プロクラトル

たくち

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砂の世界

王国の行方

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「何をしている! 早く捕らえんか!」

 魔王ティナ・グルーエルの逃走により、王都ラピリアは混乱に陥っていた。
 地下牢は破壊され、王城の1階正面に向かって堂々と歩み寄り、迫り来る王国軍の兵士達を退け、ティナは王城からの脱出をした。
 理不尽を形にしたかのような所業は、正しく魔王そのものであった。

 鳴り響く轟音にすぐさま国王は行動を開始し、王都中の兵士達を集め、脱走したティナとシンを追走させている。

 だが相手は魔王だ。 その程度で捕まるはずがない。
 自在に空を舞い、あっと言う間に王城の近くにある放送用の高層建造物の屋上へと到着していた。

「父上、落ち着いて下さい!」

 シンが共に脱走した事を知った国王は、我を忘れひたすらに脱走を許した兵士達を叱責していた。
 あと少しでシンを処刑出来たはずが、このような事態になってしまい、怒りを納められないのだ。
 リリアナは必死になだめようとしているが、まだ落ち着かないだろう。

(シン様、何をしているんですの⁉︎)

 国王をなだめながらリリアナは、シンの行動の意図がわからなかった。
 一緒に逃亡している者の事は知らないが、地下牢に入れられるような輩だ。
 リリアナからしたらここでの脱獄は、自分の考えをシンが無駄にしている様にしか見えない。

(ノア様に連絡をしたいのですが、父上を落ち着かせなければ)

 ノアと連絡を取り、状況の確認がしたいが、今の国王は何をしでかすかわからない。
 その為リリアナは、国王の近くから動けないのだ。

*******

「おい、シン、ノアはどこにいるのだ?」

 高い所なら追っ手も追い付くのに時間がかかると踏んで放送塔へと飛び込んだティナは、シンに旧友の居場所を聞いていた。

「今は腕輪が無いと言ったじゃないか。 あれがなきゃ連絡取れない」

 最初は魔王という事で丁寧に話していたシンだったが、この脱獄の際に魔王だろうが、もうどうでも良くなりいつもの口調に戻していた。

「なんと! そうであった! まずいのうどこにあるかわからんのか?」

「なんとなくはわかる。 地下牢の近くに保管場所があるみたいだ。 そこに置いてある」

 ここからでは王城から距離があり、正確にはわからないが地下牢への道を記憶していたシンは、腕輪の保管された場所に目星を付けていた。

「魔王様がこんな事しなきゃ全部上手くいってたのにな」

「どういう事だ?」

 ここでシンはリリアナの考えた計画を魔王へと説明した。
 もう少しだけ待てば、この魔王もノアに会う事が出来たのだ。 自分勝手な魔王に少々腹を立てていた。

「なるほどのう。 あの小娘もなかなか興味深いの」

 魔王はリリアナを知っていた様だ。
 だがもうこうして脱獄してしまった。 計画の変更は確実だ。 何か手を打たなくてはならない。

「妾に任せるが良い」

「どうするんです?」

 計画の変更の原因となった魔王が任せろと言ってきたが、この魔王がどうするつもりなのか、シンにはわからない。

「妾に任せろと言ったでおろう、そこで待っておれ」

 シンの返事も聞かず、魔王ティナ・グルーエルは屋上から飛び降りて行く。
 残されたシンは、不安で仕方が無い。

*******

「さて、どうするか」

 落ち着きを取り戻した国王は、すぐさま重鎮達を集め対策会議を開いていた。
 その中には謹慎中の第1王子達も姿を見せている。 緊急事態の為呼び出したのだ。

「父上。 失礼を承知で言いますが、やはりあのシンという青年を処刑するのは反対です」

 久しぶりに父親である国王に会った第1王子は、処刑への反対を申し出た。
 王子に続き、第1王女もそれに賛同する。

「ならん! ミアリス様に反抗する愚かな存在を、生かしておく訳にはいかん!」

 しかし、国王は耳を貸さない。
 この会話を聞いているリリアナは、国王が自分からシンの事を聞いたと言ってしまわないか心配であった。

「ですが、あの方はこの王国の功労者です。 皇国との争いで、この王国を勝利に導いたのもあの方の功績です。 あの”風帝”ニグルに打ち勝ったのです。 もてなすべき御仁です、処刑するなど!」

 第1王子も引くわけにいかない事だ。 リリアナを救ってくれた恩人を処刑させる訳にはいかない。
 だがこの王子の対応が、事態を好転させた。

「ニグル様に刃向かう輩に慈悲などいらん!」

「ニグル、様? 父上どういう意味ですか⁉︎ 王国を苦しめてきた敵に、何故様付けするのです!」

 ニグルは、皇国の者として長らく王国に脅威をもたらしていた。
 敵に様付けする国王に、王子達や重鎮達も違和感を覚える。
 つい頭に血が上り発言してしまった国王は、失言に気付き取り繕うが、もうこの場にいる者の国王への不信感は消し去る事は出来ない。

