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森の世界
シーナの課題
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「第3組の予選は魔獣の討伐です。貴方達候補者の方々は世界樹より外に出て、指定の魔獣を仕留めここまでお持ち頂くことです」
シーナ達第3組の予選の内容を獣王選定責任者は告げる。
候補者達は仲間と共に魔獣の討伐は可能という事だった。
各候補者の下に指定された魔獣の名前が書かれている用紙が配られる。
(ユギリオスってどういう事⁉︎あんなの滅多に見つけられないじゃない!)
シーナに配られたのはユギリオスと書かれた用紙だった。
ユギリオスとはこの森の世界に存在する魔獣だがその生息数は少ない。
生息数が少ないのは、ユギリオスがこの世界で強者として君臨する為、単純に群れを成す必要は無く生殖能力が低いのだ。
ユギリオスの討伐は非常に困難だ。
その生息数が少ない事もあり、発見ですら出来ない可能性がある。
(他は、どうなの?)
シーナは耳を澄ます。
氷狼の耳は小さな呟きですら聞き逃さない。
「うわっフレ猿、最悪だな」
「アシララビットか、楽勝だな」
聞こえてくるのはシーナの課された討伐対象よりも格段に格下の魔獣の名前だ。
他を当たってもどれも難易度の低い魔獣であり、シーナの課題だけが異常に難易度が高い。
(ここでも、嫌がらせするのね)
考えられるのは獣王選定の責任者達からの嫌がらせである。
混じり者のシーナを獣王にするつもりなど彼らにはないのだ。
「期限は明日の明朝まで!先に仕留め持ち込んだ者から二次予選への進出を決定する!」
(いいわよ、やってやろうじゃない)
責任者の開始の合図で一斉に候補者達が走り出す。
課された難題にシーナは闘志を燃やしてシン達と合流をする。
「おにぃさん、私は責任者達にも嫌われているようです」
合流したシン達にターゲットとなったユギリオスの特徴を伝える。
ユギリオスは常に地中に隠れており、獲物が近くに現れると姿を現す。
地中にいるユギリオスの発見はほぼ不可能であり、運に恵まれなければ遭遇は難しい。
仮に見つけたとしてもユギリオスは翼を持っており、空を飛行する。
「妾に任せれば良いぞ、多少魔力を使ってしまうが仕方ないだろうからの」
世界樹から外に出てティナは生命探知をする。
ティナの体から円形の魔力による輪が広がり、範囲をどんどん広げていく。
「おったの、地中に隠れておる。ここから北北東の方向だ」
ティナの感知にユギリオスは見つかった。
すぐさまシン達は走り出すがシーナが突然膝から崩れ落ちる。
「シーナ⁉︎どうしたの?」
慌ててユナがシーナに近付き体を起こす。
「ちょっと!何よこれ⁉︎」
「ユナ!触れるでない!」
シーナの体を起こしたユナは異変を見つけ声を上げる。
同じくシーナの様子を確認したティナがユナに離れるように指示する。
「なっ何だよ、これは?」
シーナの右手が何かに侵食されたかの様に奇妙な痣が出来ていた。
ティナの言葉に従いまだ侵食されていない腕をキツく布で締め付ける。
「これは、疫病の一種だ。ワシリオンと言う病原菌が起こす。シーナは何か得体のしれん物に触ったか?」
「いや、触ってないと思う。俺達といる間は何もしてない」
シーナはずっとシン達と共にいた。
シーナに病原菌が入り込んだのならシン達も感染するはずだ。
「この痣に触れるでないぞ。触れた所から感染する」
