プロクラトル

たくち

文字の大きさ
41 / 174
砂の世界

王女の役目

しおりを挟む
「ではシン様、もうしばらくお待ちください、父上に捕まってしまいますが少し辛抱をお願いします」

 王都に到着し、リリアナからこの後は少しばかり、時間がかかると聞いている。
 戦後の処理に、兵士達への勲章授与が行われる為だ。

 シンはこの国の兵士ではないし、雇われた傭兵でもない。
 その為そういった式典などには無縁の存在だ。

 式典が終わるまでは国王やリリアナも業務に追われる為、シンを処刑する話に持っていくまで時間がかかる。

「やっぱり気に入らないわね」

 これからの流れを知っているユナは、どうもシンの処刑されかかる事が気に食わないようだ。
 一応納得はしている貰っている為、邪魔しようなどどは考えていないが、気に入らないのは変わらないようだ。

「まあ、悪い様にはされないだろ、だけど本当にこの作戦でいいのか?」

「わからないわ、やっぱりシンも気に入らないの?」

 気に入らない訳ではないが、正直牢屋などでまともな扱いはされないだろうし我慢するしかない。
 これもこの世界を完全にノアの支配下にする為だ。

*******

「ふぅ、やはり大勢の人の前に出るのは慣れませんわ」

 戦後処理を終わらせ、式典が終了するとリリアナは息を吐く。
 相変わらず人前に出るのは少し苦手だが、滞りなく式を終わらせた。

「リリアナ、これから証の場所を教えよう、着いてきなさい」

 国王はリリアナを連れ歩き出す、ミアリスの指輪の片割れは代々国王となる者のみに伝えられている。
 その場所を知っている事がラピス王国国王の証でもあった。

「こんなところに、あったのですね」

 連れられた先は国王の執務室。 リリアナも何度も訪れた場所である。
 その執務室にあるミアリスの絵画の裏、王族の血筋にのみ反応する窪みへと手をかざし地下への通路が出現する。

「王族以外があの絵画を退かしても魔術により窪みは隠される。 その為、あの場所に気付く者はいない」

 例え王族以外の者があの窪みの所に手を当ててもそこには壁の感触があるだけだ。

「ここだ、ここに血を流してみろ」

 指し示された場所にあるのはミアリスの彫刻だ。
 その彫刻が両手で持つ大きめの聖杯。
 指示通りリリアナは指を傍らに置かれたナイフで指を切り血を流す。

「いたっ」

 痛みに慣れていないリリアナは、つい言葉を発してしまう。
 だが上手く血を流す事が出来なかった。 自らを傷付ける事に抵抗があり上手に切れなかったのだ。

「無理をするな、儂がやるか?」

 娘に傷が付くのが嫌だった国王が変わろうとするがリリアナは譲らない。
 シンへ渡す証は、リリアナが自ら手に入れたいのだ。

 意を決してリリアナは指を切る、切られた指からは聖杯に一滴の血を流した。
 すると聖杯が輝き思わず目を覆い隠すが、光が治るとそこには黄金色に輝く一つの歪な指輪が出現していた。

「これが、ミアリスの指輪ですのね」

 手に取り確認する。
 すると指輪はリリアナの指の大きさに合わせるようにそのサイズを調整した。

「指輪は持ち主に合わせて大きさを変える、今はリリアナに合わせているが持ち主が変わればまた大きさを変える」

 自分の指の大きさに合わされ戸惑ったリリアナだが、国王の話を聞き安心する。
 それならばシンに渡しても問題はない。

「では戻ろうか、これからの話もしなくてはならないからな」

「わたくしも父上に話さなくてはならない事があります。 出来ればここでお話してもよろしいですか? あまり他に聞かれたくないのです」

「何だ?」

 ここが勝負所だ、リリアナは覚悟し話し始める。
 自分を育ててくれた親を陥れなくてはならないが、今のリリアナにとって大切なのはノアとシンの役に立つ事だ。 それ以外は重要視していない。

「実は、あの”風帝”ニグル様を殺害した者が、この王国に潜んでおります」

「何だと⁉︎それはどこにいる!」

 戦争前ミアリスから刃向かう者がいる事を教えられていた国王は、つい声を荒げてしまう。
 ニグルが死に、戦争が終わった今国王に出来るのは、その反逆者を始末する事だ。

「はい、シンという名の黒髪の青年です、今は王都の宿屋に潜伏しているはずです」

「そうか、ではすぐに捕らえねば、逃げられる前に神への反逆で処刑をする」

 すぐさまシンの処刑を決断する国王。
 彼はやはり熱心なミアリス信徒なのだ。

「ですが父上、わたくしから聞いたとは誰にも言わないで頂きたいのです。 もしわたくしが話したと知られてしまえば、何をされるかわかりません」

 怯えたように震えた声で、国王に話すリリアナ。
 父親が未だミアリスの熱心な信徒である事を残念だと思っているが、もうこれからの父親の運命はすでに決まっている。
 他の兄妹達にから聞いたと言われては、兄達に父親への反逆をさせられない為、釘を刺しておく。

