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第二章 僕と死神さんと、それから……
第19話 それは、私に将棋で勝つこと!
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「でも、つい最近まで一人暮らしだった男の子の部屋に、そういう本がないっておかしいじゃない」
「私もそう思ってたんだけどね。どこ探してもなくて。やっぱり最近はネット派が多いんだよ。多分彼も」
こたつテーブルを挟んで会話する死神さんと先輩。テーブルの上にはお茶の入ったコップが二つ。二人が座って話を始めてからもう五分以上が経過しています。
よく知りませんが、今どきの女性ってそっち系の話もお手の物なのでしょうか。どうにも居心地が悪すぎます。しかも、話題の対象が僕。もう逃げ出してしまいたい気分です。
「男の子が全員そういう本を隠し持ってるっていうのは、都市伝説だったのね」
「好み、知りたかったなあ」
「あの。二人とも」
「「なに(よ)?」」
僕の言葉に、二人がそろって顔を向けました。長い白銀色の髪を揺らす死神さん。短い黒髪を揺らす先輩。対照的な二人は、どちらも怪訝な表情を浮かべています。
「えっと。そろそろ本題に入りたいんですけど……」
「ん? おっと。すっかり盛り上がっちゃったわ。待たせて悪かったわね」
「い、いえ。ハハ……ハ」
自分でもはっきり分かるほどの乾いた笑い。一体だれが想像できたでしょう。『僕がそういう本を持っているか』談義がここまで長く続けられるなんて。ですが、僕としては、いい加減ちゃんと話し合いをしたいのです。
先輩は、コホンと一度咳ばらいをし、居住まいを正しました。
「お姉さん。いきなりだけど一つお願いがあるの」
「……一応、話は聞いてるよ。弟を将棋部に入部させたいんだって?」
「そう。今日の昼に交渉した時、お姉さんの晩御飯を作らないといけないから将棋部には入部できないって言われたの。でも、私としては、どうしても彼に将棋部へ入部してほしい。だからお願い。彼が、将棋部に入部するのを許して」
先ほどとは全く違うピリついた空気が僕たちの間を流れます。死神さんに向かって頭を下げる先輩。土下座とまではいかないまでも、綺麗でとても深いお辞儀。彼女の真剣さがその全身から伝わってくるかのようでした。
果たして僕に同じことができるでしょうか。つい昨日会ったばかりの他人を部活動に勧誘するために、その人の家まで行って頭を下げるなんていうことが。部活動未経験の僕ですから、そこまで詳しいことは言えません。ですが、今の先輩の姿は、明らかに普通とは違うはずです。
先輩。どうしてそこまで……。
「ふむ。別に、弟が将棋部に入るのは構わないよ。晩御飯については何かしらの方法を考えればいいだけの話だしね」
「ほんと!?」
死神さんの言葉に、先輩は、下げていた頭を勢いよく上げました。目はキラキラと輝き、顔には満面の笑みが浮かんでいます。
「でも、一つだけ条件がある」
「条件?」
「そ」
首を傾げる先輩に向かって、死神さんはドヤ顔で言い放ちました。
「それは、私に将棋で勝つこと!」
放たれたのは、紛れもない宣戦布告。横で会話を聞いていた僕は、思わず大きく肩を落としました。一体どこの少年漫画を見せられているのでしょうか。この瞬間、僕は悟ってしまったのです。「あ、これはダメなパターンだ」と。
「ルールは簡単だよ。将棋で勝った方が、弟を好きなようにできる。つまり、先輩ちゃんが勝てば、弟を将棋部に入部させることができる。逆に、私が勝てば…………ジュルリ。おっとよだれが」
突然、口元を拭う死神さん。僕の背筋に冷たい汗が流れます。
「しに……姉さん!? 僕に何させようっていうんですか!?」
「フフフ。今まで我慢してたあれやこれやを。フフフフフ」
どうやら、死神さんは妄想の世界に行ってしまったみたいです。ニンマリした笑みを浮かべながら、何かを呟いています。彼女の綺麗な赤い瞳は、ここではないどこかを見つめていました。
いや、そもそも、僕の権利はどこに……って、ついさっき似たようなことを考えましたね。さっきは、「僕の人権が軽く見られている」でしたが、どうやらその考えは甘かったようです。軽く見られているどころの騒ぎじゃありません。本当に、何をさせられるのやら。
「まずは膝枕から……それで……ニヒヒ」
…………膝枕くらいならいいかも、なんて。
「えっと。まあ、とにかく、私がお姉さんに将棋で勝てばいいのよね。のぞむところよ!」
そう言って、先輩は、僕に向かってビシッと人差し指を向けました。
「見てなさい! あんたを絶対、将棋部に入部させてやるんだから!」
