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Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編
2節 適応訓練 ③
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その二日後。魔王国は落ち着きを取り戻しつつあった。
保護された地下スラム出身の者、そして武者達の取り調べが実施され、その末に彼らは魔王国の王国拠点周辺に留まることとなった。言語が通じず、腹の中が見えない者を国土に送るわけにもいかなかったためだ。しかしその代わり、拠点の大幅拡張と設備の充実が図られることとなった。
また、カムイと共に集落を訪れたエイジによって、彼らの特有の知識や技術がもたらされることとなる。例えば作刀技術や、食品の加工、芸術品など。
彼らとは、長であるカムイの同意を以って、獣人族や精霊達と同じく、保護する代わりに技術や労働力を提供してもらうという共存関係に落ち着く。
それと、新入りの三人。ガデッサは頭を痛めながらも頑張って勉強して知識を詰め込み、カムイとイグゼは勉強しつつ簡単ながらもエイジの仕事を手伝ったりして。少しずつではあるが、彼女達も魔王国に馴染んでいった。
そして、つい昨日。一時間半にも及ぶ魔王国の今後についての議論の末、エイジによる商業国家の視察が終わってから、魔王国も交易を始めようとという結論に達した。
***
そんな日々の、ある昼過ぎのことだ。
「……いきなりこんなところに呼び出しとは。一体何をしようとしているのだ?」
あの八人は、地下一階に集っていた。出会ってからというもの、彼女達はお喋りや教え合い、仕事の助け合いや添い寝などで、着々と仲を深めていたらしく。この呼び出しに反発することもないのだった。
「ズバリ! もっとお互いをよく知るために、戦いましょう!」
「ええ⁉︎」
「なによ、藪から棒に」
ここは訓練場だから、何をするかは薄々察してはいたけれど。よりによって最も友好的なテミスが発起人なものだから、不意を打たれたようだった。
「聞くところによると皆さんは、エイジと仲を深めた切っ掛けが戦闘だったそうなので。敵愛にせよ、共闘にせよ……ということで、全員戦士だということもありますし、刃を交えることで見えてくることもあるんじゃないのかと!」
「ヒュウ、拳を交えてわかりあうってわけか。分かりやすくっていいねぇ」
その提案に、何人かは乗り気な様子を見せたものの……
「え~……ワタシ、戦うのあんまり好きじゃないわァ」
「この後も仕事があるので、あまり消耗はしたくないのですが……」
満場一致ではないようだった。けれど、ここで自分だけ帰ったら疎外感を覚えそうになるので、一応留まってはいる。
「こんなことしでかすようになるなんて……最近アイツに毒されすぎじゃないかしら。ね、脳筋皇女様」
「ふふっ、本望です!」
「でしょうね……」
少し嫌味っぽく言ったのに嬉しそうに返され、呆れたようなレイエルピナ。しかし、彼女とてやる気満々。レイピアと新開発のバズーカを手に、魔力を高めている。
「ところで、今アイツは何してんの?」
「エイジ様でしたら、大きな仕事は終わりましたので、自室で報告レポートの最終確認とポルト視察のプランニングをしているものと思われます」
「そう。暇ではないけど、忙しくもない。丁度良いわね」
「ところで、何故彼のことを気にする必要が?」
「だってこんなことしてるって聞きつけたら、アイツ止めようとするか乱入するかするでしょ。そうしたら、もう普通に続けてなんてられないわ」
直ぐに止めに来るわけでもないが、多忙な時に厄介ごとを起こすなと怒られることもない。いい塩梅だ。
「ねェ、コレ、ワタシもやらなきゃダメ?」
「もちろん、そうだろうな」
「……ぶー」
渋々、彼女も鞭を取り出す。その頃には、幾らか差はあれど、もうある程度使えるようになった召喚能力で各々得物を取り出していた。
「さて……では、わたくしは力を抑えて戦うと致しましょう」
「確かに……半分は、ただの人間ですからね。不公平というものです」
「無論、拙者も神器を抜くような真似はしない。まあ、状況によっては勾玉は使わせてもらうが」
「…………分かったわよ! 加減するわよ! 全く……」
集う視線に耐えきれなくなり、レイエルピナも滾らせていた魔力を鎮める。
「さて、イグゼさん。貴女は強化魔術を使えますか?」
「ああ、得手ではないが、ある程度は」
「となると、ガデッサさん……これをどうぞ。強化用のマジックアイテムですわ。これで、ある程度は平等になります?」
「形式はバトルロイアルだとして……ええと、ルールはどうしましょうか?」
「別にそんなんいらねえだろ。大怪我だけさせねえようにすればよ」
ガデッサのそれを最後に、皆は中央を向いたまま円になるようにして距離を取る。
「合図はどうしますか⁉︎」
「私がコインを持っている! 地面に落下した時を開始としよう!」
「じゃあ、それでいいわ!」
