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第一章 僕の自殺を止めたのは
第11話 ちょっと、死にたくなりまして
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いろんな人から虐げられました。
親戚たちからは陰口を叩かれ続け。小、中のクラスメイトたちからはひどいいじめを受け。
好きな人がいなくなりました。
小さい頃、僕を気遣ってくれたおじさんが病気で亡くなり。僕の高校進学後すぐ、両親が事故で亡くなり。
僕は、不幸のどん底にいたのです。とても暗くて、苦しくて、いるだけで吐き気を催すような、そんな場所に。
両親が亡くなった時、僕は思いました。ああ、もう楽になりたいと。もう生きている意味なんてないと。
僕がこれから生活していくためのお金だけはありました。両親の生命保険や遺産のおかげです。具体的なことはあまり知りませんでしたが、両親はかなりお金持ちだったようです。せっかく両親が残してくれたものなのだから、それらを全て使い切ってしまってから死のうとも思いました。ですが、もう僕には、それをするだけの気力も体力もありませんでした。
すぐ自殺しよう。そして楽になろう。そう、思っていたのに。
死神さんは言いました。僕の大切な人になると。僕を虐げないと。僕の前からいなくならないと。僕に幸せを届けると。
どうして会ったばかりの死神さんがそんな決断をしたのか分かりません。僕に将棋で勝ち逃げをさせないためらしいですが、そこまでする必要は果たしてあったのでしょうか。僕と死神さんは、ついこの前まで他人だったはずなのに。分かりません。本当に、分かりません。
でも、これだけは分かります。
僕の心が、とてつもなく温かい何かで満たされたということが。
僕の目から出た涙が、死神さんのローブをぐちゃぐちゃに濡らしていきます。ですが死神さんは、特にそれを気にする様子もなく、ずっと僕を抱きしめたまま頭を撫で続けていました。
一体どれほどの時間が経ったのでしょうか。死神さんの温かさと花のような甘い香りに包まれたまま、僕の体は自然と眠りに落ちていきました。
♦♦♦
「えっと」
状況を整理しましょう。そう、こういう時こそ、冷静に。冷静になるのが一番です。
僕の体は、ベッドの上で横向きになっています。いつもなら、部屋の中央に置いてあるこたつテーブルや、壁側にある押し入れの扉が視界に入るはずです。しかし今、僕の目にそれらは映っていません。
では、何が映っているのでしょうか。
見覚えのある真っ黒なローブ。
見覚えのある長い白銀色の髪。
見覚えのある死神さんの顔。
「うへへ。『鬼殺し』が決まったぞー……むにゃむにゃ」
ふむふむ。僕は今、死神さんと一緒に一つのベッドで寝ているわけですね。体を寄せ合いながら。
なるほど。
なるほど。なるほど。
…………
…………
「う、うわああああああ」
全く冷静でいられなかった僕なのでした。
「んー。もう朝―?」
ベッドの方から、死神さんの寝ぼけ声が聞こえます。ですが、部屋の隅で壁側を向いて体育座りをする僕に、その顔は見えません。
「お、おはようございます。死神さん」
「おはよー。君、どうしてそんな所で体育座りなんかしてるの?」
「いや、まあ。ちょっと、死にたくなりまして」
沈んだ声でそう告げる僕。まさか、抱きしめられたまま泣き疲れて寝落ちしてしまうなんて。まるで小さな子供じゃないですか。穴があったら入りたいとはこのことですね。
「……へー。『死にたくなった』、ね」
「し、死神さん?」
「ふふ。そっか。そっか。ふふふ」
「ど、どうして笑うんですか?」
思わず尋ねます。今のどこに笑う要素があったのでしょうか。
僕の質問に、死神さんはこう答えました。
「だって、『死にたくなった』っていうのは、生きる意志がある人の言葉だから」
「……え?」
生きる意志?
