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獣王との戦い
ユナの魔道
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「ねぇ、どこ行くのよ?」
アイナに無理矢理宿屋から連れ出されたユナだが、どうもアイナに目的地があるように思えなかった。
道を右往左往し、何かを探している様子は窺えるのだがその視線は一定に定まっておらず、興味がある方向を適当に進んでいるようにしか見えない。
その証拠に、宿場町から出たユナ達は商店街を通り過ぎ、今は完全に住宅街へと赴いている。
砂の世界の建物のように煉瓦や鋼鉄でなく、全てが木製で建造されている住宅はユナも興味があるにはあるが、わざわざ出向いてまで見ようとは思わない。
魔道だか何だか言って連れ出したアイナが、住宅街に用事がある訳もない。
何しろ森の世界の住人で知り合いと言えるのはシーナやロイズ、アルファスとメリィぐらいしかいない。
アルファスとメリィはユーギリア城に篭っている上にそこまで交友関係がある訳でもない。
シーナも現獣王としてメリィ達に付き添うと言っていたし、ロイズはこのユグンの嫌われ者でありこのような住宅街に住んでいない。
「むっ、ユナ姉さんこちらへ」
「えっ? ちょ、ちょっと何よ⁉︎」
突然、アイナはユナを引っ張り路地へと入り込む。
普通に歩いていた所でいきなり引っ張り込まれたユナは、体勢を崩すが持ち前の身体能力ですぐに持ち直す。
「静かに、奴に察知されます」
「どういう事よ?」
思わず何事かと大きな声を出しかけたユナをアイナは真剣な面持ちで制する。
小声になるアイナに吊られ、ユナもひそひそとした口調になってしまう。
「まさか、奴がここに来ているとは。完全に不覚を取ってしまった」
「奴? 誰の事よ」
忌々しそうに表情を歪めるアイナの様子からただならぬ気配を察したユナは、思わず身構える。
序列1位、人族最強を唄われるアイナが不覚を取ったと言うのだ、ただ事ではない。
「ユナ姉さん、貴女は危機感が足りない。 それでは、魔道など到底理解出来ませぬぞ」
唐突に口調を変えたアイナは、説教をするかの様に語りかける。
魔道と言われた事に、ユナは本来の目的を思い出す。
何をどうしたら魔道を極める事になるのか、さっぱりわからないが、ここは素直に従っておくべきとユナは決断する。
「あの者をよく見るのだ」
「あの人? 普通に配達の仕事してるだけでしょ?」
アイナが示すのは、1人の真面目そうな男だった。
おそらく混じり合っていた相棒である4足獣を動力に、多量の荷物を荷車に乗せ進むその男は、何かの用紙を片手に住宅街を徘徊している。
傍目には、住民達に荷物を運んでいる様にしか思えず、とてもアイナが警戒するような相手でもないように感じられる。
「そうか、ユナ姉さんは知らないのですね。 邪悪なる組織の存在を」
「邪悪なる組織?」
アイナの言う通り、その様な存在をユナは知らない。
しかし、それが何故ここで出て来るのか、理解出来ない。
「あの男は、全世界に根をはり人身売買を得意とする密輸組織の一員。 おそらく、この世界の者を攫いに来たはずだ」
「何よそれ! そんな事許せないわ」
人身売買は、どの世界でも禁忌とされている。
見つかればただ死ぬだけでは許されない罰が課される事でも有名であり、かつてユナが生活していた砂の世界では、それを行った者が世界を重りを背負いながら徒歩で休む時間を与えられず歩かされ、その上で四肢を一つずつ潰され、処刑されたのは有名な話である。
その様な大罪をこんな白昼堂々とする事はないと考えてしまいそうだが、だからこそ今の時間を狙っているとも予想出来る。
しかし、ユナにはどうもその男が密輸組織に在籍しているとは思えない。
こうしている今も住人達へ届け物を送っており、その表情も穏やかそのものだ。
足取りも見る限りでは素人も同然であり、とても人攫いなど可能な様に思えない。
「はっ、はっはぁ! くっ、ここまでとは」
急激に呼吸を荒くするアイナにユナは戸惑う。
男が何か特別な行動をしていた訳でもない。
しかし、現にアイナは苦しんでいる様に感じられる。
アイナの異変が、急激にユナに緊張感を与えていく。
