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第二章 僕と死神さんと、それから……

第18話 ち、違うから!

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「事情は分かったけどさ」

 玄関扉の前で、僕は、死神さんに事の経緯を説明しました。ちなみに、先輩には先に部屋の中へ入ってもらっています。

 僕の説明を聞いて、むうっと唇を尖らせる死神さん。機嫌があまりよくないとき、死神さんはよくこんな表情をするのです。死神さんと同棲を初めて長い時間が経ったわけではありませんが、機嫌の良し悪しくらいは分かるようになりました。

「すいません。何の断りもなく先輩を連れてきちゃって」

 きっと死神さんは、そのことが気に食わないのでしょう。誰だって、いきなり自分の住んでいる所に知らない人が来たら、いい気持ちはしないでしょうから。せめて事前に連絡ができればよかったんですけどね。

 僕は、死神さんに向かってペコリと頭を下げました。

「いや、別にそれはいいんだけどさあ」

「あれ? そうなんですか?」

 どうやら僕の予想は外れていたようです。絶対にこれだと思ったのですが。機嫌の良し悪しが分かっても、その理由まで判別するのは難しいですね。にしても、死神さんはどうして不機嫌になっているのでしょうか。

「昨日言ってた『先輩』って、女の子だったんだね」

「へ?」

「しかも、すごくかわいい」

「は、はあ。そ、そうですね」

「…………むう」

 正直、女性の可愛さの基準がよく分かっていない僕。どうにも曖昧な返答しかできません。

 死神さんの機嫌はますます悪くなっていきます。幻覚でしょうか。彼女の背後からは、灰色のオーラが放出されているように見えました。

 そういえば昨日、死神さんには「高校の先輩に会って将棋部に勧誘された」とは言いましたが、先輩の性別までは言っていませんでした。別に意図してそうしたわけではありませんが。

「と、とにかくです。死神さんは僕の姉っていうことになってるので、話を合わせてくださいね。ややこしいことにならないように」

「ん。了解」

 僕たちは互いに頷き合い、玄関扉を開けて中に入りました。キッチンとバスルームの間を抜け、普段使いしている六畳一間へ。

「ないわねえ」

「へ?」

 僕の口から飛び出す間抜け声。そこにあったのは、摩訶不思議な光景でした。僕と死神さんが話している間、部屋の中で待ってもらっていた先輩。彼女が、床に顔をつけながらベッドの下を覗いていたのです。

「あの……先輩?」

 僕の言葉に、先輩の体がビクリと大きく跳ね上がりました。上半身を起こし、真っ赤な顔をこちらに向けています。乱れた髪が、先輩の焦りを表しているようでした。

「ち、違うから!」

 先輩の大きな声が、部屋の中に響き渡りました。

「えっと……」

「べ、別に、男の子の部屋に来たのが初めてで、舞い上がってるわけじゃないから! あまつさえ、男の子特有のそういう本があるかどうかなんて、気になってなんかないから!」

 きっと、先輩は相当慌てているのでしょう。手を勢いよく左右に振りながら、いろいろなことを暴露してしまっています。

「せ、先輩、落ち着いてください」

「お、おお落ち着いてるし!」

 プイッと横を向く先輩。全く落ち着いているようには見えません。黒髪の間から見える耳は、今にも火が出そうなほど真っ赤になっていました。

「ふっ、先輩ちゃんはまだまだだね。彼はそういう本を持ってないんだよ。部屋を隅々まで探索した私だから分かることだけど」

 僕の隣で、なぜかドヤ顔を浮かべる死神さん。

「しに……姉さん、どうしてそこで先輩と張り合おうとするんですか? って、今何か凄いこと言いませんでした?」

 冗談ですよね? 冗談だって言ってください。

「お姉さん。今の話本当なの?」

「本当、本当。多分だけど、本じゃなくてネット派なんじゃないかなと」

「あー。なるほどねえ。ネットかあ」

「彼のスマホ履歴もいつかは見せてもらいたいところだね」

 あれ? 二人が会ったのはついさっきだったのに。どうしてこんなに打ち解け合ってるの? しかも、話してる内容がとんでもないんですけど。

 どうにも最近、僕の人権が軽く見られているような気がします。
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