「どうすれば治るんだ?」
長い時を生きているティナはこういう時に頼もしい。
その知識から的確に対応策をシン達に指示をする。
「なら二手に分かれよう。俺とナナとティナはユギリオスの討伐。ユナとエルリック、リリアナはシーナを見ていてくれ」
リリアナはティナから言われた対応を記憶しユナに病原菌へ対抗する為の薬草の採取を指示する。
ユギリオスにはシンとナナ、発見の為にティナは欠かせない。
「エルリック、リリアナとシーナを頼むぞ」
「ああ、シン達も早く行くんだ」
痣に触れぬようにシーナを移動させエルリックはシーナとリリアナを守るように位置を取る。
「ナナ、ティナ、行くぞ」
シン達はティナの指示のもとユギリオスに向かい走り出す。
しばらく走るとティナから停止の指示が出る。
「どこだ?何も違和感は無いぞ?」
「地面の中だ。シン、その鎌で地面を抉りとれるか?」
ティナに指差された場所へと漆黒の大鎌を振るう。
「ギャアアアウ」
すると消失した地面から黒と緑の体色をした竜のような生物が躍り出る。
前足は翼となっており、後ろの足は筋肉により肥大し地面を蹴り上げると振動が起こる。
「飛ばれる前に仕留めるぞ!」
先手はナナがとった。
地面から這い出たユギリオスに向かい上空から剣の雨を降らせる。
「シン君、硬い」
ナナの射出した剣や槍は半分ほどがその鱗に弾かれ、残りの武器も僅かに傷を付けただけだった。
「硬いなら消し飛ばす!」
ユギリオスの下にシンは走り出し漆黒の大鎌をその尻尾に向け振るう。
ユギリオスの暴れる振動により頭部までの跳躍が困難だった事と尻尾による攻撃がユギリオスから放たれた為、振るわれる尻尾に大鎌を突き立てた。
「グギャウゥ」
根元から尻尾を消失されユギリオスはバランスを崩し大地に倒れ込む。
だがその巨体が沈み込んだ衝撃で先ほどよりも激しく地面が揺れシン達は足を止められる。
「あとは、私がやる」
そんな中、ナナが取り出したのは巨大な弩だった。
矢の役割を持つのはその形に矢としての役割を持たせた大きな槍だ。
先端は螺旋状になっており、貫通力を高められている。
ボッと言う短い発射音の後にナナの射出した槍は回転しユギリオスの尻尾の切断面から内部を抉る。
悲鳴を上げるユギリオスを無視しもう一度槍を放つ。
尻尾の切断面から槍はユギリオスを抉り首の辺りから槍が抜け出す。
「首を飛ばすぞ」
地面に倒れ込み痙攣するユギリオスの首をシンは消し飛ばす。
確実にとどめを刺さなければ危険と言う事をシンも理解している。
「全身を持ってかなきゃなんないよな」
仕留めたユギリオスは7.8メートルはある。
頭部だけならシンにも持てるがそれ以外は重すぎる。
「私が、持つ」
どうしようかと考えるシンを無視してナナはユギリオスの体を掴み引きずる。
重さを感じないかのように楽々とユギリオスの巨体を音を立てながら引いている。
「それじゃ、戻るぞ」
ナナの怪力に驚きながらもシーナ達の所へと戻る。
「シーナの所に何か人が近付いてるの」
生命探知を発動させたティナがシーナに近寄る不審な人物に気付き、シン達に早く戻るよう指示をする。
ユギリオスと言う荷物が増えた為、シン達のスピードは先ほどよりも遅い。
「なんもないでくれよ」
**
「君、こんな所でなにをしている」
近寄る人物にエルリックは槍を向け近寄るなとサインをする。
今の彼の仕事はシーナとリリアナを守る事であり、相手が何者であろうと近づかせる事は出来ない。
「お兄さん怖いなぁ、僕はただシーナさんの様子を見に来ただけだよ」
