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Ⅱ 魔王国の改革
1節 構造改革 〜水道工事 ②
しおりを挟む「では改めて。工事に関しての説明を始めましょう」
幹部全員が集結したままで、エイジは入り口側に立って話し始める。
「ところで、これからは私が会議の進行を取り仕切ってもいいですか?」
異議の声は、上がらなかった。
「では、やらせてもらいますね。まずは、今回の計画の概要と、目的を振り返りましょう。先ほどの説明はイマイチでしたから」
掻い摘んでの解説であり、かつ能力云々の無駄話までしてしまった。整理する必要があるだろう。
「やることは城内の清掃、そして城の近くを流れる川を引いて、すぐ近くに流すことです。それは衛生面の改善と、水を確保するため。水をわざわざ汲みに行くのも面倒ですからね。それに自然から手に入れられるのなら、いちいち魔術を使って水を創り出さなくてもよくなる」
魔族の彼らは、魔術を使えばなんとかなるという考えが根底に染み付いている。だから、天然のものを利用し、もっと単純かつ恒常的な方法にしようとは、なかなか思わないらしい。
「目標は分かった。だが如何にして水を引く? この城は丘の上にあるのだぞ」
そうなのだ。この城は周りと比べて標高がおよそ50mほど高い、直径500mほどの小高い丘の上にある。つまり、単純に川の水を引くのは不可能であり、エイジを悩ませた。
しかし、工事をしたいと考えてから二週間以上の猶予があった。そのうちに、彼は解決方法を編み出していた。
「簡単ですよ魔王様。どうするかというと……城の下、ぶち抜いちゃいましょう!」
「「「………え?」」」
その場の皆が、エイジが何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
「ど……どういう…ことだ?」
レイヴンがどうにかして言葉を絞り出す。
「単純な話さ。工程を説明するね。まず、この地図を見てほしい。この川をこのあたりの地点から分流作って、こう引いていく」
因みにその川は、幅は広いところで100m以上、深さも3mくらいはある。水流はさほど強くはない。その川は、城から最短でも600m以上の距離がある。しかも、分流はそこより上流から引く必要があるので、長さは1kmを下らないかもしれない。
「それとどう関係が?」
「こうする」
彼はそのまま、線を城のある丘に貫通させた。
「この丘の麓でトンネル作って、そこに川を通す」
「だがそれ、すごく時間かかるんじゃないか?」
レイヴンが疑問を投げかけるが、エイジは不敵な笑みで応じる。
「ふふふ……何が為の魔術だ? 高位の光線系でならすぐだろ」
「ソウシテハ、城ガ傷ツククノデハ?」
「そうでなくとも丘が崩れてしまうのではあるまいか?」
当然の懸念だ。エイジは暫し黙する。
「……そんな大きな穴は開かないさ、多分。直径10m……魔王城二階分くらいだね。衝撃による崩落の不安があるのなら、低い威力のを連射したり、柱で補強したりという手もある。傷についても、倉庫階までは余裕があるし、何なら地下三階だって作れるほどの余裕はあるはず。魔術を撃つのは私がやる。全責任は我にありだ」
エイジの言葉は強い意志を持っていた。そのためか、皆信頼することに決めたようだ。
「ふむ。では、吾らはその補佐に入ろう」
それに、諸手を挙げてというわけでもない。彼の至らぬ点をサポートする。その意志をエリゴスたちは大いに示す。
「ありがとう。……本当は城中に水道なりを引いて、水流の個室トイレでも作りたかったんだけど……そうだ、フォラスさん!」
「はい、何ですか?」
「水を押し出す、ポンプのような魔道具はありますか?」
土木、ましてや水道のノウハウなど、エイジにあるはずがない。だが。細かい所、技術の問題ならば、代替として魔術で補えるのではなかろうか。エイジは未だ全然、魔術については詳しくない。だから魔術を使った案は、知っているモノに限られ、自力ではあまり浮かばないが……ならば詳しい者に、欲する技術があるか訊き、それを応用してもらえばいいのだ。
「ありませんが……作ることはできます」
「よしきた! それ、人がいなくても動かせますか?」
「ええ、もちろんです。魔導具は、人が魔力を注ぎ込んで動くものだけではありません。『魔晶石』という結晶化した魔力の塊、それを組み込めば自動で動きます。人の手が要るのは、交換と定期メンテナンスくらいでしょう」
「おーし‼︎ じゃあ、城の真下に通した川をそのポンプで引き上げて、城に水道を通しましょう! でも、全体には配管工事とかでめんどくさそうだし、そのまま使えるわけでもないから……う~ん」
引けるとしたら、引けるなりに考えることが生まれる。そのため、エイジは目を瞑って熟考し始める。そして勿論、そんな彼に幹部たちは口を挟まない。彼らだって各々、考えを纏めているのだ。
「……よし! 配管工事が大掛かりで、時間がかかり過ぎるから、全体は後回しにしよう。ポンプを使って、新設の地下三階と、地上階に引いて。天然の濾過装置を組み込んで……両方にトイレを作る。そして、地上階は食堂に引いて飲料水に。地下は浴場でも作りますか! そして、時間は掛かるけど、地上三階にも水道を引けるようにお願いするとして……」
「おお、階層を増やすのか」
「はい。作りたい施設だけざっと伝えますが、具体的にどうするかはお願いいたします」
「承知した。ふっふふ、この国始まって以来の大工事だな!」
話を聞いていたベリアルはとても楽しげ。そして久々のやり甲斐ある仕事なのだろうか、幹部たちも乗り気だ。
「では、水道はここまでにしましょう。次は掃除ですが……そうだ、この城の見取り図ってあります?」
「ええと、どこにあったか……誰か持ってきてくれるか?」
「ワタシが持って来るわァ。図書室にあるはずよ」
そうしてモルガンが退室した。が、なかなか戻ってこない。エイジはベリアルに詰め寄る。
「なんで城内見取り図がすぐに出てこないんですか? 大事なものだと思いますけど」
「……皆、なんとなく把握しているから必要ないかと……」
そして十五分程が経ち。
「お待たせェ! やっと見つけたわァ。ゴメンね? 待たせちゃって」
「埃被ってるし……所々破けてるし……」
エイジの視線が痛いベリアルであった。
「まあいい。これも新しく作り直そう。さてと……」
エイジは嫌そうに表面を軽く叩いて埃を落とし、皺を広げ直す。
「うん……この際だから城の中も変えていこう。必要のない部屋と物は撤去処分。保留したい物は地下に仕舞う。そして、空き部屋と廊下と寝室の徹底的な清掃だ。ついでに倉庫も整えること。ある物全てを有効に扱えるようにするのだ。掃除清掃整理整頓、整然清潔に! さて、こっちは進めながら指示する! 早速始めていくよ! 時間勿体ない‼︎」
「うむ! では諸君、我らが宰相の指示の下、工事に取り掛かれい‼︎」
ベリアルの号令を以って、魔族たちは動き出した。
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