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5. 難航
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山下の再就職活動は、難航した。
彼はまず、キャリアアドバイザーに相談した。自分の経歴を話せば、すぐにでも顧問や経営幹部としてのオファーが来ると信じていた。しかし、アドバイザーの返答は冷ややかだった。
「山下さん、あなたの経歴は素晴らしい。ですが、その年齢で、そしてあのような形で会社を去ったという事実は、企業にとってリスクでしかない。特に、上場企業は避けます」
「リスク? 私のスキルは健在だ。営業部長として培った人脈と経験は……」
「それは東亜ハウジングでの話です。今は、そのブランドが通用しない。さらに言えば、あなたは『即戦力』というより、『高すぎるプライド』と『古い成功体験』を背負った人、と見られがちです」
山下はアドバイザーの言葉に激しく反発を覚えた。自分のこれまでの功績を、簡単に否定されることが許せなかった。
彼のプライドが、彼の選択肢を狭めていた。中小企業の営業責任者や、地方のコンサルタントといったオファーはいくつかあったが、どれも「元エリート」の彼には到底受け入れられない条件だった。給与水準は以前の三分の一以下、役職も責任者クラスではなかった。
「私はこんな仕事をするために、二十五年も身を粉にして働いてきたわけではない」
書類選考では何度も通過した。しかし、面接に進むと、必ず壁にぶつかった。面接官は、彼の堂々とした態度を「傲慢」と受け取った。「なぜこの会社でなければならないのか」という質問に対し、山下が自分のスキルを誇示するだけで、その企業のビジョンに共感している様子が見えないことに、面接官は気づいたのだ。
あるITベンチャー企業の面接でのことだ。若いCEOが、山下に向かって言った。
「山下さんの経験は重い。しかし、我々はアジャイルな組織です。あなたの『部下を動かす』経験よりも、『自ら汗をかく』フットワークを求めている。正直に言って、あなたはうちには大きすぎます。そして、高すぎます」
山下は、面接官が年下であることにも苛立ちを覚えた。彼らが追求している「新しい働き方」や「スピード感」は、彼が長年成功してきた「慎重な積み上げ」とは正反対の価値観だった。彼は、時代の流れから取り残されていることを、認めようとしなかった。
再就職活動は半年が過ぎた。貯金は底を突き始めていた。ローンの返済、光熱費、美咲の学費。数字が彼の首を絞め始めた。
深夜、誰もいないリビングで、山下は求人情報を眺めていた。もう、職種を選ぶ余裕はなかった。「経歴不問」「高収入」「即採用」。そういった文言に目が留まる。
その中に、「経験・学歴不問、二種免許取得支援あり」という求人を見つけた。職種は、タクシー運転手。
かつての彼なら、見向きもしなかった仕事だ。しかし、この瞬間、彼の心にかすかな動揺が走った。人と関わらず、自分の力だけで稼ぐことができる。そして何より、誰にも過去を知られずに済む。
山下は、自分のプライドが、粉々になりかけていることを自覚した。そして、その粉々になったプライドの隙間から、彼を救う現実的な選択肢が、見え始めていた。
彼はまず、キャリアアドバイザーに相談した。自分の経歴を話せば、すぐにでも顧問や経営幹部としてのオファーが来ると信じていた。しかし、アドバイザーの返答は冷ややかだった。
「山下さん、あなたの経歴は素晴らしい。ですが、その年齢で、そしてあのような形で会社を去ったという事実は、企業にとってリスクでしかない。特に、上場企業は避けます」
「リスク? 私のスキルは健在だ。営業部長として培った人脈と経験は……」
「それは東亜ハウジングでの話です。今は、そのブランドが通用しない。さらに言えば、あなたは『即戦力』というより、『高すぎるプライド』と『古い成功体験』を背負った人、と見られがちです」
山下はアドバイザーの言葉に激しく反発を覚えた。自分のこれまでの功績を、簡単に否定されることが許せなかった。
彼のプライドが、彼の選択肢を狭めていた。中小企業の営業責任者や、地方のコンサルタントといったオファーはいくつかあったが、どれも「元エリート」の彼には到底受け入れられない条件だった。給与水準は以前の三分の一以下、役職も責任者クラスではなかった。
「私はこんな仕事をするために、二十五年も身を粉にして働いてきたわけではない」
書類選考では何度も通過した。しかし、面接に進むと、必ず壁にぶつかった。面接官は、彼の堂々とした態度を「傲慢」と受け取った。「なぜこの会社でなければならないのか」という質問に対し、山下が自分のスキルを誇示するだけで、その企業のビジョンに共感している様子が見えないことに、面接官は気づいたのだ。
あるITベンチャー企業の面接でのことだ。若いCEOが、山下に向かって言った。
「山下さんの経験は重い。しかし、我々はアジャイルな組織です。あなたの『部下を動かす』経験よりも、『自ら汗をかく』フットワークを求めている。正直に言って、あなたはうちには大きすぎます。そして、高すぎます」
山下は、面接官が年下であることにも苛立ちを覚えた。彼らが追求している「新しい働き方」や「スピード感」は、彼が長年成功してきた「慎重な積み上げ」とは正反対の価値観だった。彼は、時代の流れから取り残されていることを、認めようとしなかった。
再就職活動は半年が過ぎた。貯金は底を突き始めていた。ローンの返済、光熱費、美咲の学費。数字が彼の首を絞め始めた。
深夜、誰もいないリビングで、山下は求人情報を眺めていた。もう、職種を選ぶ余裕はなかった。「経歴不問」「高収入」「即採用」。そういった文言に目が留まる。
その中に、「経験・学歴不問、二種免許取得支援あり」という求人を見つけた。職種は、タクシー運転手。
かつての彼なら、見向きもしなかった仕事だ。しかし、この瞬間、彼の心にかすかな動揺が走った。人と関わらず、自分の力だけで稼ぐことができる。そして何より、誰にも過去を知られずに済む。
山下は、自分のプライドが、粉々になりかけていることを自覚した。そして、その粉々になったプライドの隙間から、彼を救う現実的な選択肢が、見え始めていた。
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