ネオンと再生

ふら

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18. 鈍感

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若い女性を降ろした後、山下の心には、言いようのないざわめきが残っていた。無関心の砦が、彼女の純粋な悲しみによって、わずかに侵食された感覚だ。

数時間後、夜の終わりに近い午前四時。山下は乗客を拾った。この日最後の乗客となった。

都心の雑居ビルの前で、三十代前半の女性が乗り込んできた。彼女は、先ほどの女性とは違い、泣いてはいなかったが、その表情は極度に蒼白で、何かを耐え忍んでいるようだった。

行き先は、郊外の閑静な住宅街。彼女は車内で、静かに、しかし深い口調で話し始めた。

「運転手さん、私ね、今、とても大事な友達を裏切ったんです」

山下は、バックミラー越しに彼女を見た。その目は、恐怖や悲しみではなく、自己嫌悪に満ちていた。

「どういう意味でしょうか」山下は、努めて冷静に尋ねた。

「彼女は、私が人生で一番信頼している親友でした。その彼女が、大きなチャンスを掴もうとしていたんです。私が、彼女を心から祝福すべきだったのに……」

女性は、そこで一度言葉を切った。呼吸が浅い。

「私は、嫉妬してしまった。彼女が成功したら、私が彼女から取り残されてしまう気がして。それで、私は、そのチャンスを潰すための、小さな嘘を、匿名で……」

彼女はそこまで言うと、自分の口を両手で覆い、まるで吐き気を催しているかのように体を丸めた。

「小さな嘘? それが、どうなったのですか」山下は、思わず身を乗り出した。この告白は、単なる悲劇ではなく、山下がかつていた会社での不祥事の根源に似た、人間の業を映していた。

「うまくいってしまいました。彼女は、すべてを失いました。私のせいなのに、私は、彼女の前で、まるで何も知らなかったかのように振る舞っている。この嘘が、私自身を窒息させているんです」

彼女は、山下に「許し」を求めているわけではない。ただ、その重すぎる罪悪感を、誰にも知られない匿名の人間に吐き出したいだけなのだ。

山下は、この深刻な告白に対して、何と答えるべきか分からなかった。かつての自分なら、「それはビジネスの世界ではよくあることだ」と切り捨てただろうか。あるいは、「正直に謝罪すべきだ」と正論を吐いただろうか。

しかし、彼は結局、最も安全な言葉を選んだ。

「……そうでしたか。それは、大変な胸の痛みでしょうね」

そして、事務的なトーンで続けた。「しかし、後悔されているのであれば、まだやり直せるかもしれません。ご友人に、誠実に向き合ってみるのも、一つの道ではないでしょうか」

それは、マニュアルにはない、彼なりに考えた最大限の「助言」だった。だが、彼女が求めていたのは、このような「正しい」答えではなかった。

女性は、山下の言葉を聞いて、小さくため息をついた。そして、それ以上何も話さなかった。車内には、再び重い沈黙が満ちた。

目的地に到着し、女性が降りていった後、山下は後悔にも似た感覚を覚えた。

彼女は、彼に「人生の哲学」を聞きに来たわけではなかった。彼に、生身の人間としての共感と、罪を背負った者への理解を求めていたのだ。

山下は、自分の築いた無関心の壁が、乗客のSOSを遮断してしまったことを悟った。自分は、彼女の人生の深淵に触れる機会を与えられたのに、結局、「形式的な移動装置」で終わってしまった。

山下は、バックミラーに映る自分の顔を見た。そこには、営業部長時代の傲慢な顔でも、失業中の怯えた顔でもない、何も与えられなかった空虚な顔があった。彼の夜は、ただ単に、金を稼ぐためだけのものになっていた。
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