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第四章 いなくなった死神さん
第47話 これが、僕の答えです
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「つ、つまり、君は何も知らずに、私と結婚しちゃった……と」
「そ、そうですね」
まさか、こんなことになるとは思いもしませんでした。僕と死神さんが結婚して夫婦になるなんて。
その時、気がつきます。死神さんが、これまで見たことのないほど暗い顔をしていることに。まるで「ズーン」という重い音が聞こえてくるかのよう。
「し、死神さん?」
「ごめん」
僕に向かってゆっくりと頭を下げる死神さん。
「え?」
「マ……お母さんから、君の書いた契約書を受け取った時、私、すごく嬉しかったんだ。君は、私と結婚してもいいと思ってくれてるんだって。でもあれは、君が何も知らずに書いたものだったんだよね」
低くて重い、死神さんの声。それが、部屋の空気を鈍く振動させます。
「もし、私と結婚するのが……これからも一緒にいるのが……迷惑だったら……」
死神さんは、肩をブルブルと震わせながら押し黙ってしまいます。僕からどんな言葉が返されるのか。それを恐れているように見えました。
…………ああ、もう、本当にこの人は。
立ち上がる僕。そのまま、テーブルの向かい側に座っていた死神さんの横へ。
「死神さん」
腰を下ろして、その名前を呼びます。それに応じるように、死神さんは、僕の方に顔を向けました。
交差する視線。僕を見つめる死神さんの赤い瞳。僕を魅了して離さない、宝石のような美しさ。そして、温かさ。
「…………」
死神さんは、何も言いません。無言で、僕を見つめ続けます。
さて、と。
「死神さん、先に謝っておきますね。急にこんなことしてすみません」
「え? 君、何言って…………んむ!?」
ゼロ距離にある死神さんの顔。
花のように甘い香り。
柔らかい唇の感触。
セカンドキスなんて言葉があるのなら、それを使うべきは、きっと今この瞬間。
全く感じない時間の流れ。止まっているのか、はたまた進んでいるのか。できれば前者であってほしいというのは、果たして僕のわがままなのでしょうか。
「ぷは!」
突然、そんな声とともに、死神さんの顔が離れていきます。ずっと息を止めていたのでしょう。彼女は、苦しそうにハアハアと肩で息をしていました。その顔は、今にも湯気が出そうなほど真っ赤になっています。
「き、君。きゅ、急に、何で? あ、いや。べ、別に嫌とかじゃなくて、むしろ……」
「死神さん」
「ひゃ、ひゃい!」
「これが、僕の答えです」
僕は、困惑する死神さんに向かって、はっきりとそう告げました。
死神さんと結婚するのが迷惑? 死神さんと一緒にいるのが迷惑? そんなこと、あるわけないじゃないですか。死神さんは、僕にとって、世界で一番大切な人なんですから。
僕の言葉に、大きく目を見開く死神さん。驚きの表情で僕を見つめながら、パクパクと口を動かしていました。
自分の心臓の音が耳に響きます。うるさくて、煩わしくて。それでも、どこか心地よくて。
どれくらい時間が経った頃でしょうか。死神さんが、不意にその目を閉じました。
そして。
「もう一回」
「へ?」
「もう一回、君の答え、聞かせて」
きっと死神さんは、僕の答えをちゃんと理解しているのでしょう。
それでも。
「はい」
頷き、死神さんを抱きしめます。それに応じるように、彼女の手が僕の背中に回されます。
「大好き」
「僕も、大好きです」
その温かさを全身に感じながら、僕たちは唇を重ねるのでした。何度も。何度も。
♦♦♦
「負け……ました……うう」
「ふふ。リベンジ成功ね」
そう言って、先輩は、横で対局を見ていた僕にピースサインを向けました。
放課後。将棋部の部室。再会の挨拶もそこそこに、死神さんと先輩は、以前約束をしていたリベンジ戦を始めたのでした。結果は見てのとおり、先輩の勝利。
「二枚落ちの練習、しておいてよかったわ」
ニッと笑みを浮かべる先輩。机に突っ伏して「うう……」と声を漏らす死神さん。対照的という言葉がこれほどまでに似合う場面というのもそうないでしょう。
その時不意に、死神さんがフラフラと立ち上がりました。そのまま、ゆっくりと僕に近づき……。
「し、死神さん!?」
ギュッと僕に抱き着いてきたのです。
「君。慰めて」
「え、えっと」
「早く」
「……はい」
なでなで。なでなで。
死神さんの頭を撫でる僕。彼女の綺麗な白銀色の髪が、僕の手の動きに合わせて優しく揺れます。
「ニヒヒヒヒ」
「もういいですか?」
「まだ。もっともっと」
「分かりました」
僕は、死神さんの頭を撫で続けます。
「砂糖吐きそうなんだけど」
先輩の不満げな声。チラリと先輩の方を見ると、先ほどの笑顔はどこへ行ったのやら。苦々しげな表情を浮かべています。
「私も、お姉さんくらい積極的になれば、部長ともっとイチャイチャできるのかしら? じゃあ、今度会った時に……」
「よーし、充電完了!」
部室に響き渡る声。どうやら、死神さんの元気が戻ったようです。
僕から離れ、先輩に向き直る死神さん。つられるように、先輩も死神さんに向き直ります。
「先輩ちゃん、もう一局だよ! 次は負けない!」
「ふっ、のぞむところよ」
二人の対局。リベンジ戦のリベンジ戦というわけの分からない対局が、今まさに始まろうとしています。
「君」
「はい」
「ちゃんと傍にいて、応援してね」
「分かってます」