エルリック達に近寄るのはナナと同じ位の背丈をした少年だった。
シーナと同じ第3組の獣王候補者である少年は自分のターゲットである小さな魔獣を片手に持ち、シーナに近寄っていた。
「君には関係無い、それ以外は近づくな」
エルリックの忠告を無視して少年はシーナへと近づく。
だがそれを許すエルリックではない。
少年に向け槍の柄を叩き込む、だが少年は槍を回避し後ろへと距離をとった。
「お兄さん、シーナさん大変でしょ?」
「何が言いたい?」
少年がこんな行動をする意味がわからない。
シーナを無視してさっさと獲物を提出しに行けば良いのだ。
「ほんとそのシーナさんはバカだよね、それに赤い髪のお姉さんも」
「どういう意味だ?」
なぜ、ここでユナが出て来るのかもわからない。
「最初から僕にしていたように冷たくしてれば良かったんだ。それを見た目に騙されて握手なんてしちゃうんだから」
少年の言葉にエルリックは言葉でなく槍の一突きを持って答えた。
だがまたもエルリックの槍は回避される。
「お前がシーナさんに病原菌を移したのか?」
「そうだよ、僕の混ざったのはワシリオン。僕に触ればお兄さんもそこのシーナさんみたいになっちゃうよ」
嘲笑うように笑みを浮かべ少年はエルリックと話をする。
この少年はその見た目を利用し候補者に近付きその病原菌を移していたのだった。
「どう?騙されて苦しむのは?お仲間の命が危ないよ」
勝ち誇ったように少年はエルリックに歩み寄る。
自分に触れない事とシーナを疫病へとかけた事にもう勝ったつもりでいるのだ。
だが近づく少年にエルリックはまたも槍を放つ。
エルリックはわざと当てないように手加減している為少年は回避する。
「お兄さんの槍、全然怖くないね。簡単に避けれるよ、それに僕に当たるのが槍でも関係ないからね。移動してお兄さんの腕までワシリオンは動くから」
エルリックが手加減している事など気付きもせず少年は自慢げに話をする。
「それが?残念ながら僕にはその病原菌は通じない」
「何で!そんな事わからないじゃん!」
「本当の事だ。この槍に貫かれたくないならさっさとここから消えるんだ」
エルリックの言葉に少年は反応する。
少年の言う通りエルリックの言葉は嘘なのだが、まだ若い少年はこの程度の嘘も見抜けない。
駆け引きにおいてエルリックに勝つ事など少年には出来ない。
「お兄さんの槍なんて当たらないし」
無防備にエルリックに少年は近付く。
だがエルリックは槍での攻撃をしなかった。
「いっ痛い!」
槍で攻撃と見せかけエルリックが行ったのは足元の石を少年にぶつける事だった。
槍の柄で正確に石を弾き少年に直撃させたのだ。
石が腹部に当たり少年はうずくまる。
エルリックの勝ちがほぼ決まりかけたが少年に流れが傾く事が起こる。
「ちょっとエルリック!何してるのよ!」
薬草を取り終えたユナがエルリック達の下へ戻って来た。
少年を痛めつけるエルリックをユナは睨み付けた。
「ユナさん、この少年がシーナさんに疫病を感染させた張本人です。近付かないで下さい、ユナさんも感染します」
少年に近付くユナをエルリックは忠告する。
だがユナの事に気付いた少年はここぞとばかりにユナを味方に付けようとする。
「お姉さん、違うんです!僕はシーナさんの為に病気を心配して近付いたのにこのお兄さんが邪魔してくるんです!」
泣きそうに演技をしてユナに少年は話をする。
少年の言葉にエルリックは反論するがユナはどちらが本当の事を言っているのか迷ってしまう。