振り向く僕。そこにいたのは、優しい笑みを浮かべる死神さんでした。
「本当に死にたい人はさ、『死にたい』とは言っても『死にたくなった』とは言わないものだよ」
「そう、なんですか?」
「うん。微妙な言葉の違いだけどね。少なくとも、私はそう思ってる」
死神さんの言葉には、確信めいた何かがありました。果たして、彼女の言っていることは真実なのでしょうか。もしそれが真実なのだとしたら、先ほど『死にたくなった』と口にした僕は……。
「あの。死神さん」
「どうしたの?」
「……いえ。なんでもありません」
僕に生きる意志はあるのか。それを聞こうとしてやめました。聞く必要などないことに気がついたからです。
僕の中にあるこの感覚。昨日までとは確かに違う不思議な感覚。きっとそれが、僕の疑問に対する答えなのでしょう。
「うーーーん。それにしてもお腹すいちゃったな―。君、何か食べるものない? 個人的にはサンドイッチをパクつきたいところだね」
僕の心を見透かしたように、死神さんはおどけた調子でそう告げるのでした。
親戚たちからは陰口を叩かれ続け。小、中のクラスメイトたちからはひどいいじめを受け。
好きな人がいなくなりました。
小さい頃、僕を気遣ってくれたおじさんが病気で亡くなり。僕の高校進学後すぐ、両親が事故で亡くなり。
僕は、不幸のどん底にいたのです。とても暗くて、苦しくて、いるだけで吐き気を催すような、そんな場所に。
両親が亡くなった時、僕は思いました。ああ、もう楽になりたいと。もう生きている意味なんてないと。
僕がこれから生活していくためのお金だけはありました。両親の生命保険や遺産のおかげです。具体的なことはあまり知りませんでしたが、両親はかなりお金持ちだったようです。せっかく両親が残してくれたものなのだから、それらを全て使い切ってしまってから死のうとも思いました。ですが、もう僕には、それをするだけの気力も体力もありませんでした。
すぐ自殺しよう。そして楽になろう。そう、思っていたのに。
死神さんは言いました。僕の大切な人になると。僕を虐げないと。僕の前からいなくならないと。僕に幸せを届けると。
どうして会ったばかりの死神さんがそんな決断をしたのか分かりません。僕に将棋で勝ち逃げをさせないためらしいですが、そこまでする必要は果たしてあったのでしょうか。僕と死神さんは、ついこの前まで他人だったはずなのに。分かりません。本当に、分かりません。
でも、これだけは分かります。
僕の心が、とてつもなく温かい何かで満たされたということが。
僕の目から出た涙が、死神さんのローブをぐちゃぐちゃに濡らしていきます。ですが死神さんは、特にそれを気にする様子もなく、ずっと僕を抱きしめたまま頭を撫で続けていました。
一体どれほどの時間が経ったのでしょうか。死神さんの温かさと花のような甘い香りに包まれたまま、僕の体は自然と眠りに落ちていきました。
♦♦♦
「えっと」
状況を整理しましょう。そう、こういう時こそ、冷静に。冷静になるのが一番です。
僕の体は、ベッドの上で横向きになっています。いつもなら、部屋の中央に置いてあるこたつテーブルや、壁側にある押し入れの扉が視界に入るはずです。しかし今、僕の目にそれらは映っていません。
では、何が映っているのでしょうか。
見覚えのある真っ黒なローブ。
見覚えのある長い白銀色の髪。
見覚えのある死神さんの顔。
「うへへ。『鬼殺し』が決まったぞー……むにゃむにゃ」
ふむふむ。僕は今、死神さんと一緒に一つのベッドで寝ているわけですね。体を寄せ合いながら。
なるほど。
なるほど。なるほど。
…………
…………
「う、うわああああああ」
全く冷静でいられなかった僕なのでした。
「んー。もう朝―?」
ベッドの方から、死神さんの寝ぼけ声が聞こえます。ですが、部屋の隅で壁側を向いて体育座りをする僕に、その顔は見えません。
「お、おはようございます。死神さん」
「おはよー。君、どうしてそんな所で体育座りなんかしてるの?」
「いや、まあ。ちょっと、死にたくなりまして」
沈んだ声でそう告げる僕。まさか、抱きしめられたまま泣き疲れて寝落ちしてしまうなんて。まるで小さな子供じゃないですか。穴があったら入りたいとはこのことですね。
「……へー。『死にたくなった』、ね」
「し、死神さん?」
「ふふ。そっか。そっか。ふふふ」
「ど、どうして笑うんですか?」
思わず尋ねます。今のどこに笑う要素があったのでしょうか。
僕の質問に、死神さんはこう答えました。
「だって、『死にたくなった』っていうのは、生きる意志がある人の言葉だから」
「……え?」
生きる意志?
振り向く僕。そこにいたのは、優しい笑みを浮かべる死神さんでした。
「本当に死にたい人はさ、『死にたい』とは言っても『死にたくなった』とは言わないものだよ」
「そう、なんですか?」
「うん。微妙な言葉の違いだけどね。少なくとも、私はそう思ってる」
死神さんの言葉には、確信めいた何かがありました。果たして、彼女の言っていることは真実なのでしょうか。もしそれが真実なのだとしたら、先ほど『死にたくなった』と口にした僕は……。
「あの。死神さん」
「どうしたの?」
「……いえ。なんでもありません」
僕に生きる意志はあるのか。それを聞こうとしてやめました。聞く必要などないことに気がついたからです。
僕の中にあるこの感覚。昨日までとは確かに違う不思議な感覚。きっとそれが、僕の疑問に対する答えなのでしょう。
「うーーーん。それにしてもお腹すいちゃったな―。君、何か食べるものない? 個人的にはサンドイッチをパクつきたいところだね」
僕の心を見透かしたように、死神さんはおどけた調子でそう告げるのでした。
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