上 下
107 / 164
第四章 戦花の魔女

第106話 あんなことがあったのに

しおりを挟む
「そういえば、魔女ちゃんは、どうやってお金稼ぎしてるの?」

「魔法関係の物品修理かな。町の大通りで」

「ふむふむ。魔女ちゃんなら、ガッポガッポ稼いでそうだね」

「そんなことないよ」

 そもそも、大通りでの商売で収入が安定するわけがない。収入ゼロなんて日もよくある。ちなみに、今の貯金額は……考えたくもない。

「どこかに就職とかは考えないの? ほら。魔女ちゃんって今十六歳でしょ」

「考えたこともあるけどね。でも、どうにも気が進まなくて。まあ、私は、一人でのんびりやってる方が性に合ってるんだよ」

「…………」

 無言でじっとこちらを見つめる彼女。もう彼女は気がついているのだろう。私にとって、軍での出来事がトラウマになっていることに。集団の中にいることが恐怖でしかないことに。

「お金が稼げて、かつ一人でのんびりやっていけるような仕事。あなた、知らない?」

 私は、わざと明るい声を出しながらそう言った。別に、本気でそんな仕事があるかどうかを聞いているのではない。彼女が向ける無言の視線から解放されるための、ただの冗談だ。

 私の言葉に、彼女は、「……え」と小さく声を漏らした。その目は大きく見開かれ、体はピクリとも動かない。そして、数秒後、「ニヒヒ」とよく分からない笑い声を上げ始めた。

「えっと……どうしたの?」

「ニヒヒヒヒ」

「お、おーい」

「ニヒヒヒヒヒヒ」

 本当にわけが分からない。冗談とはいえ、私は何か変なことを言ってしまったのだろうか。いや、もしかしたら、彼女は、私の発言に呆れすぎておかしくなってしまったのかも。

「あんなことがあったのに、またボクを頼ってくれるなんて……」

「ん? それ、どういう……」

「ううん。何でもない。そんなことより、『お金が稼げて、かつ一人でのんびりやっていけるような仕事』だったね」

 彼女は、続けてこう言った。顔に満面の笑みを浮かべながら。

「大丈夫! ボクに任せて!」
しおりを挟む

処理中です...