「脅されているのか?心配するな誰にも言わん、ここからは儂の独断での行動だ」

 身を震わせ怯えたふりをしたリリアナに、国王は騙されてしまう。
 普段は国王という立場上演技を見抜く力はあるのだが、娘への心配する想いから演技を見抜けなかったのだ。

「父上、たっ助けて下さい」

 もう一押しとばかりに国王へ助けを求める。
 そのリリアナの姿に国王は意を決し行動を始める。
 振り返る事も無く娘を救う為、国王は力強く歩き出す。
9その後ろで娘が自らを見下すように、歪んだ笑みを浮かべている事など気付いていない。

*******

「兄上、姉上お話があります」

 国王と別れたリリアナはしばらく時間を空け、第1王子と第1王女のもとへと向かった。

 2人はミアリスへの無礼を働いた罰で、王城の一室に監禁されており、未だその罰は続いている。
 だがそのお陰で今の王子達に国王は接触していない。
 その為こうしてリリアナが訪れても国王にはわからない。

「何だ?リリアナ言ってみなさい」

 リリアナの事をずっと心配していた王子達は、自分から話をしに来たリリアナに優しく問いかける。
 もともとリリアナの為を思って行動していた王子達は、こうして会いに来てくれた事が嬉しいのだ。

「実はわたくしはミアリスに脅されて利用されているのです」

「やはりそうか、前からリリアナが誰かに利用されているのでは無いかと心配していたんだ。今は大丈夫なのか?」

 ノアからリリアナがミアリスに利用されていると聞いている王子達は、その進言通りの事に驚きは無い。
 だが、こうして打ち明けた事が、ミアリスに知られリリアナに何かされるのでは無いかと不安だった。

「心配には及びません。 ノアと言う神をご存知ですか? 白い髪をした女性の姿なのですが」

「知っている! その女性からリリアナが、ミアリスに利用されていると教えて貰ったのだ。 そしてリリアナを救う為の協力もしてもらった!」

「そのノアと言う神にわたくしは救われました。 そしてそのノア様の代行者であるシン様にもです。 今回の戦争でもミアリスが差し向けた皇国の”風帝”ニグル、そしてラーズ王国の幻視槍からわたくしを守って下さったのです」  

 ミアリスに利用されていた事。
 そしてミアリスの手からノアとシンが救ってくれたと言うリリアナ。
 それを聞いた王子達は、リリアナの無事に安堵し愛する妹を救った神と代行者に感謝する。

「そのシンと言う者にも感謝をしなければ、こんな状況でなければ、王城に招きもてなすのだが」

 監禁されている状況に苛立ちを見せる王子達。
 だがリリアナの目的は、シンをもてなす事では無い。

「兄上、ここからが本題なのですが、実は父上はそのシン様を処刑するおつもりなのです」

「何だと! リリアナを救ってくれた御仁に何を考えている!」

 父親である国王に憤慨する王子達。 
国王が他でも無いリリアナに利用されている事を知らない王子達は、ただ怒りを国王へと向けている。

「リリアナ、父上はなぜそのような事を?」

 ここまで話を聞いていただけだった第1王女が、リリアナに問いかける。 父親の行動に理解出来ないのだ。

「ミアリスが今度は父親を利用しているようです。 ノア様とシン様がこの砂の世界の争いをなくした事に怒っているのです。 シン様を処刑し、せっかく講話を結んだ皇国との争いを父親を操り再開させようとしているのです。 利用されていたわたくしですのでわかります。 あの神はわたくし達に、世界の住人に争いをさせ楽しんでいるのです」

「何故、そんな神を父上は信用しているのだ」

 リリアナは、ミアリスと直接接し、利用されていたと思っている王子達はリリアナの言葉を信じる。
 そしてリリアナを救う為、ノアが協力してくれた事も王子達は知っている為、もうミアリスの事を敵視し、ノアを信用している。

「シン様の処刑はすぐに行われるでしょう。 ですがわたくしは救って頂いた方が処刑されるなど見過ごせません。 兄上、姉上、お力をお貸し下さい」

「ああ、もちろん協力するさ。 その者はリリアナの恩人だ。 王族として間違った父上の判断を、許す訳にはいかない」

 こうしてリリアナは王子達の協力を得た。
 処刑の日に共に父親である国王からシンを救う為、その日の行動を話し合う。

「ではわたくしは表向き父親に協力するふりをします。 処刑の日まで兄上達とお会いするのは危険かと思います。 処刑の日、またお会いしましょう」

「ああ、王国軍が処刑を執行するはずだ。 監禁された身だが、出来る限り隠密に王国軍と接触し、こちらの味方を増やしておく」

処刑まであと数日。
 その日までにリリアナのするべきはノアとシンの功績を国王に知られず、王都の者達に教える事だ。
 そうする事で国王の判断に反論する味方を増やし、国王を確実に葬る事が出来るようにするのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...