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7. 妥協
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ハローワークでタクシー運転手の求人票を握りしめてから一週間が経った。その間、山下は他の再就職先を懸命に探したが、良い返事はどこからも来なかった。ローンの督促状が届き始め、彼の心は完全に追い詰められていた。
最終的に、山下はタクシー会社「銅星交通」の面接に申し込んだ。
面接当日。山下は、かつての部下に会わないよう、人通りの少ない時間を選び、スーツ姿で会社に向かった。ネクタイを締め、背筋を伸ばし、かつての「営業部長」としての威厳を装った。それは、この屈辱的な場において、自分自身を保つための最後の砦だった。
銅星交通の本社は、都心から外れた、古びたビルの一角にあった。面接会場には、山下よりも一回り以上年上の男性や、いかにも職を転々としてきた様子の若者など、様々な人間が緊張した面持ちで座っていた。
山下は、自分がここにいることが信じられなかった。かつて、彼は何十人もの人間を面接し、その人生を「採用」や「不採用」という文字で振り分けてきた。今、自分がその選ばれる側に立っている。
彼の順番が呼ばれた。面接官は、穏やかだが観察力の鋭い目をした、人事担当の男性だった。
「山下さん。元大手建設会社の営業部長ですか。立派なご経歴ですね」
面接官は、山下の経歴書を前にして、静かに言った。山下は、この言葉が褒め言葉なのか、それとも皮肉なのかをはかりかねた。
「ありがとうございます。……しかし、事情がありまして、今回は心機一転、こちらの仕事に挑戦させていただきたい」
山下は「不祥事」や「リストラ」といった言葉を避け、曖昧な表現で転職理由を説明した。「顧客の人生を運び、感謝される仕事に魅力を感じた」など、耳障りのよい言葉を並べたが、自分の口から出る言葉が嘘であることは、自分が一番よく理解していた。
面接官は、山下の視線から目を逸らさずに問いかけた。「正直にお話しいただけますか。我々も、あなたの過去については少し調べています。なぜ、あなたの輝かしいキャリアを捨てて、この仕事を選んだのですか。収入面だけではない、本当の理由を」
山下は、装っていた威厳が、ガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。一瞬激しい怒りに駆られたが、すぐに冷静になった。ここで虚勢を張っても、状況は変わらない。
山下は深く息を吸い込んだ。
「……生活のためです。そして、私のプライドが邪魔をして、他の仕事が見つかりませんでした。私は、誰の指示も受けず、自分の努力だけで、今日からすぐに稼げる仕事が必要でした」
正直な言葉を口にした瞬間、彼の背筋に冷たいものが走り抜けた。しかし、同時に、長らく自分を縛っていたプライドという名の重りが、少しだけ軽くなった気がした。
面接官は、初めてわずかに微笑んだ。「よく言ってくださいました。この仕事は、過去の栄光は通用しません。乗客と、道路と、自分自身に、どこまでも誠実であることが求められます」
「二種免許取得支援制度をご利用いただけます。期間中は生活支援手当も出ます。ただし、一度ハンドルを握れば、あなたはただの新人ドライバーです。元部長という肩書は、一切通用しませんが、よろしいですね」
山下は、もう迷わなかった。他に進む道はなかった。
「はい。喜んで、一から始めさせていただきます」
最終的に、山下はタクシー会社「銅星交通」の面接に申し込んだ。
面接当日。山下は、かつての部下に会わないよう、人通りの少ない時間を選び、スーツ姿で会社に向かった。ネクタイを締め、背筋を伸ばし、かつての「営業部長」としての威厳を装った。それは、この屈辱的な場において、自分自身を保つための最後の砦だった。
銅星交通の本社は、都心から外れた、古びたビルの一角にあった。面接会場には、山下よりも一回り以上年上の男性や、いかにも職を転々としてきた様子の若者など、様々な人間が緊張した面持ちで座っていた。
山下は、自分がここにいることが信じられなかった。かつて、彼は何十人もの人間を面接し、その人生を「採用」や「不採用」という文字で振り分けてきた。今、自分がその選ばれる側に立っている。
彼の順番が呼ばれた。面接官は、穏やかだが観察力の鋭い目をした、人事担当の男性だった。
「山下さん。元大手建設会社の営業部長ですか。立派なご経歴ですね」
面接官は、山下の経歴書を前にして、静かに言った。山下は、この言葉が褒め言葉なのか、それとも皮肉なのかをはかりかねた。
「ありがとうございます。……しかし、事情がありまして、今回は心機一転、こちらの仕事に挑戦させていただきたい」
山下は「不祥事」や「リストラ」といった言葉を避け、曖昧な表現で転職理由を説明した。「顧客の人生を運び、感謝される仕事に魅力を感じた」など、耳障りのよい言葉を並べたが、自分の口から出る言葉が嘘であることは、自分が一番よく理解していた。
面接官は、山下の視線から目を逸らさずに問いかけた。「正直にお話しいただけますか。我々も、あなたの過去については少し調べています。なぜ、あなたの輝かしいキャリアを捨てて、この仕事を選んだのですか。収入面だけではない、本当の理由を」
山下は、装っていた威厳が、ガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。一瞬激しい怒りに駆られたが、すぐに冷静になった。ここで虚勢を張っても、状況は変わらない。
山下は深く息を吸い込んだ。
「……生活のためです。そして、私のプライドが邪魔をして、他の仕事が見つかりませんでした。私は、誰の指示も受けず、自分の努力だけで、今日からすぐに稼げる仕事が必要でした」
正直な言葉を口にした瞬間、彼の背筋に冷たいものが走り抜けた。しかし、同時に、長らく自分を縛っていたプライドという名の重りが、少しだけ軽くなった気がした。
面接官は、初めてわずかに微笑んだ。「よく言ってくださいました。この仕事は、過去の栄光は通用しません。乗客と、道路と、自分自身に、どこまでも誠実であることが求められます」
「二種免許取得支援制度をご利用いただけます。期間中は生活支援手当も出ます。ただし、一度ハンドルを握れば、あなたはただの新人ドライバーです。元部長という肩書は、一切通用しませんが、よろしいですね」
山下は、もう迷わなかった。他に進む道はなかった。
「はい。喜んで、一から始めさせていただきます」
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