大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot

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第三章 旅の魔女

第83話 お、怒ってる?

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「さて、そろそろ夕飯を作らないとですね」

 旅人さんが帰った後。僕は、わざとらしく明るい声でそう言いました。チラリと横に視線を向けると、そこには、椅子に座ったまま物憂げな表情を浮かべる師匠の姿。

「…………」

「師匠」

「……なに?」

「……いえ、何でもないです」

 本当は、聞きたい気持ちでいっぱいでした。師匠は今何を考えているのか。『戦花の魔女』について、本当に師匠は何も知らないのか。

 ですが、それを聞いてしまうと、何かが大きく変わってしまう。そんな予感がしたのです。僕の杞憂かもしれませんが。

 僕は、ゆっくりとキッチンへ。戸棚に近づき、今日の夕飯に使う材料を取り出していきます。お肉。玉ねぎ。そして……。

「で、弟子君?」

「はい」

「そ、その手に持ってるものは、な、何かな?」

「何って。ピーマンですけど」

 その時、ガタリと大きな音が響きました。見ると、椅子から立ち上がった師匠が、怯え顔をこちらに向けています。

「ど、どどどうして?」

 師匠の声は、とてつもなく震えていました。

 そう。師匠は、ピーマンが大の苦手なのです。師匠曰く、「こんなに苦いものは、この世の食べ物じゃない!」とのことらしいですが。まあ、今日は食べてもらうことにしましょう。だって……。

「お菓子作り勝負」

 僕の言葉に、師匠は「……あ」と小さな声を漏らしました。おそらく、思い出したのでしょう。師匠自身のことを棚に上げ、魔女は料理に精通しているものだと旅人さんに告げたことを。僕と旅人さんを勝負させることで、自分用のおやつを作らせたことを。

「で、弟子君。お、怒ってる?」

「…………」

「あ、あれは、別に」

「…………」

「あの……その……」

「師匠」

「は、はい」

 僕は、ニッコリと笑顔を作ります。三日月形の口をした、悪魔のような悪い笑顔を。

「今日はピーマンのフルコースですよ」

 次の瞬間、家の中に、師匠の叫び声が響き渡るのでした。
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