弱い少年に槍を向けるエルリックが信じられないのだ。
「ユナさん」
そんな時にリリアナがユナに声をかける。
「ユナさん、エルリックはわたくし達の仲間です。その仲間であるエルリックの言葉とシーナさんの獣王選定の敵であるほとんど話のした事のない少年、どちらを信じるのです?」
リリアナの言葉にユナは決断をする。
そんな事最初から決まってるじゃないかと先ほどまでの自分に叱責をする。
「エルリック、ごめんなさい。私が間違ってたわ、リリアナもありがとう」
自分の間違いをユナはすぐに認めエルリックに謝罪をする。
そしてエルリックの隣に立ち少年に真紅の刀を向ける。
「ユナさん、あの少年に触れるとシーナさんと同じ様に感染します」
「どうするの?」
「さっきは石を弾いてぶつけました。少年に触った武器からも感染する様ですので」
「そう、ならこれを投げまくれば良いのね」
エルリックから攻撃の仕方を聞いたユナは近くにあった拳大の石を集め、少年に向け投げつける構えを取る。
「やっやめて!ごめんなさい」
鬼の様な形相のユナに恐れ少年はすぐさま謝りを入れるが自分への怒りに沸くユナには聞こえない。
「うっぐごっ!」
少年の顔面へと石は投げ込まれ少年は気を失い地面に横たわる。
成長途中の顔は歪み石の直撃した顎は砕け、歯は何本も抜け残りは砕けている。
「死なせるのはダメみたいだからこのぐらいにしておくわ」
リリアナに薬草を渡しユナは少年に言う。
シーナに疫病をもたらした少年にエルリックは良い感情を持っていなかったが、ユナの一撃にはさすがに同情してしまった。
ティナが教えた薬草による治療はすぐに効果を発揮し、シーナは歩けるぐらいにはすぐに回復した。
「すみません、ご迷惑をお掛けしたみたいです」
「良いのですよ、仲間なのですから」
リリアナの答えに笑顔になるシーナ。
するとシン達が巨大なユギリオスを引きずりながら戻って来た。
「シーナは大丈夫か?」
シーナの安否を確認しシン達は安堵する。
近くに横たわる少年の無残な顔に顔を引きつらせながら世界樹へと戻る。
「ごっ合格だ、シーナの二次予選進出を認める」
ユギリオスを仕留め持ち帰ったシーナにユグンの人々は驚きに声を上げ、責任者達は悔しそうにシーナの合格を認める。
ユナに倒された少年は他の候補者にも接触したらしく半数ほどは期限までに獲物を仕留められなかった。
「次の二次予選までまだ時間があります。シーナさんも休んでいた方が良いでしょう。他の偵察はわたくしとエルリックでします。シン様達はシーナさんの護衛をお願いします、同じ様な手口があるかもしれませんので」
宿屋へと戻りシン達は休息を取る。
残りの一次予選への偵察とシーナの護衛にシン達はそれぞれ役割を分担する。
「おにぃさん」
「なんだ?」
「おにぃさんを待ってて、本当に良かった」
シーナ達第3組の予選の内容を獣王選定責任者は告げる。
候補者達は仲間と共に魔獣の討伐は可能という事だった。
各候補者の下に指定された魔獣の名前が書かれている用紙が配られる。
(ユギリオスってどういう事⁉︎あんなの滅多に見つけられないじゃない!)
シーナに配られたのはユギリオスと書かれた用紙だった。
ユギリオスとはこの森の世界に存在する魔獣だがその生息数は少ない。
生息数が少ないのは、ユギリオスがこの世界で強者として君臨する為、単純に群れを成す必要は無く生殖能力が低いのだ。
ユギリオスの討伐は非常に困難だ。
その生息数が少ない事もあり、発見ですら出来ない可能性がある。
(他は、どうなの?)
