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第三章 僕の知らない死神さん
閑話 とある日のお出かけ③
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「しかし、そっか。ボクのいた将棋部にも新しい仲間が増えたんだね。よかった」
「私、部長がいなくなってから頑張ったんですよ。『将棋部を任せるぞ』っていう部長の言葉、今でも覚えてます」
「……重荷じゃなかったかな?」
「と、とんでもないです! 部長は、私に居場所をくれました。そんな部長の思いに応えることが、重荷なわけないじゃないですか!」
「フフ。ありがとう。そう言ってくれると、ボクも嬉しいよ」
部長さんは、先輩に向かってゆっくりとその手を伸ばします。
そして。
なでなで。なでなで。
「……部長。恥ずかしい、です」
なでなで。なでなで。
「フフ。やっぱり君は可愛いね」
なでなで。なでなで。
「ぶ、ぶちょー……」
僕たちは今何を見せられているのでしょうか?
歯の浮くようなセリフを吐きながら先輩を撫でる部長さん。部長さんに撫でられ、トロンとした表情を浮かべる先輩。二人の周りには、ピンク色のオーラが漂っています。僕と死神さんのことなど蚊帳の外。完全なる二人だけの世界が構築されていました。
「そうだ。君、今日はすごくおしゃれしてるね。ボク、思わず見とれちゃったよ」
「あ、ありがとうございます。えへへ」
本当に、何を見せられているのでしょうか? あと、目の前にいる先輩は、本当に先輩なのでしょうか? いつもの強気な彼女はどこへ?
「ねえ」
不意に、死神さんが小声で僕に話しかけてきました。
「何ですか?」
「えっと。なんかごめん。軽い気持ちで、『先輩ちゃんに挨拶しに行こう!』って提案しちゃって。まさか、こんな甘々展開になっちゃうなんて思わなかったよ」
「別にいいですよ。まあ、胸やけがすごいですけど。ハハハ」
「ハハハ」
僕たちの口から漏れるのは、乾いた笑い声。一体だれが予想できたでしょう。イケメン部長さん(女性)の登場、先輩のキャラ崩壊、そして、砂糖を吐いてしまうような甘ったるい世界の構築を。
「行きましょうか」
「そうだね。二人の邪魔しちゃ悪いし」
僕と死神さんは、二人に気づかれないように、こっそりとその場を後にしました。
♦♦♦
「なんか、すごかったね。いろいろと」
「そうですね」
「月曜日、どうなるかな?」
「どうなるんでしょう、本当に」
だんだん月曜日の到来が怖くなってきました。おそらく先輩は、いつも以上に鋭い目つきで僕に迫ってくるのでしょう。「もし土曜日のことを誰かに言ったりしたら……ワカッテルワヨネ」という脅迫付きで。
仮病使おうかな。
「ま、まあ、気を取り直して、次行こう!」
そう言いながら、死神さんは、握り拳を天空に向かって突き上げました。
「どこに行きますか?」
「そうだね。あ、じゃあ、さっきのペットショップにもう一回行きたいな」
「……また、周りの人をドン引きさせるようなことはやめてくださいよ」
周囲の「うわあ……」という視線。思い出しただけで背筋がゾクッとします。もうあんな恥ずかしさはこりごりです。
「大丈夫、大丈夫! さあ、行こう!」
♦♦♦
数分後。
「うにゃあああ」
僕は、ペットショップから死神さんを引きずり出していました。即落ち二コマとはこのことでしょうか。
「うう」
目をウルウルさせながら、ペットショップの入り口を見つめる死神さん。
僕の心にチクリと軽い痛みが走ります。ですが、たまには厳しくいくことも大切ですよね。
「死神さん。柴犬の子どもが可愛いのは分かりますけど、もう少し節度を持ってください」
「ううううう。分かったよ」
「とりあえず、次は別の場所にしましょう。『別の』場所です」
ここまで強調しておけば、「もう一回ペットショップに行くチャンスを!」とは言われないでしょう。さすがの死神さんでも。
「別……」
死神さんは、腕組みをしながら考え始めました。ですがその目は、確実にペットショップの方へと向けられています。
え? まさか言いませんよね?