「とっとにかくあのシンという輩は処刑する! これは決定事項だ!覆らない!」

 国王は強引に事を進める。
 その態度がさらに不信感をつのらせているのだが、その事に国王は気付かない。

「父上、私は協力出来かねます」

 第1王子を始めとしその他の者も、半数は席を立ち会議の場から離れようとする。
 この短い間に王子達は、国王へ反抗する為の勢力を半数も集めていたのだ。

「ふむ、なかなか面白い事になっておるのう」

 会議の終わりかけた時、不意に聞き慣れぬ声が会議場に響いた。
 声の方向へと一斉に目を向けると、そこには銀髪の女が顔だけを会議場へと浮かべていた。

「なっ何者だ!」

 異様な光景に、護衛の兵士達が一斉に武器を顔だけの女に向けた。
 だがそれでは、この魔王には脅威とならない。

「なっなんと! この様な大勢の前で妾に何をするつもりだ! はぁはぁっおっおのれぇ」

 女は恍惚な表情を浮かべ、息を荒くする。
 あまりにも異質な存在に、逆会議場にいた者達は逆に恐れを抱いていた。

「何者だ!」

 気を持ち直した国王は突然現れた存在の正体を探る。 するとその顔は動き、そしてするりと会議場へ全身を侵入させた。

「妾は魔王ティナ・グルーエル。 貴様らと話をしに来た」

 名乗った女性を、魔王とは最初は信じられなかった。
 神と双璧を成す魔王をなのるなど、狂人の類しかありえないのだから。
 しかし名乗りを上げた後、女性から圧迫されてしまう様な圧倒的な威圧感は、その言葉が本当であると証明される。

 ある者は腰を抜かし悲鳴を上げ、ある者は意識を手放し気絶する。
 ただそこに居るだけで人間に恐怖を抱かせる女性は、正しく魔王と言えるだろう。

「まっ魔王様がなっ何用でございましょう」

 恐怖に陥る会議場の中、リリアナだけは言葉を発する事が出来た。
 だがそのリリアナもその身を震わせ、発した声は小さく、そして怯え、その足元には小さな薄く色の付いた水溜りが出来ていた。

「ふむ、貴様がリリアナか?」

「はい、そうでございます。 ラピス王国第2王女リリアナ・イーノルド・ラピスでございます。 どうぞお見知りおきを」

 恐怖に震えながら名乗り、そして会釈をする。
 魔王に支配された空間で、ぎこちないながらも動く事の出来るリリアナは、それだけで立派である。

「覚えたぞ。 時に国王よ、シンを処刑すると申すのだったな?」

 リリアナへの挨拶を終え、国王へと話しかけるティナ。
 だが話しかけられた国王は、恐怖により言葉を発する事が出来ない。

「おっとすまん、妾の魔気の前では話せんか。ほれやめたぞ、これで話せるであろう?」

 突然会議場の重苦しい空気が和らいだ。 しかし依然として、先ほどまでの恐怖は体に染み込んでいた。
 会議場にいた者達は、話す事は出来る様になったが、未だ体を震わせている。

「そうだ。 あの輩は、ミアリス様に刃向かう愚か者だ。 貴様も神に刃向かうと言うのか!」

 さすがは国王と言った所だろうか、立ち直り魔王に対し強気に発言する。
 だが相手が悪い。
 全ての生物の頂点とされる魔王に対し、たかだか一国の国王では相手にならない。

「妾を誰と心得る。 神に抗えずして魔王は名乗れんぞ」

 魔王に、神の威光など通じない。
 人族からは正義とされる神達に、対抗出来る数少ない生命体。 それが魔王と言う存在なのだ。
 
「しかもミアリスときている。 本質を見抜けぬ愚かな人間ごときが、この魔王に逆らうと言うのか?」

 この言葉に国王は完全に黙り込んでしまう。
 だがこの言葉は、リリアナにこの魔王がシンの味方であると教えていた。

「魔王様、何を為されにこちらに来られたのでしょうか?」

「ふむ、シンの荷物を受け取りに来た。 どこにあるのだ?」

 魔王の返答にリリアナは、すぐさま兵士達にシンの持ち物を持ってこさせるように命令する。

「ならん! あの者は処刑するのだ!」

 魔王の覇気にあてられてなお国王は兵士達を押し留める。 魔王の恐怖に立ち向かえるほど、ミアリスへの信仰は厚いのだ。

「ふむ、頑固じゃのう。 ならばシンを処刑場へ妾が連れて行ってやろう。 そこでミアリスを呼んでみるがよい。 ミアリスの目の前で、シンの処刑をするのじゃ。 さてあの神はどんな反応をするかのう?」

 魔王は、姿を消す。
 突然現れ突然消えた魔王のいた会議場に沈黙が訪れ、緊張から解放された面々は体から力が抜け崩れ落ちた。

「では、明後日処刑を行う。 王都の民へへ神に刃向かう愚か者の処刑を行うと布告しろ」

 国王はそう重鎮達に指示し、会議場を後にする。 残ったのは国王への不信感を持った者達だけだ。

「父上は何を考えているのだ」

「何故、ニグルに敬称をつけたのですかな?」

「わからない。 だが父上を、この国の国王のままにしてはいけないのだろう」

 残った者達は皆、国王への反逆を決意する。
 リリアナやこの国がシンに救われている事を知っているこの場の者は、処刑を阻止すべく行動を開始する。

 同じく残っていたリリアナは、シンと魔王の関係が今のやり取りでわかったのだが、何故シンが魔王に接触しこの行動をさせたのか理解出来ていなかった。

(シン様の事です。 わたくしよりも深く物事を考えているはず。 考えるのです。 シン様の為、わたくしは何をするべきなのか)

 リリアナは、シンの行動の真意を見抜く為、思考する。
 突然の計画変更に戸惑いながらも、彼女はシンの行動に対応する為、またも計画を練り直していた。
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