ねえ、君、死ぬ前に私と将棋しようよ

takemot

文字の大きさ
46 / 61
第四章 いなくなった死神さん

第37話 は!?

しおりを挟む
 死神さんの様子がおかしくなって一週間。いまだに死神さんは、その理由を語ってはくれません。毎日の日課だった将棋すら、まともにできていないのです。僕は、死神さんが少しでも元気になるようにと、晩御飯に死神さんの好きなお肉料理を作り続けました。事情を知らない僕ができることなんて、それくらいですからね。

「今日は一段と遅いな」

 23時50分。そろそろ日付が変わろうとしています。死神さんが帰ってくるまで起きていようと思っていましたが、瞼の重さが限界です。

 部屋の電気をつけっぱなしにしたまま、ベッドに仰向けに倒れこむ僕。

「死神さん」

 そんな僕の呟きは、静まり返った室内に溶けてなくなりました。



♦♦♦



 ギシ、ギシ。

 妙な音。そして、真上にある妙な気配。僕の目を開かせたのは、得体の知れない恐怖心。

「え!?」

 一瞬、何が起こっているのか理解できませんでした。夢かとも思いましたが、どうやらそうではないらしいです。僕の頬に落ちる水が、しっかりとその感触を伝えてくれたのですから。

「しに……がみ……さん?」

 視線の先にいたのは、大粒の涙を流す死神さんの顔でした。

 死神さんは、仰向けで寝ている僕の上に覆いかぶさり、ジッと僕を見下ろしています。まるで、もう逃がさないと言っているかのよう。

 僕の頭の中は、大量のはてなマークで支配されていました。

「ごめんね」

 死神さんの目からポロポロと落ちる涙。それが、何度も何度も僕の頬を濡らします。

「えっと……何……言ってるんですか?」

「本当に、ごめんね」

「だから、さっきから何言って…………んむ!?」

 僕の言葉は、死神さんによってさえぎられてしまいました。

 狂おしいほどの甘い香り。ゼロ距離にある死神さんの顔。そして唇に触れる、柔らかい何か。

 は!?

 は!?

 は!?

 は!?

 は!?

「ぷは!」

 死神さんの顔が、ゆっくりと離れていきます。

「し、死神さん。い、今……え? ええ?」

「ニヒヒ。君とこんなことするのは初めてだね。やっぱり恥ずかしいや」

 頭の中が、先ほど以上にはてなマークでいっぱいになる僕。そんな僕に向かって、死神さんは目に涙を溜めたまま微笑みます。

「次はいつできるかな? って、こんなこと考えても仕方ないよね。だってもう、私はここにいられないんだから。もしかしたら、こうやって顔を合わせられるのも最後かもだし」

 ここにいられない? 最後? 死神さんが何を言っているのか、僕には全く分かりません。とにかく体を起こそう。そう考え、僕は自分の体に力を入れました。

「あ、あれ?」

 感じる違和感。頭の中では、体はもうとっくに動いているはずなのです。体を起こして、死神さんと座って向かい合っているはずなのです。ですが、先ほどから目の前の景色は全く変わっていません。いまだに死神さんは、僕の上に覆いかぶさってじっとこちらを見つめています。彼女の背後からは、つけっぱなしにしていた蛍光灯の光が漏れ出ていました。

「ごめんね。さっきキスした時、君の体をしばらくの間動けないようにしたの。死神の力の一つでね」

「なん……で……」

「だって、君に抱きしめられでもしたら、私、本当に耐えられなくなっちゃうから」

「だ、から……どう、いう……」

 先ほどから、よく分からないことばかり起こります。ですが、これだけははっきりと分かりました。今から起ころうとしている何かは、僕にとって、不幸以外の何ものでもないということ。

「君が次に目を覚ました時、私はもういないけど。これだけは、覚えておいてほしいんだ」

 そう言いながら、死神さんは、僕の額に手をかざします。すると、僕のまぶたが急激にその重さを増しました。例えるなら、まぶたの中に鉛が入っているかのよう。同時に、意識が徐々に朦朧としていきます。

「これからもずっと、私は、君のこと」






「大好き、だよ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...