イグゼが中央に向かってコインを弾く。放物線を描くそれは中央の硬い部分に当たると、甲高い金属音を放つ。
その瞬間、矢が魔術が斬撃が砲弾が投擲が刺突が放たれ、剣戟と衝撃の爆音が響き渡った。
保護された地下スラム出身の者、そして武者達の取り調べが実施され、その末に彼らは魔王国の王国拠点周辺に留まることとなった。言語が通じず、腹の中が見えない者を国土に送るわけにもいかなかったためだ。しかしその代わり、拠点の大幅拡張と設備の充実が図られることとなった。
また、カムイと共に集落を訪れたエイジによって、彼らの特有の知識や技術がもたらされることとなる。例えば作刀技術や、食品の加工、芸術品など。
彼らとは、長であるカムイの同意を以って、獣人族や精霊達と同じく、保護する代わりに技術や労働力を提供してもらうという共存関係に落ち着く。
それと、新入りの三人。ガデッサは頭を痛めながらも頑張って勉強して知識を詰め込み、カムイとイグゼは勉強しつつ簡単ながらもエイジの仕事を手伝ったりして。少しずつではあるが、彼女達も魔王国に馴染んでいった。
そして、つい昨日。一時間半にも及ぶ魔王国の今後についての議論の末、エイジによる商業国家の視察が終わってから、魔王国も交易を始めようとという結論に達した。
***
そんな日々の、ある昼過ぎのことだ。
「……いきなりこんなところに呼び出しとは。一体何をしようとしているのだ?」
あの八人は、地下一階に集っていた。出会ってからというもの、彼女達はお喋りや教え合い、仕事の助け合いや添い寝などで、着々と仲を深めていたらしく。この呼び出しに反発することもないのだった。
「ズバリ! もっとお互いをよく知るために、戦いましょう!」
「ええ⁉︎」
「なによ、藪から棒に」
ここは訓練場だから、何をするかは薄々察してはいたけれど。よりによって最も友好的なテミスが発起人なものだから、不意を打たれたようだった。
「聞くところによると皆さんは、エイジと仲を深めた切っ掛けが戦闘だったそうなので。敵愛にせよ、共闘にせよ……ということで、全員戦士だということもありますし、刃を交えることで見えてくることもあるんじゃないのかと!」
「ヒュウ、拳を交えてわかりあうってわけか。分かりやすくっていいねぇ」
その提案に、何人かは乗り気な様子を見せたものの……
「え~……ワタシ、戦うのあんまり好きじゃないわァ」
「この後も仕事があるので、あまり消耗はしたくないのですが……」
満場一致ではないようだった。けれど、ここで自分だけ帰ったら疎外感を覚えそうになるので、一応留まってはいる。
「こんなことしでかすようになるなんて……最近アイツに毒されすぎじゃないかしら。ね、脳筋皇女様」
「ふふっ、本望です!」
「でしょうね……」
少し嫌味っぽく言ったのに嬉しそうに返され、呆れたようなレイエルピナ。しかし、彼女とてやる気満々。レイピアと新開発のバズーカを手に、魔力を高めている。
「ところで、今アイツは何してんの?」
「エイジ様でしたら、大きな仕事は終わりましたので、自室で報告レポートの最終確認とポルト視察のプランニングをしているものと思われます」
「そう。暇ではないけど、忙しくもない。丁度良いわね」
「ところで、何故彼のことを気にする必要が?」
「だってこんなことしてるって聞きつけたら、アイツ止めようとするか乱入するかするでしょ。そうしたら、もう普通に続けてなんてられないわ」
直ぐに止めに来るわけでもないが、多忙な時に厄介ごとを起こすなと怒られることもない。いい塩梅だ。
「ねェ、コレ、ワタシもやらなきゃダメ?」
「もちろん、そうだろうな」
「……ぶー」
渋々、彼女も鞭を取り出す。その頃には、幾らか差はあれど、もうある程度使えるようになった召喚能力で各々得物を取り出していた。
「さて……では、わたくしは力を抑えて戦うと致しましょう」
「確かに……半分は、ただの人間ですからね。不公平というものです」
「無論、拙者も神器を抜くような真似はしない。まあ、状況によっては勾玉は使わせてもらうが」
「…………分かったわよ! 加減するわよ! 全く……」
集う視線に耐えきれなくなり、レイエルピナも滾らせていた魔力を鎮める。
「さて、イグゼさん。貴女は強化魔術を使えますか?」
「ああ、得手ではないが、ある程度は」
「となると、ガデッサさん……これをどうぞ。強化用のマジックアイテムですわ。これで、ある程度は平等になります?」
「形式はバトルロイアルだとして……ええと、ルールはどうしましょうか?」
「別にそんなんいらねえだろ。大怪我だけさせねえようにすればよ」
ガデッサのそれを最後に、皆は中央を向いたまま円になるようにして距離を取る。
「合図はどうしますか⁉︎」
「私がコインを持っている! 地面に落下した時を開始としよう!」
「じゃあ、それでいいわ!」
イグゼが中央に向かってコインを弾く。放物線を描くそれは中央の硬い部分に当たると、甲高い金属音を放つ。
その瞬間、矢が魔術が斬撃が砲弾が投擲が刺突が放たれ、剣戟と衝撃の爆音が響き渡った。
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