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番外編
【本編終了後】とある騎士団員の話
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結婚(本編終了)後。とある団員が見た、団長の話。
うっわ、未だに手が震えてやんの……実戦よりもあの人たちの殺気に充てられている方がよっぽど怖いぜ、俺は。
模擬戦だからって手加減してくれねえしな……団長も副団長も。
と言うか、あれだけの人数と打ち合って、ほとんど息を乱さねえのは流石だけどな。
確かふたりとも、獣人の血族だろ?
普段は、まさか獣人の、狼と獅子の血が混ざってるなんてわかんねえもんな。
まあ、だからって何が変わるわけでもねえけど。
……ああ、そういやこの間、団長がご貴族様の……どこの家だったかな、忘れたけど、男遊びが激しいって言われてる娘に告白されてるの見かけたんだよ。
どんな女だったかって? どんなだったっけかな……金色の巻き毛の……胸がでかくて、血で染めたんじゃないかってぐらい真っ赤なドレスを着た女だったのは、覚えてるんだが。
少なくとも、団長の奥方とは、正反対のタイプだったのは間違いないな。
それでどうなったかって? 待てって、順番に話すから。
その真っ赤なドレスの女はでかい胸……まあ恐らく作りものなんじゃないかって思うんだが、それを団長に押し付けながら、
「貴方をお慕い申し上げておりました」
って告白してた。
……何だその顔、俺もな、正直あの貴族のお嬢さん、ちょっと頭がおかしいんじゃないかって思ったが、今は何も言うなよ。
確かにルーデンドルフ団長は顔も良いし、仕事のときでこそ冷酷と言える面もあるが、俺たちみたいな庶民にも分け隔てなく接してくれるし、評価もしてくれる、いい男だと思う。
しかもルーデンドルフ家って言えば武門でも有名な家だし、三男とは言え、騎士団の団長って言う地位も持ってる。
愛人でもいいから傍に置いて欲しいって思う女は未だにいるらしい。
――まあ、結婚してからのルーデンドルフ団長の奥方への溺愛ぶりを知れば、そんなふうに思えないはずなんだが、どうやら赤いドレスの女は、団長がいかに奥方を愛しているのか知らなかったらしい。
「一番に優先されるのは奥方様で構いません。カイル様を、愛しているのです。どうかわたくしを、貴方のお傍に置いてくださいませ……っ」
今にも崩れ落ちそうな儚い感じで……何て言うんだろうな、いじらしく縋ってるんだけど、あれは絶対「一番は奥方で良い」っていう面じゃなかったな。どんな顔してたのかは見えなかったけど。
いかにもプライド高そうだったし、二番で良いって言う柄じゃなかった。
耳をそばだてるなんて、あんまり良くないことだとは思ったんだが、ここまで聞いたら団長がどんな反応するのか気になるだろ。
え? 絶対断るだろうって? ……あー、うん、予想はその通りなんだけど……。
――あのな、団長、笑ったんだよ。
ああ、驚く気持ちは俺もわかる。
赤いドレスのお嬢さんも、団長に微笑み掛けられて、顔が赤くなってた。あれは確実に、期待してたんだろうな。
かく言う俺も、少なからず動揺した。息が止まったって言っても、過言じゃない。
だってまだ結婚したばかりの新婚で、奥方の話をするときはあんなに幸せそうな顔をしているのに、奥さん裏切るのかって、一瞬だけ、疑った。
……結論から言えば、馬鹿馬鹿しい勘違いだったわけだけど。
「期待に添えなくて申し訳ないが、やっと妻になってくれた番いを愛でるので俺は忙しくしている。今も、そしてこれからも、他に女を囲う予定はない。他を当たってもらえるかな」
心なしか、言葉に棘が篭っていたのは気の所為じゃないと思うんだよな、俺。
いつもに比べたら、言葉もどことなく冷たかったし。
少し離れたところで聞いていた俺がそう感じたんだから、目の前にいた貴族のお嬢さんは直にそれを感じたはずで。
団長が「用件は、それだけ?」って尋ねたら、首を勢いよく横に振って、団長がいなくなるまで身動きできなかったみたいだし。
ルーデンドルフ団長は基本的には人当たりがいいけど、敵と見做したら容赦しないから。
獣人の番いへの愛は何よりも深く重い、なんて言われてるし、それは半分と言えど血を受け継いでる団長も例外じゃない。
そもそも色仕掛けで簡単に堕ちるような団長なら、とっくに寝首をかかれて死んでる。
……ああ、なんか団長と奥方の話してたら、俺も城下で働いてる彼女に会いたくなってきた……どんな子かって? は? ……言うかよ。
初出:2018/04/30-06/13 web拍手
再録:2018/06/13 ムーンライトノベルズ
うっわ、未だに手が震えてやんの……実戦よりもあの人たちの殺気に充てられている方がよっぽど怖いぜ、俺は。
模擬戦だからって手加減してくれねえしな……団長も副団長も。
と言うか、あれだけの人数と打ち合って、ほとんど息を乱さねえのは流石だけどな。
確かふたりとも、獣人の血族だろ?