「よし。決めた」
「ペットショップ以外ですよ」
「うん。君の行きたい所、行こ」
「へ?」
「私の行きたいところだけ行っても面白くないしね」
こちらに向けられる赤い瞳。そこに映る僕は、一体どんな表情をしていたのでしょうか。
「私、部長がいなくなってから頑張ったんですよ。『将棋部を任せるぞ』っていう部長の言葉、今でも覚えてます」
「……重荷じゃなかったかな?」
「と、とんでもないです! 部長は、私に居場所をくれました。そんな部長の思いに応えることが、重荷なわけないじゃないですか!」
「フフ。ありがとう。そう言ってくれると、ボクも嬉しいよ」
部長さんは、先輩に向かってゆっくりとその手を伸ばします。
そして。
なでなで。なでなで。
「……部長。恥ずかしい、です」
なでなで。なでなで。
「フフ。やっぱり君は可愛いね」
なでなで。なでなで。
「ぶ、ぶちょー……」
僕たちは今何を見せられているのでしょうか?
歯の浮くようなセリフを吐きながら先輩を撫でる部長さん。部長さんに撫でられ、トロンとした表情を浮かべる先輩。二人の周りには、ピンク色のオーラが漂っています。僕と死神さんのことなど蚊帳の外。完全なる二人だけの世界が構築されていました。
「そうだ。君、今日はすごくおしゃれしてるね。ボク、思わず見とれちゃったよ」
「あ、ありがとうございます。えへへ」
本当に、何を見せられているのでしょうか? あと、目の前にいる先輩は、本当に先輩なのでしょうか? いつもの強気な彼女はどこへ?
「ねえ」
不意に、死神さんが小声で僕に話しかけてきました。
「何ですか?」
「えっと。なんかごめん。軽い気持ちで、『先輩ちゃんに挨拶しに行こう!』って提案しちゃって。まさか、こんな甘々展開になっちゃうなんて思わなかったよ」
「別にいいですよ。まあ、胸やけがすごいですけど。ハハハ」
「ハハハ」
僕たちの口から漏れるのは、乾いた笑い声。一体だれが予想できたでしょう。イケメン部長さん(女性)の登場、先輩のキャラ崩壊、そして、砂糖を吐いてしまうような甘ったるい世界の構築を。
「行きましょうか」
「そうだね。二人の邪魔しちゃ悪いし」
僕と死神さんは、二人に気づかれないように、こっそりとその場を後にしました。
♦♦♦
「なんか、すごかったね。いろいろと」
「そうですね」
「月曜日、どうなるかな?」
「どうなるんでしょう、本当に」
だんだん月曜日の到来が怖くなってきました。おそらく先輩は、いつも以上に鋭い目つきで僕に迫ってくるのでしょう。「もし土曜日のことを誰かに言ったりしたら……ワカッテルワヨネ」という脅迫付きで。
仮病使おうかな。
「ま、まあ、気を取り直して、次行こう!」
そう言いながら、死神さんは、握り拳を天空に向かって突き上げました。
「どこに行きますか?」
「そうだね。あ、じゃあ、さっきのペットショップにもう一回行きたいな」
「……また、周りの人をドン引きさせるようなことはやめてくださいよ」
周囲の「うわあ……」という視線。思い出しただけで背筋がゾクッとします。もうあんな恥ずかしさはこりごりです。
「大丈夫、大丈夫! さあ、行こう!」
♦♦♦
数分後。
「うにゃあああ」
僕は、ペットショップから死神さんを引きずり出していました。即落ち二コマとはこのことでしょうか。
「うう」
目をウルウルさせながら、ペットショップの入り口を見つめる死神さん。
僕の心にチクリと軽い痛みが走ります。ですが、たまには厳しくいくことも大切ですよね。
「死神さん。柴犬の子どもが可愛いのは分かりますけど、もう少し節度を持ってください」
「ううううう。分かったよ」
「とりあえず、次は別の場所にしましょう。『別の』場所です」
ここまで強調しておけば、「もう一回ペットショップに行くチャンスを!」とは言われないでしょう。さすがの死神さんでも。
「別……」
死神さんは、腕組みをしながら考え始めました。ですがその目は、確実にペットショップの方へと向けられています。
え? まさか言いませんよね?
「よし。決めた」
「ペットショップ以外ですよ」
「うん。君の行きたい所、行こ」
「へ?」
「私の行きたいところだけ行っても面白くないしね」
こちらに向けられる赤い瞳。そこに映る僕は、一体どんな表情をしていたのでしょうか。
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