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第四章 いなくなった死神さん
第37話 は!?
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死神さんの様子がおかしくなって一週間。いまだに死神さんは、その理由を語ってはくれません。毎日の日課だった将棋すら、まともにできていないのです。僕は、死神さんが少しでも元気になるようにと、晩御飯に死神さんの好きなお肉料理を作り続けました。事情を知らない僕ができることなんて、それくらいですからね。
「今日は一段と遅いな」
23時50分。そろそろ日付が変わろうとしています。死神さんが帰ってくるまで起きていようと思っていましたが、瞼の重さが限界です。
部屋の電気をつけっぱなしにしたまま、ベッドに仰向けに倒れこむ僕。
「死神さん」
そんな僕の呟きは、静まり返った室内に溶けてなくなりました。
♦♦♦
ギシ、ギシ。
妙な音。そして、真上にある妙な気配。僕の目を開かせたのは、得体の知れない恐怖心。
「え!?」
一瞬、何が起こっているのか理解できませんでした。夢かとも思いましたが、どうやらそうではないらしいです。僕の頬に落ちる水が、しっかりとその感触を伝えてくれたのですから。
「しに……がみ……さん?」
視線の先にいたのは、大粒の涙を流す死神さんの顔でした。
死神さんは、仰向けで寝ている僕の上に覆いかぶさり、ジッと僕を見下ろしています。まるで、もう逃がさないと言っているかのよう。
僕の頭の中は、大量のはてなマークで支配されていました。
「ごめんね」
死神さんの目からポロポロと落ちる涙。それが、何度も何度も僕の頬を濡らします。
「えっと……何……言ってるんですか?」
「本当に、ごめんね」
「だから、さっきから何言って…………んむ!?」
僕の言葉は、死神さんによってさえぎられてしまいました。
狂おしいほどの甘い香り。ゼロ距離にある死神さんの顔。そして唇に触れる、柔らかい何か。
は!?
は!?
は!?
は!?
は!?
「ぷは!」
死神さんの顔が、ゆっくりと離れていきます。
「し、死神さん。い、今……え? ええ?」
「ニヒヒ。君とこんなことするのは初めてだね。やっぱり恥ずかしいや」
頭の中が、先ほど以上にはてなマークでいっぱいになる僕。そんな僕に向かって、死神さんは目に涙を溜めたまま微笑みます。
「次はいつできるかな? って、こんなこと考えても仕方ないよね。だってもう、私はここにいられないんだから。もしかしたら、こうやって顔を合わせられるのも最後かもだし」
ここにいられない? 最後? 死神さんが何を言っているのか、僕には全く分かりません。とにかく体を起こそう。そう考え、僕は自分の体に力を入れました。
「あ、あれ?」
感じる違和感。頭の中では、体はもうとっくに動いているはずなのです。体を起こして、死神さんと座って向かい合っているはずなのです。ですが、先ほどから目の前の景色は全く変わっていません。いまだに死神さんは、僕の上に覆いかぶさってじっとこちらを見つめています。彼女の背後からは、つけっぱなしにしていた蛍光灯の光が漏れ出ていました。
「ごめんね。さっきキスした時、君の体をしばらくの間動けないようにしたの。死神の力の一つでね」
「なん……で……」
「だって、君に抱きしめられでもしたら、私、本当に耐えられなくなっちゃうから」
「だ、から……どう、いう……」
先ほどから、よく分からないことばかり起こります。ですが、これだけははっきりと分かりました。今から起ころうとしている何かは、僕にとって、不幸以外の何ものでもないということ。
「君が次に目を覚ました時、私はもういないけど。これだけは、覚えておいてほしいんだ」
そう言いながら、死神さんは、僕の額に手をかざします。すると、僕のまぶたが急激にその重さを増しました。例えるなら、まぶたの中に鉛が入っているかのよう。同時に、意識が徐々に朦朧としていきます。
「これからもずっと、私は、君のこと」
「大好き、だよ」
「今日は一段と遅いな」
23時50分。そろそろ日付が変わろうとしています。死神さんが帰ってくるまで起きていようと思っていましたが、瞼の重さが限界です。
部屋の電気をつけっぱなしにしたまま、ベッドに仰向けに倒れこむ僕。
「死神さん」
そんな僕の呟きは、静まり返った室内に溶けてなくなりました。
♦♦♦
ギシ、ギシ。
妙な音。そして、真上にある妙な気配。僕の目を開かせたのは、得体の知れない恐怖心。
「え!?」
一瞬、何が起こっているのか理解できませんでした。夢かとも思いましたが、どうやらそうではないらしいです。僕の頬に落ちる水が、しっかりとその感触を伝えてくれたのですから。
「しに……がみ……さん?」
視線の先にいたのは、大粒の涙を流す死神さんの顔でした。
死神さんは、仰向けで寝ている僕の上に覆いかぶさり、ジッと僕を見下ろしています。まるで、もう逃がさないと言っているかのよう。
僕の頭の中は、大量のはてなマークで支配されていました。
「ごめんね」
死神さんの目からポロポロと落ちる涙。それが、何度も何度も僕の頬を濡らします。
「えっと……何……言ってるんですか?」
「本当に、ごめんね」
「だから、さっきから何言って…………んむ!?」
僕の言葉は、死神さんによってさえぎられてしまいました。
狂おしいほどの甘い香り。ゼロ距離にある死神さんの顔。そして唇に触れる、柔らかい何か。
は!?
は!?
は!?
は!?
は!?
「ぷは!」
死神さんの顔が、ゆっくりと離れていきます。
「し、死神さん。い、今……え? ええ?」
「ニヒヒ。君とこんなことするのは初めてだね。やっぱり恥ずかしいや」
頭の中が、先ほど以上にはてなマークでいっぱいになる僕。そんな僕に向かって、死神さんは目に涙を溜めたまま微笑みます。
「次はいつできるかな? って、こんなこと考えても仕方ないよね。だってもう、私はここにいられないんだから。もしかしたら、こうやって顔を合わせられるのも最後かもだし」
ここにいられない? 最後? 死神さんが何を言っているのか、僕には全く分かりません。とにかく体を起こそう。そう考え、僕は自分の体に力を入れました。
「あ、あれ?」
感じる違和感。頭の中では、体はもうとっくに動いているはずなのです。体を起こして、死神さんと座って向かい合っているはずなのです。ですが、先ほどから目の前の景色は全く変わっていません。いまだに死神さんは、僕の上に覆いかぶさってじっとこちらを見つめています。彼女の背後からは、つけっぱなしにしていた蛍光灯の光が漏れ出ていました。
「ごめんね。さっきキスした時、君の体をしばらくの間動けないようにしたの。死神の力の一つでね」
「なん……で……」
「だって、君に抱きしめられでもしたら、私、本当に耐えられなくなっちゃうから」
「だ、から……どう、いう……」
先ほどから、よく分からないことばかり起こります。ですが、これだけははっきりと分かりました。今から起ころうとしている何かは、僕にとって、不幸以外の何ものでもないということ。
「君が次に目を覚ました時、私はもういないけど。これだけは、覚えておいてほしいんだ」
そう言いながら、死神さんは、僕の額に手をかざします。すると、僕のまぶたが急激にその重さを増しました。例えるなら、まぶたの中に鉛が入っているかのよう。同時に、意識が徐々に朦朧としていきます。
「これからもずっと、私は、君のこと」
「大好き、だよ」
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