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第四章 いなくなった死神さん
第40話 前を向きなさい
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「そんなことがあったのね」
先輩は、ゆっくりとそう口にしました。
これまで先輩に隠してきた死神さんの存在。僕と死神さんとの関係。そして、死神さんがいなくなった理由。それら全てを、僕は先輩に話しました。
苦しくて、切なくて、油断すれば吐き出しそうになるのを耐えながら。まあ、涙が流れるのだけは耐えることができませんでしたが。
「というか、いまだに信じられないわね。お姉さんが死神だったなんて。何で今まで隠してたのよ」
「それは……。気味悪がられて、昔みたいにいじめられるかもしれないって思ったら、つい」
「するわけないでしょ。馬鹿ね」
はあっと溜息をつく先輩。
先輩がそんな人でないということは、短い付き合いではありますがよく知っています。彼女が、僕や死神さんとの繋がりを大切にしてくれているのは傍目から見ても丸分かりでしたから。以前、僕のクラスメイトが、「最近よく来るあの先輩、すっげえ後輩の面倒見いいよな」と話していたくらいですし。
ですが、少しでもいじめに繋がるようなことは避けたかったのです。もうあんな暗闇を経験するのは御免。絶対に、御免です。
「先輩」
「なによ」
「僕は、どうすればいいんでしょうか?」
僕は、先輩に向かって問いかけます。もし僕が、アニメや漫画の主人公であったなら、特別な力か何かで死神世界に行き、死神さんに会うなんてこともできたでしょう。最低でも、自分が何をすべきか導き出していたはずです。でも現実問題、僕はただの一高校生。ただの非力な人間なのです。特別な力なんて持っていませんし、なすべきことをすぐに導き出せるほどの頭脳もありません。
「どうすればいい、か……」
僕の問いに、先輩は小さく呟きます。そして、そのまま押し黙ってしまいました。
僕たちの間に沈黙が流れます。壁に掛けてある時計が、カチカチと一定のリズムで時を刻んでいきます。その音は、いつも以上に大きく感じました。
「私から言えるのは一つよ」
沈黙が破られたのは、数分後のこと。
「前を向きなさい」
「……前を、向く?」
「ええ」
力強く頷く先輩。その目には、メラメラと燃える炎が映っているように見えました。
「えっと。具体的には?」
「簡単よ。朝はちゃんと起きる。ご飯はちゃんと食べる。学校にはちゃんと行く。夜はちゃんと寝る。要するに、これまでと同じようにちゃんと生活するってこと」
「それが、前を向く?」
「そうよ」
先輩の言っていることはよく分かりません。どうして「前を向く」=「ちゃんと生活する」になるのでしょうか。もしかして、ちゃんと生活することで辛いことを忘れろという意味だったり……。でも、それは……。
「ちなみに、お姉さんのことを忘れろって意味じゃないから」
「……違うんですか?」
「当り前じゃない。自分を変えてくれた大切な人のこと、忘れていいわけないでしょ」
どうやら、僕の考えていることは先輩に筒抜けだったようです。続けて彼女は語ります。
「人間はね、ちゃんと生活していないと、どんどん心が弱って後ろ向きになっちゃうの。そうなると、自分が次に何をすればいいのか分からなくなるし、チャンスがあったとしても見逃しちゃうのよ。でも、ちゃんと生活していれば、心を強く保てる。前を向いていられる。その状態なら、自分のするべきことがはっきりしてくるわ」
先輩の口から飛び出す言葉には、確かな重みがありました。まるで、先輩自身の体験談を語っているかのような。
「……僕にできますかね?」
「何言ってるのよ。『できますか』じゃなくて『やる』の」
「……するべきこと、見つけられますかね?」
「ちゃんと前を見ていれば大丈夫よ。私が保証する」
腕組みをしながら、ニヤリと笑う先輩。一体その自信はどこから来るのでしょうか。
まあ、でも。
「ありがとうございます」
僕は、先輩にペコリと頭を下げました。
僕の心の中にあった黒いもの。それがほんの少しだけ無くなったような気がします。道を示してもらうというのは、こんなにも嬉しいことだったんですね。
「どういたしまして。ま、困ったらいつでも私を頼りなさい。私にできることなら何でも協力するわ」
そう告げながら、先輩は、ドンッと自分の胸を叩きました。
「……今の先輩、すごくかっこいいです」
「ふっ、そうでしょう。これが先輩力ってやつよ。……っていうのは冗談。本当はね、昔、私が落ち込んでた時に、部長に言われた言葉をそのまま言ってるだけ。私の考えとかじゃないわ」
先輩は、笑みを浮かべながらペロリと舌を出しました。まるで、いたずらが成功した後の子どものようです。
「それでも、かっこいいと思います」
「な、なによ。今日はやけに素直に褒めてくれるじゃない。そんなに褒めても何も出ないわよ」
