プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

獣王の正体

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「世界樹の試練か、随分と久しぶりに感じるな」

 世界樹の中の都市ユグンに散らばる試練への転移魔法陣へと向かうシンの表情は複雑だ。
 リリアナやエルリック、シーナと共に挑んだ試練は、苦戦した覚えがある。

 その苦戦した試練も30階層までしか突破していない。
 その試練がまだ70も残っているとなると気が重くなるのも仕方がないだろう。

「リリアナがいないのが、心配ね」

 さらに頭痛の種となるのは、リリアナの不在である。
 10層ごとで難易度の高い試練では、リリアナの頭脳に何度も助けられた。
 今回試練に挑むメンバーは、明らかに力押しを得意とする者達だ。

 20階層の試練などでは、何とか切り抜けたものの、シンやナナの行動により、正規ルートでの攻略が不可能となってしまった。

「そういえは、ロイズとアイナとメリィは試練ってどこから始められるんだ?」

 30階層から始められないのであれば、また最初からやり直しとなる。

「世界樹の試練は、パーティーごとの挑戦になるから、僕達もシンと同じパーティーになれば、途中から始められるよ」

 森の世界の住人とだけあり、ロイズは世界樹の試練についても知っている事は多い。
 試練を最初からしなくて良いとわかったシンは一先ず安心をする。

「宿はとらない、世界樹に潜りっぱなしで良いよな?」

 携帯用の宿泊魔導具を持っているシン達は、試練の間の前室で寝泊まりをする事にする。
 宿屋の方が疲れなどは取れやすいが、獣王に狙われている現在、ユグンの街中には出来るだけいたくはない。

「食料だけは、毎回確保しに行くからな」

 少し不満そうな気配をナナから感じたので、食料の確保はすると告げる。
 一食でも食事を抜く事は、ナナにとって死活問題だ。

「よし、行くぞ」

 転移魔法陣へと到着したシンは、ロイズとアイナ、メリィをシーナがやっていたようにパーティー登録する。

「あれ?リリアナ達の名前があるぞ」

 転移魔法陣へと乗り込んだシンは、パーティーメンバーの名前に違和感を持つ。
 シンとユナ、ティナにアイナ、ロイズ、メリィと続いてリリアナとエルリックの名前も入っていたのだ。

 シーナの名前が乗っていないにも関わらず、リリアナ達の名前がある事を疑問に思わないはずがない。

「まさか、試練の間にいるのか?」

 ナナの話では、世界樹の試練の間は捜索していない。

「1階層ずつ探してみる?」

 世界樹の試練の間に居るのならば、恐らく前室に控えている。
 移動だけではそう時間がかからない為、ユナの提案通りに、1階層ごとにシン達は移動をする。

「シン君、いない」

 アルファスの能力が効かないナナでしか、リリアナ達の存在を認識出来ない。
 1階層ごと、ナナに確認を取り、転移を繰り返す。
 だがリリアナ達を見つける事は出来ない。