シーナは耳を澄ます。
氷狼の耳は小さな呟きですら聞き逃さない。
「うわっフレ猿、最悪だな」
「アシララビットか、楽勝だな」
聞こえてくるのはシーナの課された討伐対象よりも格段に格下の魔獣の名前だ。
他を当たってもどれも難易度の低い魔獣であり、シーナの課題だけが異常に難易度が高い。
(ここでも、嫌がらせするのね)
考えられるのは獣王選定の責任者達からの嫌がらせである。
混じり者のシーナを獣王にするつもりなど彼らにはないのだ。
「期限は明日の明朝まで!先に仕留め持ち込んだ者から二次予選への進出を決定する!」
(いいわよ、やってやろうじゃない)
責任者の開始の合図で一斉に候補者達が走り出す。
課された難題にシーナは闘志を燃やしてシン達と合流をする。
「おにぃさん、私は責任者達にも嫌われているようです」
合流したシン達にターゲットとなったユギリオスの特徴を伝える。
ユギリオスは常に地中に隠れており、獲物が近くに現れると姿を現す。
地中にいるユギリオスの発見はほぼ不可能であり、運に恵まれなければ遭遇は難しい。
仮に見つけたとしてもユギリオスは翼を持っており、空を飛行する。
「妾に任せれば良いぞ、多少魔力を使ってしまうが仕方ないだろうからの」
世界樹から外に出てティナは生命探知をする。
ティナの体から円形の魔力による輪が広がり、範囲をどんどん広げていく。
「おったの、地中に隠れておる。ここから北北東の方向だ」
ティナの感知にユギリオスは見つかった。
すぐさまシン達は走り出すがシーナが突然膝から崩れ落ちる。
「シーナ⁉︎どうしたの?」
慌ててユナがシーナに近付き体を起こす。
「ちょっと!何よこれ⁉︎」
「ユナ!触れるでない!」
シーナの体を起こしたユナは異変を見つけ声を上げる。
同じくシーナの様子を確認したティナがユナに離れるように指示する。
「なっ何だよ、これは?」
シーナの右手が何かに侵食されたかの様に奇妙な痣が出来ていた。
ティナの言葉に従いまだ侵食されていない腕をキツく布で締め付ける。
「これは、疫病の一種だ。ワシリオンと言う病原菌が起こす。シーナは何か得体のしれん物に触ったか?」
「いや、触ってないと思う。俺達といる間は何もしてない」
シーナはずっとシン達と共にいた。
シーナに病原菌が入り込んだのならシン達も感染するはずだ。
「この痣に触れるでないぞ。触れた所から感染する」
「どうすれば治るんだ?」
長い時を生きているティナはこういう時に頼もしい。
その知識から的確に対応策をシン達に指示をする。
「なら二手に分かれよう。俺とナナとティナはユギリオスの討伐。ユナとエルリック、リリアナはシーナを見ていてくれ」
リリアナはティナから言われた対応を記憶しユナに病原菌へ対抗する為の薬草の採取を指示する。
ユギリオスにはシンとナナ、発見の為にティナは欠かせない。
「エルリック、リリアナとシーナを頼むぞ」
「ああ、シン達も早く行くんだ」
痣に触れぬようにシーナを移動させエルリックはシーナとリリアナを守るように位置を取る。
「ナナ、ティナ、行くぞ」
シン達はティナの指示のもとユギリオスに向かい走り出す。
しばらく走るとティナから停止の指示が出る。
「どこだ?何も違和感は無いぞ?」
「地面の中だ。シン、その鎌で地面を抉りとれるか?」
ティナに指差された場所へと漆黒の大鎌を振るう。
「ギャアアアウ」
すると消失した地面から黒と緑の体色をした竜のような生物が躍り出る。
前足は翼となっており、後ろの足は筋肉により肥大し地面を蹴り上げると振動が起こる。
「飛ばれる前に仕留めるぞ!」
先手はナナがとった。
地面から這い出たユギリオスに向かい上空から剣の雨を降らせる。
「シン君、硬い」
ナナの射出した剣や槍は半分ほどがその鱗に弾かれ、残りの武器も僅かに傷を付けただけだった。
「硬いなら消し飛ばす!」
ユギリオスの下にシンは走り出し漆黒の大鎌をその尻尾に向け振るう。
ユギリオスの暴れる振動により頭部までの跳躍が困難だった事と尻尾による攻撃がユギリオスから放たれた為、振るわれる尻尾に大鎌を突き立てた。
「グギャウゥ」
