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23. 逃走
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新しい命の誕生というドラマに遭遇し、心が揺らいだ山下だったが、彼の心の防御機構はすぐに起動した。夜の街は、彼が感傷に浸ることを許さない。彼は再び、無関心という名のマスクを被り、次の乗客を探し始めた。
深夜の青山界隈。このエリアは、ファッション関係や広告代理店といった、山下がかつて関わった業界の人間が多く集まる。山下にとって、最も緊張感が高まる場所の一つだった。
彼は、慎重に路地を流していた。もし、元部下や元同僚にタクシー運転手姿を見られたら、彼の最後のプライドは崩壊してしまうだろう。彼らは山下の転落を、自分の成功の対比として利用するに違いない。
その時、山下は前方の大通りにあるバーの前で、見覚えのあるスーツ姿の集団を見つけた。
彼らは、東亜ハウジングの社員たちだ。数人がタクシーを拾おうと手を挙げている。そして、その中心にいる、最も背が高く、声が大きい男の姿に、山下は息を飲んだ。
田中。かつて、山下が可愛がっていた若手のエースであり、そして、あの不祥事の裏で、山下のサインを利用し、最終的に彼を失墜に追い込むきっかけを作った、元部下の一人だった。
田中は、以前よりもさらに自信に満ちた態度で、周囲の同僚たちと笑い合っている。山下が去った後、時間の経過と共に、彼は出世したのだろう。
山下の心臓が激しく打ち始めた。怒り、憎悪、そして何よりも、見られたくないという強烈な屈辱感が、彼を支配した。
「この姿を、田中に見られるわけにはいかない」
山下は反射的に、路地の影に車体を滑り込ませた。ヘッドライトを消し、急いでサンバイザーを下ろす。身体を小さく丸め、外からは運転席に誰もいないように見せかけた。
大通りから、田中たちの騒がしい声が聞こえてくる。「田中の部長昇進祝いだ!」という同僚の声が、山下の耳に届く。
田中。営業部長の座を追われた自分と同じところまで昇進したのか。山下は、嫉妬ではなく、自分の人生を弄ばれたことに対する、言いようのない憤りを感じた。
田中たちが、大通りで空車を拾うまでの数十秒間が、山下にとっては永遠のように長かった。田中たちの乗ったタクシーが、山下の潜む路地の前を通り過ぎる。田中は、山下のタクシーの存在に気づくことなく、車内で大笑いしているようだった。
タクシーが遠ざかり、田中たちの声が聞こえなくなると、山下はゆっくりと息を吐き出した。全身の力が抜け、汗でシャツが背中に張り付いているのを感じた。
間一髪。彼の最後のプライドは、夜の闇に守られた。
山下は、エンジンをかけ、その場を離れた。彼は、この街で金を稼がなければならない。しかし、同時に、この街のどこかに潜んでいる過去の亡霊から、常に逃げ続けなければならない。
彼は、バックミラーの中で恐怖に歪んでいる自分の顔を見た。彼はまだ、過去から完全に自由になれていない。「夜間運行」の道は、単なる物理的な移動ではなく、過去という影からの逃走でもあった。
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彼らは、東亜ハウジングの社員たちだ。数人がタクシーを拾おうと手を挙げている。そして、その中心にいる、最も背が高く、声が大きい男の姿に、山下は息を飲んだ。
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「この姿を、田中に見られるわけにはいかない」
山下は反射的に、路地の影に車体を滑り込ませた。ヘッドライトを消し、急いでサンバイザーを下ろす。身体を小さく丸め、外からは運転席に誰もいないように見せかけた。
大通りから、田中たちの騒がしい声が聞こえてくる。「田中の部長昇進祝いだ!」という同僚の声が、山下の耳に届く。
田中。営業部長の座を追われた自分と同じところまで昇進したのか。山下は、嫉妬ではなく、自分の人生を弄ばれたことに対する、言いようのない憤りを感じた。
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間一髪。彼の最後のプライドは、夜の闇に守られた。
山下は、エンジンをかけ、その場を離れた。彼は、この街で金を稼がなければならない。しかし、同時に、この街のどこかに潜んでいる過去の亡霊から、常に逃げ続けなければならない。
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