プロクラトル

たくち

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獣王との戦い

神への信頼

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　唯一神クラウ・ディアスが何かをした。
　そう感じとった瞬間、シン達の視界は闇に覆われた。

「戻って来たのか？」

　しばらくの停滞感の後、目を覚ましたシンは、懐かしさを感じる試練の間に戻って来た事を理解した。

　周囲を見回すと、ユナ達はまだ目覚めておらず、意識を取り戻しているのはシンのみであった。

「やあ、久し振りだね」

　振り返るシンの側に、無の神ノアが宙を漂い、声をかけてくる。
　久しく会話すらしていなかったノアは、以前と変わらず、笑みを浮かべてシンを見つめている。

「休憩は終わったのか？」

　何を話すべきか、シンは迷ったが、普段と変わらない態度で会話をする事を決めた。
　世界樹の試練では、断片的な場面しか見ていないが、ノアに対しての感情は少なからず影響を受けている。

　それでも、シンにとってノアは、唯一心を許せる神であり、信頼しているのは今も変わりはない。

「世界分断前を見たんだね？」

　ノアは余計な会話をする気はないようであった。
　普段、話を脱線させる傾向にあるノアだが、真剣な話をすると決めている時は、必ず本題のみを進めようとする。

　それを知っているシンは、いつものやる気のない表情を変え、真剣な眼差しでノアを見つめる。
　ノアに逆らえばどうなるのか、身をもって知っていた。

「ああ、でも中途半端にしかわからなかったな」

　ノアに嘘は通用しない。
　如何に代行者であるシンであっても、それをしてしまえば、ノアにより消滅させられる。

「そうか、シンはどう思ったんだい？」

「どう、か。そうだな、なんとなくだが、神ってのは全員身勝手なんだと感じたな」

　世界分断前の人族達は、神により振り回され、無駄に命を散らしていたように思える。
　神の意志により、あのひどい戦いは起こされたのだ。

「身勝手か、そうに決まっているじゃないか。神とは全ての頂点に立つ存在だよ？」

　おどけたように笑いながらノアは答える。
　その言葉は、妙に説得力があるように思えた。
　人族の王でさえ、身勝手な存在だ。
　全ての頂点に立つ神であれば、それ以上であってもおかしくはない。

「そうだな、他にも何か聞きたい事があるんだろ？」

　世界樹への接触はノアにも負担が大きい。
　それをしてまでこうしてシンのもとに現れたという事は、この程度の受け答えをしに来た訳ではない。
　シンにはそれが、すぐに理解出来る。

「ボクを軽蔑するかい？」

　ノアの表情が、長らく共に時間を過ごしたシンにしかわからない程度に、一瞬暗くなるのをシンは感じ取った。

　世界樹の試練の内容を、ノアは深く知らない。
　シンにはその事がわかる、試練の内容は、サリスの知る事を再現しているとティナが語っている。

　ここでその事を話すと言う事は、世界樹の試練で見たノアの行動は事実であり、もしくはそれ以上の事をしている可能性もあるだろう。

　ノアへの返答に、シンは少し間をあけてしまう。
　その間にもノアの不安げな感情をシンは感じ取る。
　返答を遅らせてしまった事を、シンは後悔する。

「まあ、少しはするな。でも理由があるんだろ？」

　シンの言葉に、ノアは満足気に頷き、微笑みを浮かべる。

「そう、なら良いんだ。ボクはこれで失礼するよ」

　シンとしては何があったのか、詳しく知りたかったが、ノアはすぐに何処かに消えてしまう。

　シンの感じる限り、ここまでノアは時間凍結の神技を使っている。
　世界樹への干渉に、時間凍結。
　これ以上は負担が大きいのだろう。

「シン、起きてたの？」

　ノアが消えると同時に、他の面々が目を覚ます。
　世界樹の試練から戻った一同は、感覚を取り戻すように、少しずつ体を動かし始める。

「これで、終わりみたいですね」

　リリアナは試練の終わりを確信していた。
　世界の始まり、その物事を目撃したシン達は、試練から戻された事から、70階層の試練は終わったと考えても良いだろう。

「ノアの事は、本当なの？」

　試練から戻ったユナは、ティナに問いかける。
　ノアはこの場の者にとって、味方としている神だ。
　ロイズとメリィには関わりがないが、他の者達にはその存在が、旅をする理由に関わる。

　世界の始まりが断片的な記憶である事は知っている。
　だが、あの時のノアの残酷さ、醜悪さに良い印象を持つ事は出来ない。

「それは妾に聞く事ではないの。自分で見極め、自分の意志で、決めなくてはならんぞ」

　ティナの言葉に、シンを除く一同は、言葉をのむ。
　ここからシンと共に、旅を続けるのか、続けないのか、ここで判断しなくてはならない。

「わたくしの意志は、変わりません。シン様、そしてノア様にどこまでも着いて行くと決めましたので」

　誰よりも早く、リリアナは答えを出す。

「僕はシンの友であり、リリアナ様の従者だ。主人の意志に従うのが、当たり前の事だ。それに間違いがあれば、正しい道に引き戻すのも僕の役目だしね」

　続いてエルリックが答える。

「私も、最初から着いてくつもりよ」

　ユナも、戸惑いなく答える。
　その後も、ナナやアイナはシンへの信頼を主張する。
　今更、確認する事でもなかった。
　シンは、その事に安堵をする。
　最悪の場合、この仲間達と戦闘する事を覚悟していたのだ。

「さあ、次に行きましょう」

　世界樹の試練は、まだ続く。
　決意を固め、シン達は頂上に向け、再度進み始める。

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