意気揚々という言葉はこういう時に使うのでしょう。これまで以上に鋭い目つきになった先輩。その姿はまるで、獲物を狙う鷹のように見えました。
「私もそう思ってたんだけどね。どこ探してもなくて。やっぱり最近はネット派が多いんだよ。多分彼も」
こたつテーブルを挟んで会話する死神さんと先輩。テーブルの上にはお茶の入ったコップが二つ。二人が座って話を始めてからもう五分以上が経過しています。
よく知りませんが、今どきの女性ってそっち系の話もお手の物なのでしょうか。どうにも居心地が悪すぎます。しかも、話題の対象が僕。もう逃げ出してしまいたい気分です。
「男の子が全員そういう本を隠し持ってるっていうのは、都市伝説だったのね」
「好み、知りたかったなあ」
「あの。二人とも」
「「なに(よ)?」」
僕の言葉に、二人がそろって顔を向けました。長い白銀色の髪を揺らす死神さん。短い黒髪を揺らす先輩。対照的な二人は、どちらも怪訝な表情を浮かべています。
「えっと。そろそろ本題に入りたいんですけど……」
「ん? おっと。すっかり盛り上がっちゃったわ。待たせて悪かったわね」
「い、いえ。ハハ……ハ」
自分でもはっきり分かるほどの乾いた笑い。一体だれが想像できたでしょう。『僕がそういう本を持っているか』談義がここまで長く続けられるなんて。ですが、僕としては、いい加減ちゃんと話し合いをしたいのです。
先輩は、コホンと一度咳ばらいをし、居住まいを正しました。
「お姉さん。いきなりだけど一つお願いがあるの」
「……一応、話は聞いてるよ。弟を将棋部に入部させたいんだって?」
「そう。今日の昼に交渉した時、お姉さんの晩御飯を作らないといけないから将棋部には入部できないって言われたの。でも、私としては、どうしても彼に将棋部へ入部してほしい。だからお願い。彼が、将棋部に入部するのを許して」
先ほどとは全く違うピリついた空気が僕たちの間を流れます。死神さんに向かって頭を下げる先輩。土下座とまではいかないまでも、綺麗でとても深いお辞儀。彼女の真剣さがその全身から伝わってくるかのようでした。
果たして僕に同じことができるでしょうか。つい昨日会ったばかりの他人を部活動に勧誘するために、その人の家まで行って頭を下げるなんていうことが。部活動未経験の僕ですから、そこまで詳しいことは言えません。ですが、今の先輩の姿は、明らかに普通とは違うはずです。
先輩。どうしてそこまで……。
「ふむ。別に、弟が将棋部に入るのは構わないよ。晩御飯については何かしらの方法を考えればいいだけの話だしね」
「ほんと!?」
死神さんの言葉に、先輩は、下げていた頭を勢いよく上げました。目はキラキラと輝き、顔には満面の笑みが浮かんでいます。
「でも、一つだけ条件がある」
「条件?」
「そ」
首を傾げる先輩に向かって、死神さんはドヤ顔で言い放ちました。
「それは、私に将棋で勝つこと!」
放たれたのは、紛れもない宣戦布告。横で会話を聞いていた僕は、思わず大きく肩を落としました。一体どこの少年漫画を見せられているのでしょうか。この瞬間、僕は悟ってしまったのです。「あ、これはダメなパターンだ」と。
「ルールは簡単だよ。将棋で勝った方が、弟を好きなようにできる。つまり、先輩ちゃんが勝てば、弟を将棋部に入部させることができる。逆に、私が勝てば…………ジュルリ。おっとよだれが」
突然、口元を拭う死神さん。僕の背筋に冷たい汗が流れます。
「しに……姉さん!? 僕に何させようっていうんですか!?」
「フフフ。今まで我慢してたあれやこれやを。フフフフフ」
どうやら、死神さんは妄想の世界に行ってしまったみたいです。ニンマリした笑みを浮かべながら、何かを呟いています。彼女の綺麗な赤い瞳は、ここではないどこかを見つめていました。
いや、そもそも、僕の権利はどこに……って、ついさっき似たようなことを考えましたね。さっきは、「僕の人権が軽く見られている」でしたが、どうやらその考えは甘かったようです。軽く見られているどころの騒ぎじゃありません。本当に、何をさせられるのやら。
「まずは膝枕から……それで……ニヒヒ」
…………膝枕くらいならいいかも、なんて。
「えっと。まあ、とにかく、私がお姉さんに将棋で勝てばいいのよね。のぞむところよ!」
そう言って、先輩は、僕に向かってビシッと人差し指を向けました。
「見てなさい! あんたを絶対、将棋部に入部させてやるんだから!」
意気揚々という言葉はこういう時に使うのでしょう。これまで以上に鋭い目つきになった先輩。その姿はまるで、獲物を狙う鷹のように見えました。
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