精霊王の番

為世

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第一章 雑魚狩り、商人、襲撃者

エピローグ かつて強者が失った望み

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「……泣かないで。 ……あなたは、悪くないわ」

 少女は血を吐いて倒れる。
 彼女と一緒にいた少年は、まもなくその生涯に幕を閉じようとしている少女を抱きとめ、その最後の言葉に耳を傾けていた。

 少女は少年の腕の中で、少年の顔を見つめた。
 毎日のように目にしていた彼の黒い髪と青い瞳が、今ではかけがえのないもののように感じる。

「……あなたは、優しい子よ」

 その少女は、自身の胸に空いた虚空を全く意に介さない。
 ただ、自身の最期に立ち合わせてしまった少年に、伝えるべき事を言葉にせんとして口を開く。

「……怒っても良いの。 人はね、……気持ちを分かち合って、理解し合って、生きていくの」

───ごめんね、弱いお姉ちゃんで。あなたを守ってあげられなくて。ごめんね。

 少女は自戒する。

 自分の死が、この少年を追い詰める要因になってしまう。そして傷ついた少年を、自分は守ってあげることができない。

「……もう、喋らないで」

 少年は、やっとの思いで言葉を口に出す。

 しかし、少女は言葉を発さなければならなかった。自分の存在が彼を縛る十字架になってはいけない。その一心で、最後の言葉を口にする。薄れゆく意識の中で、最適な言葉を模索しながら。

「……お願い、笑って?」

 これが、最後の会話になることを少年はわかっている。しかし、その言葉を聞いても、少年が表情を変えることは難しい。

 湧き上がるのは、燃え上がるような”怒り”ばかりである。

 少年は、剥き出しの感情を抑えながら、なんとか少女の最後の願いを叶えようと、引き攣った笑みを自身の顔に貼り付けるのがやっとである。

「……ありがとうね、……アイビス」

 そして少女は静かに息を引き取った。

 少女は、少年の内側に渦巻くどす黒い感情を包み込むような優しい表情で目を閉じていた。

 少年は、しかし涙を流さなかった。

───バリバリッ

 そんな怒りに震える少年の傍に、漆黒の肌を持ち、金色の長髪を腰まで伸ばした異質な存在が現れる。

 破裂音と共に突如現れたそれは、この星で”守護霊”と呼ばれる存在である。
 ”守護霊”は人間の誕生と共に生まれるもう一つの魂、もしくは分身であると理解されている。

 この漆黒の守護霊を召喚したのは、少年である。

 その守護霊は、宿主である少年の怒りに呼応するように拳を強く握り、地を蹴って上空へと飛び上がる。

 そして落下の勢いそのままに、少女を死に追いやった元凶へと報いを受けさせるのだった。



 やがて十二年の時が経ち、少年は青年へと成長した。”冒険者”となった彼は出逢った商人の男に誘われ、漆黒の守護霊と共に世界を旅してまわる事になる。

 出発の日、彼は”海”を一望出来る崖を訪れた。そこには、かつて彼が親しくしていた少女が眠っている。そこに置かれた石には、この星では珍しくない女性の名前が刻まれていた。

「……行ってくる」

 青年はその石に別れを告げると、踵を返して歩き出すのだった。



 彼はこの先、数多の人や事件に遭遇し、世界の真実へと迫っていく。
 彼を待ち受けるのは、救済か、それとも崩壊か。

 この物語は、青年が自身の“在り方”を認めるに至るまでの顛末、そして見届ける彼の”運命”、その一部始終をここに記す。
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