ほんのり赤くなる先輩の顔。それを見て、僕は思わず小さく笑ってしまうのでした。
先輩は、ゆっくりとそう口にしました。
これまで先輩に隠してきた死神さんの存在。僕と死神さんとの関係。そして、死神さんがいなくなった理由。それら全てを、僕は先輩に話しました。
苦しくて、切なくて、油断すれば吐き出しそうになるのを耐えながら。まあ、涙が流れるのだけは耐えることができませんでしたが。
「というか、いまだに信じられないわね。お姉さんが死神だったなんて。何で今まで隠してたのよ」
「それは……。気味悪がられて、昔みたいにいじめられるかもしれないって思ったら、つい」
「するわけないでしょ。馬鹿ね」
はあっと溜息をつく先輩。
先輩がそんな人でないということは、短い付き合いではありますがよく知っています。彼女が、僕や死神さんとの繋がりを大切にしてくれているのは傍目から見ても丸分かりでしたから。以前、僕のクラスメイトが、「最近よく来るあの先輩、すっげえ後輩の面倒見いいよな」と話していたくらいですし。
ですが、少しでもいじめに繋がるようなことは避けたかったのです。もうあんな暗闇を経験するのは御免。絶対に、御免です。
「先輩」
「なによ」
「僕は、どうすればいいんでしょうか?」
僕は、先輩に向かって問いかけます。もし僕が、アニメや漫画の主人公であったなら、特別な力か何かで死神世界に行き、死神さんに会うなんてこともできたでしょう。最低でも、自分が何をすべきか導き出していたはずです。でも現実問題、僕はただの一高校生。ただの非力な人間なのです。特別な力なんて持っていませんし、なすべきことをすぐに導き出せるほどの頭脳もありません。
「どうすればいい、か……」
僕の問いに、先輩は小さく呟きます。そして、そのまま押し黙ってしまいました。
僕たちの間に沈黙が流れます。壁に掛けてある時計が、カチカチと一定のリズムで時を刻んでいきます。その音は、いつも以上に大きく感じました。
「私から言えるのは一つよ」
沈黙が破られたのは、数分後のこと。
「前を向きなさい」
「……前を、向く?」
「ええ」
力強く頷く先輩。その目には、メラメラと燃える炎が映っているように見えました。
「えっと。具体的には?」
「簡単よ。朝はちゃんと起きる。ご飯はちゃんと食べる。学校にはちゃんと行く。夜はちゃんと寝る。要するに、これまでと同じようにちゃんと生活するってこと」
「それが、前を向く?」
「そうよ」
先輩の言っていることはよく分かりません。どうして「前を向く」=「ちゃんと生活する」になるのでしょうか。もしかして、ちゃんと生活することで辛いことを忘れろという意味だったり……。でも、それは……。
「ちなみに、お姉さんのことを忘れろって意味じゃないから」
「……違うんですか?」
「当り前じゃない。自分を変えてくれた大切な人のこと、忘れていいわけないでしょ」
どうやら、僕の考えていることは先輩に筒抜けだったようです。続けて彼女は語ります。
「人間はね、ちゃんと生活していないと、どんどん心が弱って後ろ向きになっちゃうの。そうなると、自分が次に何をすればいいのか分からなくなるし、チャンスがあったとしても見逃しちゃうのよ。でも、ちゃんと生活していれば、心を強く保てる。前を向いていられる。その状態なら、自分のするべきことがはっきりしてくるわ」
先輩の口から飛び出す言葉には、確かな重みがありました。まるで、先輩自身の体験談を語っているかのような。
「……僕にできますかね?」
「何言ってるのよ。『できますか』じゃなくて『やる』の」
「……するべきこと、見つけられますかね?」
「ちゃんと前を見ていれば大丈夫よ。私が保証する」
腕組みをしながら、ニヤリと笑う先輩。一体その自信はどこから来るのでしょうか。
まあ、でも。
「ありがとうございます」
僕は、先輩にペコリと頭を下げました。
僕の心の中にあった黒いもの。それがほんの少しだけ無くなったような気がします。道を示してもらうというのは、こんなにも嬉しいことだったんですね。
「どういたしまして。ま、困ったらいつでも私を頼りなさい。私にできることなら何でも協力するわ」
そう告げながら、先輩は、ドンッと自分の胸を叩きました。
「……今の先輩、すごくかっこいいです」
「ふっ、そうでしょう。これが先輩力ってやつよ。……っていうのは冗談。本当はね、昔、私が落ち込んでた時に、部長に言われた言葉をそのまま言ってるだけ。私の考えとかじゃないわ」
先輩は、笑みを浮かべながらペロリと舌を出しました。まるで、いたずらが成功した後の子どものようです。
「それでも、かっこいいと思います」
「な、なによ。今日はやけに素直に褒めてくれるじゃない。そんなに褒めても何も出ないわよ」
ほんのり赤くなる先輩の顔。それを見て、僕は思わず小さく笑ってしまうのでした。
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