未知、それも得体の知れない者との接触だ。
組織と言うからには、あの男以外にも多数の仲間がいるばずである。
「いったん離れるわよ」
地面に膝を着くアイナの肩を支え、ユナは住宅街からの離脱を試みる。
気配を殺し、ゆっくりと男のもとから距離をとると逃げ出す様に一気に地面を蹴る。
空を駆けるかの様に跳躍するユナは、後方から追っ手がない事を確認し、どこかの屋上へと着地する。
奴と呼んだ男から離れた事で、アイナも落ち着きを取り戻していた。
「油断した、まさかあれほどの邪気を放つとは…」
独り言を呟くように、アイナは小さく言葉を口にする。
想定外の展開に、ユナはついていくのがやっとの状態であり、まだ事態の把握が追いつかない。
「何が起きたのよ?」
突然苦しみだしたアイナの様子は異常である。
ユナ自身は何かの影響を受けていないので、何がこの短い時間で行われたのか興味がある。
世界にはまだ、ユナの知らない力があると言う事なのだ。
それを知る事が出来れば、自身も成長のきっかけになるかもしれないのだ。
「奴は、奴は大罪のみならず邪教にも手を染めていた。 あれに近寄るのは危険だ」
「邪教? 何よそれ」
邪教、聞く限り良いものではないのは確かであるが、魔道と同じくそんなものの存在をユナは聞いた事がない。
「ユナ姉さんが聞いた事がないのも無理はない。 邪教は7人の神に対抗する唯一の存在、邪神を信奉する者達により秘密裏に組織された異教徒達の事をさしているのだ」
どこかで聞いた事のある話のような気がするユナだが、それよりも今説明でユナが求める力ではない事がわかり落胆していた。
もとより邪教になど興味はないし、ノアの代行者をしているシンの仲間であるユナが、そんなものを信奉する訳にいかない。
「ユナ姉さんも良い経験になったな。 これで魔道の極地へ一歩前進だ」
「そうなの? よくわからないけど」
正直、ユナには何故邪神の存在を知った事で魔道に対する理解が深まったのか不明である。
先ほどはアイナのあまりの豹変に危機感を感じていたが、それも今となってはどうにも危機感が感じられない。
思い返しても、あの真面目そうな男から邪悪な気配など微塵も感じなかったし、こちらに気付いている様子もなかった。
「ねぇ、何か目的みたいなのあったんじゃないの? いきなり飛び出し出来たけど」
後悔しても仕方ないと踏んだユナは、当初の予定に戻る事にする。
魔術を使えるようになりたい、そう話していたにも関わらず、ここまでそれらしき事は何もしていない。
恥を忍んでアイナに教えをこいたはずなのに、収穫と呼べるものがない。
正直、宿屋を飛び出した時には困惑もしたが、期待していなかったと言えば嘘になる。
魔術が使えない者にとって、魔術を使えるその可能性が僅かでもあるのならば期待をしてしまうのも仕方がない事である。
「魔道に、定められた道などない」
「えっ?」
アイナの返答は、予想外のものだった。
「魔道の浅いユナ姉さんにはまだわからないかもしれない、しかし必ずそれが理解出来る時が来る!」
アイナの声に熱がこもるのをユナは感じていた。
いつになく、アイナの発言はユナの心に響き始めて来た。
「魔道は深く、そして広い世界だ。 その深淵を覗ける者は、現れないかもしれない。 そして我の進む道はその深淵へと至る道ではないのかもしれない。 しかし、我は諦めない。 我の信じる道にこそ魔道の極地があるのだと! さあ、共に行こう。 新たなる同士よ!」
「は、はい」
アイナの言葉の意味を、ユナははっきりと理解出来なかった。
だが、妙に説得力を持つその発言に思わず返事をしてしまう。
その返事を聞いたアイナは、いつになく喜びを感じさせる表情をする。
本当の仲間を見つけた、そのような感情だろうか。
「では、新たなる魔道を求めて旅立とう!」
またもや、アイナに手を引かれユナは歩み始める。
結局、魔術に対しての教えがある訳ではない。
ユナの望んでいた事が、アイナから教えられる事はないのだ。
それでも、ユナは心の靄が晴れていく気がしていた。
何かはっきりときっかけがあった訳でもない。
しかし、ユナの気持ちは前を向き始めたのだ。
この日、ユナは夜中になるまでアイナに付き添う事となる。
ユナはいつになく疲労を感じていたが、それは心地良い疲労だった。