根元から尻尾を消失されユギリオスはバランスを崩し大地に倒れ込む。
だがその巨体が沈み込んだ衝撃で先ほどよりも激しく地面が揺れシン達は足を止められる。
「あとは、私がやる」
そんな中、ナナが取り出したのは巨大な弩だった。
矢の役割を持つのはその形に矢としての役割を持たせた大きな槍だ。
先端は螺旋状になっており、貫通力を高められている。
ボッと言う短い発射音の後にナナの射出した槍は回転しユギリオスの尻尾の切断面から内部を抉る。
悲鳴を上げるユギリオスを無視しもう一度槍を放つ。
尻尾の切断面から槍はユギリオスを抉り首の辺りから槍が抜け出す。
「首を飛ばすぞ」
地面に倒れ込み痙攣するユギリオスの首をシンは消し飛ばす。
確実にとどめを刺さなければ危険と言う事をシンも理解している。
「全身を持ってかなきゃなんないよな」
仕留めたユギリオスは7.8メートルはある。
頭部だけならシンにも持てるがそれ以外は重すぎる。
「私が、持つ」
どうしようかと考えるシンを無視してナナはユギリオスの体を掴み引きずる。
重さを感じないかのように楽々とユギリオスの巨体を音を立てながら引いている。
「それじゃ、戻るぞ」
ナナの怪力に驚きながらもシーナ達の所へと戻る。
「シーナの所に何か人が近付いてるの」
生命探知を発動させたティナがシーナに近寄る不審な人物に気付き、シン達に早く戻るよう指示をする。
ユギリオスと言う荷物が増えた為、シン達のスピードは先ほどよりも遅い。
「なんもないでくれよ」
**
「君、こんな所でなにをしている」
近寄る人物にエルリックは槍を向け近寄るなとサインをする。
今の彼の仕事はシーナとリリアナを守る事であり、相手が何者であろうと近づかせる事は出来ない。
「お兄さん怖いなぁ、僕はただシーナさんの様子を見に来ただけだよ」
エルリック達に近寄るのはナナと同じ位の背丈をした少年だった。
シーナと同じ第3組の獣王候補者である少年は自分のターゲットである小さな魔獣を片手に持ち、シーナに近寄っていた。
「君には関係無い、それ以外は近づくな」
エルリックの忠告を無視して少年はシーナへと近づく。
だがそれを許すエルリックではない。
少年に向け槍の柄を叩き込む、だが少年は槍を回避し後ろへと距離をとった。
「お兄さん、シーナさん大変でしょ?」
「何が言いたい?」
少年がこんな行動をする意味がわからない。
シーナを無視してさっさと獲物を提出しに行けば良いのだ。
「ほんとそのシーナさんはバカだよね、それに赤い髪のお姉さんも」
「どういう意味だ?」
なぜ、ここでユナが出て来るのかもわからない。
「最初から僕にしていたように冷たくしてれば良かったんだ。それを見た目に騙されて握手なんてしちゃうんだから」
少年の言葉にエルリックは言葉でなく槍の一突きを持って答えた。
だがまたもエルリックの槍は回避される。
「お前がシーナさんに病原菌を移したのか?」
「そうだよ、僕の混ざったのはワシリオン。僕に触ればお兄さんもそこのシーナさんみたいになっちゃうよ」
嘲笑うように笑みを浮かべ少年はエルリックと話をする。
この少年はその見た目を利用し候補者に近付きその病原菌を移していたのだった。
「どう?騙されて苦しむのは?お仲間の命が危ないよ」
勝ち誇ったように少年はエルリックに歩み寄る。
自分に触れない事とシーナを疫病へとかけた事にもう勝ったつもりでいるのだ。
だが近づく少年にエルリックはまたも槍を放つ。
エルリックはわざと当てないように手加減している為少年は回避する。
「お兄さんの槍、全然怖くないね。簡単に避けれるよ、それに僕に当たるのが槍でも関係ないからね。移動してお兄さんの腕までワシリオンは動くから」
エルリックが手加減している事など気付きもせず少年は自慢げに話をする。
「それが?残念ながら僕にはその病原菌は通じない」
「何で!そんな事わからないじゃん!」
「本当の事だ。この槍に貫かれたくないならさっさとここから消えるんだ」
エルリックの言葉に少年は反応する。
少年の言う通りエルリックの言葉は嘘なのだが、まだ若い少年はこの程度の嘘も見抜けない。
駆け引きにおいてエルリックに勝つ事など少年には出来ない。