「次が30階層か」

 リリアナ達を見つけられないまま、とうとう30階層に辿り着く。
 以前は突破の叶わなかった試練だが、シン達の予想ではアイナにより、突破可能だ。

「シン君、いる」

 30階層に転移したナナは、これまでと違う反応を示す。
 何がいるのか、聞く必要はない。

「シン様!よくぞご無事で」

 しばらく見る事のなかった、美しい金髪の女性の姿にシン達は安堵をする。
 その姿は以前と変わりなく、優雅さを感じさせる。

「ここに居たのか、でも何で姿がわかるんだ?」

 アルファスの能力により、リリアナ達の存在は認識出来ないはず。
 しかし、今はこうしてリリアナとエルリックの姿を認識している。

「話すと長いのですが、よろしいですか?」

 久々の再会を機に、これまでの経緯を互いに説明をする事となる。
 シンはまず、自分達の事を話す。
 アイナの事、そして森の世界に戻ってからの事だ。

「次はわたくし達の事ですわね。端的に言いますと、恐らくアルファスの監視が獣王に見破られました」

 ユナの仮定した通り、アルファスの監視は獣王に見破られ、リリアナ達を獣王の手から逃す為、アルファスは一時的にリリアナ達の存在を認識出来なくしたようだった。

 リリアナ達はアルファスから直接言われた訳ではないらしく、アルファスが味方である事は確実ではないと説明するが、ユナの仮定と同じくリリアナもそう考えていたようだ。

 アルファスに襲撃された際、リリアナとエルリックは捕らえられ、そのまま世界樹の試練の間に連れ出された。

 最初は何故ここに連れ出されたのか、リリアナ達も疑問に思っていた。
 だがその後の経過から、不測の事態が起こっているとの情報を、ユグンに偵察に向かった際に掴んだようだ。

 アルファスに何が起きたのか、それ自体はわからないが、シン達と合流しなければならないであろう事は察する事が出来た。

 そして、獣王について何かが掴める場所、獣王に感づかれずシン達と確実に合流出来る場所、それが世界樹の試練の間とリリアナ達は考え、待ち続けた。

 ナナの事が気がかりであったが、下手に行動する事も出来ず、どうする事も出来なかったようだ。

「恐らく、世界樹の頂上に行けとアルファスは言っているのかもしれません」

 シン達とリリアナ達は共通の目的に辿り着いたようである。

「シン様、アイナさんとお話ししたいのですが」

 シンの仲間となったアイナにリリアナは話があるようだ。
 アイナにはリリアナ達と合流してから獣王について、知っている事を話してもらうつもりであったので、断る理由はない。

「獣王について、お話をして頂けますか?」

「うむ、良いぞ。最初からそのつもりであったしな」

 試練の間前室の机を囲い、アイナの話を待つ。
 今となっては、先に聞いていても良かったとシンは反省をしている。

「獣王の正体は、山の神サリスだ」

「「えっ⁉︎」」

 アイナの言葉に、ティナ以外の面々が驚きの声を上げる。
 予想のしていなかった獣王の正体に信じられないと言った表情だ。
 だが、魔王であるティナの様子からも、それが事実であると証明している。

「奴は、この世界の住人の体を使って何かをしようと考えている。まず、混じり者などの人族を作った時点で奴の性格の悪さが伺えますね」

 シーナのように蔑まれる者が大多数を占める世界に、アイナも嫌気がさしているようであった。

「世界樹の頂上には、何があるんだ?」

 この森の世界に来たばかりの頃、世界樹の頂上に山の神サリスがいると聞いていたシンは、獣王がサリスであると知り、初めに疑問に思った。

「それは行った者にしかわからないんじゃないの?」

 シンの疑問にユナが答える。
 世界樹の事は、仲間以外に話す事は出来ないのだ。

「神なら、何でわざわざ精神を乗っ取るなんて面倒な事をするんだ?」

 山の神ならば、ミアリスと同じように世界を支配すれば良い。
 わざわざ人族の体を使い、王となる必要などないのだ。

「我にもわかりません。ですが山の神が人族の体を使う以上、神としての力を使いこなす事は出来ない。人族には神の力を受け入れられるほどの器がないですから」

 シン達からしたら、山の神は自ら弱くなっていると感じられる。
 弱体化をしてまで、そして神から王に格下げをする意味がわからない。

「頂上に行けば、わかると言う事ですわね」

 獣王の、そして山の神サリスを知る為には世界樹の頂上を目指すしかなさそうだとリリアナは結論を出す。
 アイナとロイズを加えたこのメンバーなら、頂上に辿り着く事は可能だとリリアナは考えていた。

「なら、早いとこ攻略しよう」

 もとより考える事を得意としないシンは、先に進むと全員を連れ、試練の間へと向かう。
 巨大な両開きの扉は、以前と変わらず威圧感を与えてくる。

『病でない病を患え』

 試練の間へと入り込んだシン達に、懐かしさを感じさせる声が聞こえて来る。
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