だが、2人の魔道はこれで終わらない。
アイナの言う魔道に、終わりはないのだから。
アイナに無理矢理宿屋から連れ出されたユナだが、どうもアイナに目的地があるように思えなかった。
道を右往左往し、何かを探している様子は窺えるのだがその視線は一定に定まっておらず、興味がある方向を適当に進んでいるようにしか見えない。
その証拠に、宿場町から出たユナ達は商店街を通り過ぎ、今は完全に住宅街へと赴いている。
砂の世界の建物のように煉瓦や鋼鉄でなく、全てが木製で建造されている住宅はユナも興味があるにはあるが、わざわざ出向いてまで見ようとは思わない。
魔道だか何だか言って連れ出したアイナが、住宅街に用事がある訳もない。
何しろ森の世界の住人で知り合いと言えるのはシーナやロイズ、アルファスとメリィぐらいしかいない。
アルファスとメリィはユーギリア城に篭っている上にそこまで交友関係がある訳でもない。
シーナも現獣王としてメリィ達に付き添うと言っていたし、ロイズはこのユグンの嫌われ者でありこのような住宅街に住んでいない。
「むっ、ユナ姉さんこちらへ」
「えっ? ちょ、ちょっと何よ⁉︎」
突然、アイナはユナを引っ張り路地へと入り込む。
普通に歩いていた所でいきなり引っ張り込まれたユナは、体勢を崩すが持ち前の身体能力ですぐに持ち直す。
「静かに、奴に察知されます」
「どういう事よ?」
思わず何事かと大きな声を出しかけたユナをアイナは真剣な面持ちで制する。
小声になるアイナに吊られ、ユナもひそひそとした口調になってしまう。
「まさか、奴がここに来ているとは。完全に不覚を取ってしまった」
「奴? 誰の事よ」
忌々しそうに表情を歪めるアイナの様子からただならぬ気配を察したユナは、思わず身構える。
序列1位、人族最強を唄われるアイナが不覚を取ったと言うのだ、ただ事ではない。
「ユナ姉さん、貴女は危機感が足りない。 それでは、魔道など到底理解出来ませぬぞ」
唐突に口調を変えたアイナは、説教をするかの様に語りかける。
魔道と言われた事に、ユナは本来の目的を思い出す。
何をどうしたら魔道を極める事になるのか、さっぱりわからないが、ここは素直に従っておくべきとユナは決断する。
「あの者をよく見るのだ」
「あの人? 普通に配達の仕事してるだけでしょ?」
アイナが示すのは、1人の真面目そうな男だった。
おそらく混じり合っていた相棒である4足獣を動力に、多量の荷物を荷車に乗せ進むその男は、何かの用紙を片手に住宅街を徘徊している。
傍目には、住民達に荷物を運んでいる様にしか思えず、とてもアイナが警戒するような相手でもないように感じられる。
「そうか、ユナ姉さんは知らないのですね。 邪悪なる組織の存在を」
「邪悪なる組織?」
アイナの言う通り、その様な存在をユナは知らない。
しかし、それが何故ここで出て来るのか、理解出来ない。
「あの男は、全世界に根をはり人身売買を得意とする密輸組織の一員。 おそらく、この世界の者を攫いに来たはずだ」
「何よそれ! そんな事許せないわ」
人身売買は、どの世界でも禁忌とされている。
見つかればただ死ぬだけでは許されない罰が課される事でも有名であり、かつてユナが生活していた砂の世界では、それを行った者が世界を重りを背負いながら徒歩で休む時間を与えられず歩かされ、その上で四肢を一つずつ潰され、処刑されたのは有名な話である。
その様な大罪をこんな白昼堂々とする事はないと考えてしまいそうだが、だからこそ今の時間を狙っているとも予想出来る。
しかし、ユナにはどうもその男が密輸組織に在籍しているとは思えない。
こうしている今も住人達へ届け物を送っており、その表情も穏やかそのものだ。
足取りも見る限りでは素人も同然であり、とても人攫いなど可能な様に思えない。
「はっ、はっはぁ! くっ、ここまでとは」
急激に呼吸を荒くするアイナにユナは戸惑う。
男が何か特別な行動をしていた訳でもない。
しかし、現にアイナは苦しんでいる様に感じられる。
アイナの異変が、急激にユナに緊張感を与えていく。
未知、それも得体の知れない者との接触だ。
組織と言うからには、あの男以外にも多数の仲間がいるばずである。
「いったん離れるわよ」
地面に膝を着くアイナの肩を支え、ユナは住宅街からの離脱を試みる。
