へ呼んだ本当の理由?……えっ!?」

驚くアシュリーに、ヴィクターは笑顔を浮かべたあと、少し不安そうな顔になって言う。

「王妃になってくれるか? 必ず幸せにする」

「……私も幸せにします」

「えっ?」

アシュリーは真っ赤な顔をして潤む瞳で、"キッ"と、ヴィクターを見上げて言う。

「共に歩み、共に幸せを育んで行きましょう」

ヴィクターはホッとした笑顔となり、アシュリーをそっと抱きしめて言った。

「ああ、そうしよう」





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