魔王国の宰相

佐伯アルト

文字の大きさ
215 / 297
Ⅴ ソロモン革命

7節 ソロモン鉄道 ②

しおりを挟む
「では、報告会を始めるぞ」

 全員でこそないが、円卓部屋に幹部達が集まり、ミーティングが始まろうとしていた。どうしてこうなったか。その経緯はこうだ。

 エイジはシルヴァを連れたまま、玉座の間へと向かった。そしてベリアルやエリゴスたちに声をかけて、神界での修行に付き合ってもらうつもりだった。しかし……そのことを提案するより早く、エイジの姿を認めたベリアルは号令をかけ、幹部を集めてしまった。帰ってきたエイジは現状の情報を求めるだろうと思って。こうして修行の相談を持ちかける間も無く、会議が始まってしまったのである。

「まあ、別にいいんんだけどさ……どこまで進んだかは普通に知りたかったし……」
「どうかしたのか?」
「いえ、なんでもありません。では、お願いします」

 修行のことを考えて、内心はソワソワしていたが、大人しく席について話を聞くこととする。しかし……席に座って話を聞く側に回るというのは珍しく、やや慣れない。

「では、まずはお嬢。頼みます」
「分かった。アンタがいない間に、どこまで進んだか教えてやるわ。まず……はいっ、コレ」

 レイエルピナは腰に下げていた何かを、投げて寄越した。それは__

「え、これって……まさか⁉︎」
「ふん、それは試作型だけど、完成したわ」

 銃だった。ボディは魔導金属製、口径はやや大きめの約1.5cm。マガジンを引き抜いてみると、そこにはカットされた魔晶石が入っていた。

「魔銃がもうできたのか⁉︎」
「ええ。テストも済ませたわ。後で試射してみなさい、自信作よ」

 腰に手を当て胸を張り、渾身のドヤ顔。カコイチ決まっている。

「へぇ~、すっげえな!」
「ふふん」

 感動されて、更に気分が良くなったらしい。嬉しそうなオーラが溢れている。

「え……お嬢、機関車の話ではないのですか?」
「レイエルピナ、それは一体?」
「ごめんなさいお父様、秘密」

 どうやら、本当に話さないでいてくれたらしい。今試射したり、踏み込んだ話さえしなければ、何なのかは察せられないだろう。

「差し出がましいですが、補足させていただきます」

 フォラスがすぐ傍まで寄って耳打ちしてくる。これも知られないようにするための配慮だろう。

「その銃の参考にしたのは、あなた方の得意とする魔弾です。魔晶石から魔力を取り出し、圧縮。そして、限界まで圧縮されると、圧縮室が開かれ発射されます。我々は魔弾を撃つ時、無意識に魔力の成形をしていますが、それを意思なき銃でするとなると、このような形式が一番安定しました。この特性から、魔弾は無属性に限定されます。他にも魔術陣を組み込んだタイプも製作済みです。そして魔弾専用のライフリング処置も施しました」

「もう一つの特徴は?」

「魔術陣のタイプは、一定の威力を安定して打ち出すことが可能であり、各属性の因子を付加することもできます。その代わり、銃身のサイズ的にあまり高威力のものは刻めませんでした。他の方からすれば、魔道具の一種に感じられるでしょうね」

「あとは、グリップ部から使い手の魔力を吸収する方式も開発したわ。これなら、純度の低い魔晶石より良い魔力を持つ奴にも使う意義ができると思う」
「魔力吸収式、かつ圧縮型は、魔力の量と圧縮率を任意で調節できるので威力の調節が可能ですが、安定性がなく使い手の技量に依存します。ですが、慣れてしまえば銃の内部で圧縮することができるので、素手から撃つより威力は高くなります。杖のように、魔力制御の道具として用いるのと同様です。そのため、誰であろうと使う意義はあるかと」

 驚嘆する。自分の提供したアイデアを基にしたとはいえ、こうも研究開発が早いとは。そもそも彼らに頼んだのは、銃そのものはおろか魔力に関しての知見がないために、一人で到底開発できないと踏んでいたから。そのため、自分が難しいだろうと踏んでいたものをいとも容易く形にしてしまう彼らには、尊敬を超えて若干の畏れすら抱いていた。あとで成果に見合った報酬をあげなければ。

「随分速い完成だな」
「まあ、参考になる銃と、魔道具のノウハウ。そして貴方の面白いアイデアがありましたから」

「デメリットは?」

「発射まで、魔力圧縮のタイムラグがあるのと、弾速が遅いわ。圧縮率が低いと魔力が拡散しちゃうから射程も短いし。いつでも発射できるように魔力を詰めてると銃が傷んじゃうもの」

「……撃ち出すための圧縮した魔力とは別に魔力を充填して、それを使って撃ち出せば弾速や威力、射程が上がるんじゃないか?」

「な、なるほど! 考えてみるわ」

「あとは、どうしても口径が大型化してしまいますね」

「ふむ……爆発型は応用すれば、薬莢が代わりにして実弾と魔弾の撃ち分けも可能になるだろう。だとしたら口径は要改善。ところで実弾タイプは?」

「量産体制が全然整ってないわ。ダメよ」

「そうか……ところで実弾についての案だが、実弾に魔術陣を刻むというのはどうだ? 着弾地点でも術が発動するようになるみたいなの」

「考えておきましょう。ただし、考慮すべき事項は多そうですが……」

「それから、魔弾で思い出したんだけど、ビームサー……圧縮した魔力をフィールドで固定化し、刃を形成する武装なんか作れないかな」

「魔力の刃ですか。それなら簡単でしょう。類似品が既にありますので」

「そろそろいいだろうか…!」

 内緒話に痺れを切らしたレイヴンが割って入る。確かに長話が過ぎたし、大事なことは話し終わった。軽く合図をして、二人を下がらせる。ふと顔を向ければ、秘密にジェラシーを感じたらしきベリアルが複雑そうなオーラを醸していた。

「ううん、ごめんなさいレイヴン。さて、じゃあ蒸気機関車の話をするわ」

 これもこれで興味のある話だ。銃についての想像はいったんよけて、聞く姿勢に移行する。

「蒸気機関車についてだけど、プロトタイプは完成したの」

「え、もう⁉︎」
「ええ。どこかの誰かさんが無理して集めたおかげで、資料には困らなかったし」

 どこか責めるような視線を感じるのは、エイジの気のせいだろうか?

「試験走行も終わったから、テストのデータを基に本命、第一号車を組み立てているわ。大きなトラブルさえなければ、あと三日から四日で稼働すると思う」

「俺からも補足だ。その頃には、ここから山脈地帯までのレールの敷設もおおよそ完了する。総走行距離は約六十キロ。安全確保のための柵は、少し遅れるがな」
「……」

 あまりに想定外のことに、エイジはぽかんと固まる。

「モウ、ソンナニ……ススンデルンデスカ……?」

「まあな。魔王国、獣人や精霊、亜人族にその他魔獣さえ導入し、魔王国の全てをかけて作っている。労働者たちはかなり疲弊し、不満も溜まっているようだが……蒸気機関車を見れば、そんなことはどうでも良くなるほどに感動するだろうな」

 しみじみとした様子のレイヴン。彼自身、試作型の機関車を見て、大いに驚き感動したのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...