気配を殺し、ゆっくりと男のもとから距離をとると逃げ出す様に一気に地面を蹴る。
空を駆けるかの様に跳躍するユナは、後方から追っ手がない事を確認し、どこかの屋上へと着地する。
奴と呼んだ男から離れた事で、アイナも落ち着きを取り戻していた。
「油断した、まさかあれほどの邪気を放つとは…」
独り言を呟くように、アイナは小さく言葉を口にする。
想定外の展開に、ユナはついていくのがやっとの状態であり、まだ事態の把握が追いつかない。
「何が起きたのよ?」
突然苦しみだしたアイナの様子は異常である。
ユナ自身は何かの影響を受けていないので、何がこの短い時間で行われたのか興味がある。
世界にはまだ、ユナの知らない力があると言う事なのだ。
それを知る事が出来れば、自身も成長のきっかけになるかもしれないのだ。
「奴は、奴は大罪のみならず邪教にも手を染めていた。 あれに近寄るのは危険だ」
「邪教? 何よそれ」
邪教、聞く限り良いものではないのは確かであるが、魔道と同じくそんなものの存在をユナは聞いた事がない。
「ユナ姉さんが聞いた事がないのも無理はない。 邪教は7人の神に対抗する唯一の存在、邪神を信奉する者達により秘密裏に組織された異教徒達の事をさしているのだ」
どこかで聞いた事のある話のような気がするユナだが、それよりも今説明でユナが求める力ではない事がわかり落胆していた。
もとより邪教になど興味はないし、ノアの代行者をしているシンの仲間であるユナが、そんなものを信奉する訳にいかない。
「ユナ姉さんも良い経験になったな。 これで魔道の極地へ一歩前進だ」
「そうなの? よくわからないけど」
正直、ユナには何故邪神の存在を知った事で魔道に対する理解が深まったのか不明である。
先ほどはアイナのあまりの豹変に危機感を感じていたが、それも今となってはどうにも危機感が感じられない。
思い返しても、あの真面目そうな男から邪悪な気配など微塵も感じなかったし、こちらに気付いている様子もなかった。
「ねぇ、何か目的みたいなのあったんじゃないの? いきなり飛び出し出来たけど」
後悔しても仕方ないと踏んだユナは、当初の予定に戻る事にする。
魔術を使えるようになりたい、そう話していたにも関わらず、ここまでそれらしき事は何もしていない。
恥を忍んでアイナに教えをこいたはずなのに、収穫と呼べるものがない。
正直、宿屋を飛び出した時には困惑もしたが、期待していなかったと言えば嘘になる。
魔術が使えない者にとって、魔術を使えるその可能性が僅かでもあるのならば期待をしてしまうのも仕方がない事である。
「魔道に、定められた道などない」
「えっ?」
アイナの返答は、予想外のものだった。
「魔道の浅いユナ姉さんにはまだわからないかもしれない、しかし必ずそれが理解出来る時が来る!」
アイナの声に熱がこもるのをユナは感じていた。
いつになく、アイナの発言はユナの心に響き始めて来た。
「魔道は深く、そして広い世界だ。 その深淵を覗ける者は、現れないかもしれない。 そして我の進む道はその深淵へと至る道ではないのかもしれない。 しかし、我は諦めない。 我の信じる道にこそ魔道の極地があるのだと! さあ、共に行こう。 新たなる同士よ!」
「は、はい」
アイナの言葉の意味を、ユナははっきりと理解出来なかった。
だが、妙に説得力を持つその発言に思わず返事をしてしまう。
その返事を聞いたアイナは、いつになく喜びを感じさせる表情をする。
本当の仲間を見つけた、そのような感情だろうか。
「では、新たなる魔道を求めて旅立とう!」
またもや、アイナに手を引かれユナは歩み始める。
結局、魔術に対しての教えがある訳ではない。
ユナの望んでいた事が、アイナから教えられる事はないのだ。
それでも、ユナは心の靄が晴れていく気がしていた。
何かはっきりときっかけがあった訳でもない。
しかし、ユナの気持ちは前を向き始めたのだ。
この日、ユナは夜中になるまでアイナに付き添う事となる。
ユナはいつになく疲労を感じていたが、それは心地良い疲労だった。
だが、2人の魔道はこれで終わらない。
アイナの言う魔道に、終わりはないのだから。
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