死神さんの言葉に、僕は力強く頷きます。もう、死神さんの傍にいられなくなるなんてごめんですからね。
僕たちの将棋は、まだまだ終わらないのです。
「そ、そうですね」
まさか、こんなことになるとは思いもしませんでした。僕と死神さんが結婚して夫婦になるなんて。
その時、気がつきます。死神さんが、これまで見たことのないほど暗い顔をしていることに。まるで「ズーン」という重い音が聞こえてくるかのよう。
「し、死神さん?」
「ごめん」
僕に向かってゆっくりと頭を下げる死神さん。
「え?」
「マ……お母さんから、君の書いた契約書を受け取った時、私、すごく嬉しかったんだ。君は、私と結婚してもいいと思ってくれてるんだって。でもあれは、君が何も知らずに書いたものだったんだよね」
低くて重い、死神さんの声。それが、部屋の空気を鈍く振動させます。
「もし、私と結婚するのが……これからも一緒にいるのが……迷惑だったら……」
死神さんは、肩をブルブルと震わせながら押し黙ってしまいます。僕からどんな言葉が返されるのか。それを恐れているように見えました。
…………ああ、もう、本当にこの人は。
立ち上がる僕。そのまま、テーブルの向かい側に座っていた死神さんの横へ。
「死神さん」
腰を下ろして、その名前を呼びます。それに応じるように、死神さんは、僕の方に顔を向けました。
交差する視線。僕を見つめる死神さんの赤い瞳。僕を魅了して離さない、宝石のような美しさ。そして、温かさ。
「…………」
死神さんは、何も言いません。無言で、僕を見つめ続けます。
さて、と。
「死神さん、先に謝っておきますね。急にこんなことしてすみません」
「え? 君、何言って…………んむ!?」
ゼロ距離にある死神さんの顔。
花のように甘い香り。
柔らかい唇の感触。
セカンドキスなんて言葉があるのなら、それを使うべきは、きっと今この瞬間。
全く感じない時間の流れ。止まっているのか、はたまた進んでいるのか。できれば前者であってほしいというのは、果たして僕のわがままなのでしょうか。
「ぷは!」
突然、そんな声とともに、死神さんの顔が離れていきます。ずっと息を止めていたのでしょう。彼女は、苦しそうにハアハアと肩で息をしていました。その顔は、今にも湯気が出そうなほど真っ赤になっています。
「き、君。きゅ、急に、何で? あ、いや。べ、別に嫌とかじゃなくて、むしろ……」
「死神さん」
「ひゃ、ひゃい!」
「これが、僕の答えです」
僕は、困惑する死神さんに向かって、はっきりとそう告げました。
死神さんと結婚するのが迷惑? 死神さんと一緒にいるのが迷惑? そんなこと、あるわけないじゃないですか。死神さんは、僕にとって、世界で一番大切な人なんですから。
僕の言葉に、大きく目を見開く死神さん。驚きの表情で僕を見つめながら、パクパクと口を動かしていました。
自分の心臓の音が耳に響きます。うるさくて、煩わしくて。それでも、どこか心地よくて。
どれくらい時間が経った頃でしょうか。死神さんが、不意にその目を閉じました。
そして。
「もう一回」
「へ?」
「もう一回、君の答え、聞かせて」
きっと死神さんは、僕の答えをちゃんと理解しているのでしょう。
それでも。
「はい」
頷き、死神さんを抱きしめます。それに応じるように、彼女の手が僕の背中に回されます。
「大好き」
「僕も、大好きです」
その温かさを全身に感じながら、僕たちは唇を重ねるのでした。何度も。何度も。
♦♦♦
「負け……ました……うう」
「ふふ。リベンジ成功ね」
そう言って、先輩は、横で対局を見ていた僕にピースサインを向けました。
放課後。将棋部の部室。再会の挨拶もそこそこに、死神さんと先輩は、以前約束をしていたリベンジ戦を始めたのでした。結果は見てのとおり、先輩の勝利。
「二枚落ちの練習、しておいてよかったわ」
ニッと笑みを浮かべる先輩。机に突っ伏して「うう……」と声を漏らす死神さん。対照的という言葉がこれほどまでに似合う場面というのもそうないでしょう。
その時不意に、死神さんがフラフラと立ち上がりました。そのまま、ゆっくりと僕に近づき……。
「し、死神さん!?」
ギュッと僕に抱き着いてきたのです。
「君。慰めて」
「え、えっと」
「早く」
「……はい」
なでなで。なでなで。
死神さんの頭を撫でる僕。彼女の綺麗な白銀色の髪が、僕の手の動きに合わせて優しく揺れます。
「ニヒヒヒヒ」
「もういいですか?」
「まだ。もっともっと」
「分かりました」
僕は、死神さんの頭を撫で続けます。
「砂糖吐きそうなんだけど」
先輩の不満げな声。チラリと先輩の方を見ると、先ほどの笑顔はどこへ行ったのやら。苦々しげな表情を浮かべています。
「私も、お姉さんくらい積極的になれば、部長ともっとイチャイチャできるのかしら? じゃあ、今度会った時に……」
「よーし、充電完了!」
部室に響き渡る声。どうやら、死神さんの元気が戻ったようです。
僕から離れ、先輩に向き直る死神さん。つられるように、先輩も死神さんに向き直ります。
「先輩ちゃん、もう一局だよ! 次は負けない!」
「ふっ、のぞむところよ」
二人の対局。リベンジ戦のリベンジ戦というわけの分からない対局が、今まさに始まろうとしています。
「君」
「はい」
「ちゃんと傍にいて、応援してね」
「分かってます」
死神さんの言葉に、僕は力強く頷きます。もう、死神さんの傍にいられなくなるなんてごめんですからね。
僕たちの将棋は、まだまだ終わらないのです。
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