「お兄さんの槍なんて当たらないし」
無防備にエルリックに少年は近付く。
だがエルリックは槍での攻撃をしなかった。
「いっ痛い!」
槍で攻撃と見せかけエルリックが行ったのは足元の石を少年にぶつける事だった。
槍の柄で正確に石を弾き少年に直撃させたのだ。
石が腹部に当たり少年はうずくまる。
エルリックの勝ちがほぼ決まりかけたが少年に流れが傾く事が起こる。
「ちょっとエルリック!何してるのよ!」
薬草を取り終えたユナがエルリック達の下へ戻って来た。
少年を痛めつけるエルリックをユナは睨み付けた。
「ユナさん、この少年がシーナさんに疫病を感染させた張本人です。近付かないで下さい、ユナさんも感染します」
少年に近付くユナをエルリックは忠告する。
だがユナの事に気付いた少年はここぞとばかりにユナを味方に付けようとする。
「お姉さん、違うんです!僕はシーナさんの為に病気を心配して近付いたのにこのお兄さんが邪魔してくるんです!」
泣きそうに演技をしてユナに少年は話をする。
少年の言葉にエルリックは反論するがユナはどちらが本当の事を言っているのか迷ってしまう。
弱い少年に槍を向けるエルリックが信じられないのだ。
「ユナさん」
そんな時にリリアナがユナに声をかける。
「ユナさん、エルリックはわたくし達の仲間です。その仲間であるエルリックの言葉とシーナさんの獣王選定の敵であるほとんど話のした事のない少年、どちらを信じるのです?」
リリアナの言葉にユナは決断をする。
そんな事最初から決まってるじゃないかと先ほどまでの自分に叱責をする。
「エルリック、ごめんなさい。私が間違ってたわ、リリアナもありがとう」
自分の間違いをユナはすぐに認めエルリックに謝罪をする。
そしてエルリックの隣に立ち少年に真紅の刀を向ける。
「ユナさん、あの少年に触れるとシーナさんと同じ様に感染します」
「どうするの?」
「さっきは石を弾いてぶつけました。少年に触った武器からも感染する様ですので」
「そう、ならこれを投げまくれば良いのね」
エルリックから攻撃の仕方を聞いたユナは近くにあった拳大の石を集め、少年に向け投げつける構えを取る。
「やっやめて!ごめんなさい」
鬼の様な形相のユナに恐れ少年はすぐさま謝りを入れるが自分への怒りに沸くユナには聞こえない。
「うっぐごっ!」
少年の顔面へと石は投げ込まれ少年は気を失い地面に横たわる。
成長途中の顔は歪み石の直撃した顎は砕け、歯は何本も抜け残りは砕けている。
「死なせるのはダメみたいだからこのぐらいにしておくわ」
リリアナに薬草を渡しユナは少年に言う。
シーナに疫病をもたらした少年にエルリックは良い感情を持っていなかったが、ユナの一撃にはさすがに同情してしまった。
ティナが教えた薬草による治療はすぐに効果を発揮し、シーナは歩けるぐらいにはすぐに回復した。
「すみません、ご迷惑をお掛けしたみたいです」
「良いのですよ、仲間なのですから」
リリアナの答えに笑顔になるシーナ。
するとシン達が巨大なユギリオスを引きずりながら戻って来た。
「シーナは大丈夫か?」
シーナの安否を確認しシン達は安堵する。
近くに横たわる少年の無残な顔に顔を引きつらせながら世界樹へと戻る。
「ごっ合格だ、シーナの二次予選進出を認める」
ユギリオスを仕留め持ち帰ったシーナにユグンの人々は驚きに声を上げ、責任者達は悔しそうにシーナの合格を認める。
ユナに倒された少年は他の候補者にも接触したらしく半数ほどは期限までに獲物を仕留められなかった。
「次の二次予選までまだ時間があります。シーナさんも休んでいた方が良いでしょう。他の偵察はわたくしとエルリックでします。シン様達はシーナさんの護衛をお願いします、同じ様な手口があるかもしれませんので」
宿屋へと戻りシン達は休息を取る。
残りの一次予選への偵察とシーナの護衛にシン達はそれぞれ役割を分担する。
「おにぃさん」
「なんだ?」
「おにぃさんを待ってて、本当に良かった」
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