普段は、まさか獣人の、狼と獅子の血が混ざってるなんてわかんねえもんな。
まあ、だからって何が変わるわけでもねえけど。
……ああ、そういやこの間、団長がご貴族様の……どこの家だったかな、忘れたけど、男遊びが激しいって言われてる娘に告白されてるの見かけたんだよ。
どんな女だったかって? どんなだったっけかな……金色の巻き毛の……胸がでかくて、血で染めたんじゃないかってぐらい真っ赤なドレスを着た女だったのは、覚えてるんだが。
少なくとも、団長の奥方とは、正反対のタイプだったのは間違いないな。
それでどうなったかって? 待てって、順番に話すから。
その真っ赤なドレスの女はでかい胸……まあ恐らく作りものなんじゃないかって思うんだが、それを団長に押し付けながら、
「貴方をお慕い申し上げておりました」
って告白してた。
……何だその顔、俺もな、正直あの貴族のお嬢さん、ちょっと頭がおかしいんじゃないかって思ったが、今は何も言うなよ。
確かにルーデンドルフ団長は顔も良いし、仕事のときでこそ冷酷と言える面もあるが、俺たちみたいな庶民にも分け隔てなく接してくれるし、評価もしてくれる、いい男だと思う。
しかもルーデンドルフ家って言えば武門でも有名な家だし、三男とは言え、騎士団の団長って言う地位も持ってる。
愛人でもいいから傍に置いて欲しいって思う女は未だにいるらしい。
――まあ、結婚してからのルーデンドルフ団長の奥方への溺愛ぶりを知れば、そんなふうに思えないはずなんだが、どうやら赤いドレスの女は、団長がいかに奥方を愛しているのか知らなかったらしい。
「一番に優先されるのは奥方様で構いません。カイル様を、愛しているのです。どうかわたくしを、貴方のお傍に置いてくださいませ……っ」
今にも崩れ落ちそうな儚い感じで……何て言うんだろうな、いじらしく縋ってるんだけど、あれは絶対「一番は奥方で良い」っていう面じゃなかったな。どんな顔してたのかは見えなかったけど。
いかにもプライド高そうだったし、二番で良いって言う柄じゃなかった。
耳をそばだてるなんて、あんまり良くないことだとは思ったんだが、ここまで聞いたら団長がどんな反応するのか気になるだろ。
え? 絶対断るだろうって? ……あー、うん、予想はその通りなんだけど……。
――あのな、団長、笑ったんだよ。
ああ、驚く気持ちは俺もわかる。
赤いドレスのお嬢さんも、団長に微笑み掛けられて、顔が赤くなってた。あれは確実に、期待してたんだろうな。
かく言う俺も、少なからず動揺した。息が止まったって言っても、過言じゃない。
だってまだ結婚したばかりの新婚で、奥方の話をするときはあんなに幸せそうな顔をしているのに、奥さん裏切るのかって、一瞬だけ、疑った。
……結論から言えば、馬鹿馬鹿しい勘違いだったわけだけど。
「期待に添えなくて申し訳ないが、やっと妻になってくれた番いを愛でるので俺は忙しくしている。今も、そしてこれからも、他に女を囲う予定はない。他を当たってもらえるかな」
心なしか、言葉に棘が篭っていたのは気の所為じゃないと思うんだよな、俺。
いつもに比べたら、言葉もどことなく冷たかったし。
少し離れたところで聞いていた俺がそう感じたんだから、目の前にいた貴族のお嬢さんは直にそれを感じたはずで。
団長が「用件は、それだけ?」って尋ねたら、首を勢いよく横に振って、団長がいなくなるまで身動きできなかったみたいだし。
ルーデンドルフ団長は基本的には人当たりがいいけど、敵と見做したら容赦しないから。
獣人の番いへの愛は何よりも深く重い、なんて言われてるし、それは半分と言えど血を受け継いでる団長も例外じゃない。
そもそも色仕掛けで簡単に堕ちるような団長なら、とっくに寝首をかかれて死んでる。
……ああ、なんか団長と奥方の話してたら、俺も城下で働いてる彼女に会いたくなってきた……どんな子かって? は? ……言うかよ。
初出:2018/04/30-06/13 web拍手
再録:2018/06/13 ムーンライトノベルズ
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