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最終章 〇〇〇さん
第49話 ゴゴゴゴゴ
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日曜日。六畳一間。アパートの一室。
「このお饅頭美味しいね」
パクパクとお饅頭を食べる死神さん。
「あらあら。気に入ってくれてよかったわ。お土産に持ってきたかいがあったわね」
ニコニコと死神さんを見つめるお母さん。
「…………」
正座のまま恐怖で体を震わせる僕。
そして。
「ゴホン」
わざとらしい咳ばらいをしながら、僕を睨む男性。
真っ黒なローブの上からでも分かる筋肉質の体。腕組みをしてこちらを睨むその姿は、頑固おやじと表現しても差し支えないでしょう。口の周りから顎にかけて生えている黒ひげが、より一層その迫力を際立たせています。
そう。その男性とは、死神さんのお父さん。
僕と死神さんは、死神さんのご両親とテーブルを挟んで向かい合っていました。普通なら、緊張してもおかしくないような場面。ですが、約二名、緊張感に欠けている人たちがいます。そのせいで、肝心の話題に踏み込むことができません。
気のせいでしょうか。お父さんの背後から、ゴゴゴゴゴという音が聞こえます。僕の恐怖はもう限界に達していました。
「えっと」
僕は、チラリとお母さんの方を見ました。この状況を何とかできるのは、もう彼女しかいません。
お母さんは、僕の視線に気が付くと、フッと優しい笑みを浮かべました。もしかして、助け舟を出してくれるのでしょうか。
「ねえ」
「どうしたの? マ……お母さん」
「どうやら、彼はお父さんと大事な話があるそうよ。だから」
僕の願い通り、お母さんは場を整えてくれるようです。問題は、この後、どうやって話を進めていくかですね。ここで変に失敗してしまうと、僕がお父さんに殺されてしまう可能性も……。まあ、死神さんとお母さんがいる手前、そんな物騒なことにはならないでしょうが。
「私たちは席を外しましょうね。彼とお父さんだけにしてあげましょう」
…………今、なんて?
「あ、そういえばそんなこと言ってたね。お饅頭がおいしくてつい忘れちゃってたよ」
「あらあら。この子ったら」
「む。なんか、子ども扱いされてる気がする」
「ふふ。どうかしらね。さて、行きましょうか」
その言葉を合図に、死神さんとお母さんは立ち上がりました。
「え。あ、あの。お母さん?」
「頑張ってね。応援してるわ」
僕に向かって放たれた彼女のウインクは、まるで死刑宣告のような禍々しさがありました。
♦♦♦
一体どうしてこうなったのでしょうか。
まさか、部屋の中に僕とお父さんだけが残されてしまうなんて思ってもみませんでした。ちなみに、死神さんとお母さんは、しばらく散歩をしてくるそうです。なんてこったい。
シンと静まり返った部屋。ブルブルと震える僕。僕を睨みつけるお父さん。逃げ場はもうありません。
こうなったら、当初の予定通り、土下座をするしかありません。せめて、殺されることだけは回避しないといけませんからね。恥ずかしい? 男らしくない? どうとでも言ってください。
僕は、ゆっくりと頭を……。
「君」
突然、ずっと無言だったお父さんが口を開きました。その野太い声に、土下座をしようとしていた僕の体がビクリと反応します。
「は、はい」
「そんなに怯えなくともよかろう」
「え?」
「私はただ、君に聞きたいことがあっただけだ。別に、君をどうこうしようなどとは思っていない」
お父さんの口調は、とても荒々しくて。でも、どこか優しさを含んでいるようで。
「……聞きたいこと、ですか?」
「そうだ」
ゆっくりと頷くお父さん。そして、噛みしめるように言葉を紡ぎ始めました。
「娘や妻から、君のことはよく聞いている。君が悪いやつではないということは分かっているつもりだ。だが、ただ悪いやつではないというだけで、娘との結婚を認められるほど、私も寛容ではないんだ。だから、君に聞きたい。君は、私の愛する娘を、ちゃんと守ることができるのか? その命を賭してでも」
「このお饅頭美味しいね」
パクパクとお饅頭を食べる死神さん。
「あらあら。気に入ってくれてよかったわ。お土産に持ってきたかいがあったわね」
ニコニコと死神さんを見つめるお母さん。
「…………」
正座のまま恐怖で体を震わせる僕。
そして。
「ゴホン」
わざとらしい咳ばらいをしながら、僕を睨む男性。
真っ黒なローブの上からでも分かる筋肉質の体。腕組みをしてこちらを睨むその姿は、頑固おやじと表現しても差し支えないでしょう。口の周りから顎にかけて生えている黒ひげが、より一層その迫力を際立たせています。
そう。その男性とは、死神さんのお父さん。
僕と死神さんは、死神さんのご両親とテーブルを挟んで向かい合っていました。普通なら、緊張してもおかしくないような場面。ですが、約二名、緊張感に欠けている人たちがいます。そのせいで、肝心の話題に踏み込むことができません。
気のせいでしょうか。お父さんの背後から、ゴゴゴゴゴという音が聞こえます。僕の恐怖はもう限界に達していました。
「えっと」
僕は、チラリとお母さんの方を見ました。この状況を何とかできるのは、もう彼女しかいません。
お母さんは、僕の視線に気が付くと、フッと優しい笑みを浮かべました。もしかして、助け舟を出してくれるのでしょうか。
「ねえ」
「どうしたの? マ……お母さん」
「どうやら、彼はお父さんと大事な話があるそうよ。だから」
僕の願い通り、お母さんは場を整えてくれるようです。問題は、この後、どうやって話を進めていくかですね。ここで変に失敗してしまうと、僕がお父さんに殺されてしまう可能性も……。まあ、死神さんとお母さんがいる手前、そんな物騒なことにはならないでしょうが。
「私たちは席を外しましょうね。彼とお父さんだけにしてあげましょう」
…………今、なんて?
「あ、そういえばそんなこと言ってたね。お饅頭がおいしくてつい忘れちゃってたよ」
「あらあら。この子ったら」
「む。なんか、子ども扱いされてる気がする」
「ふふ。どうかしらね。さて、行きましょうか」
その言葉を合図に、死神さんとお母さんは立ち上がりました。
「え。あ、あの。お母さん?」
「頑張ってね。応援してるわ」
僕に向かって放たれた彼女のウインクは、まるで死刑宣告のような禍々しさがありました。
♦♦♦
一体どうしてこうなったのでしょうか。
まさか、部屋の中に僕とお父さんだけが残されてしまうなんて思ってもみませんでした。ちなみに、死神さんとお母さんは、しばらく散歩をしてくるそうです。なんてこったい。
シンと静まり返った部屋。ブルブルと震える僕。僕を睨みつけるお父さん。逃げ場はもうありません。
こうなったら、当初の予定通り、土下座をするしかありません。せめて、殺されることだけは回避しないといけませんからね。恥ずかしい? 男らしくない? どうとでも言ってください。
僕は、ゆっくりと頭を……。
「君」
突然、ずっと無言だったお父さんが口を開きました。その野太い声に、土下座をしようとしていた僕の体がビクリと反応します。
「は、はい」
「そんなに怯えなくともよかろう」
「え?」
「私はただ、君に聞きたいことがあっただけだ。別に、君をどうこうしようなどとは思っていない」
お父さんの口調は、とても荒々しくて。でも、どこか優しさを含んでいるようで。
「……聞きたいこと、ですか?」
「そうだ」
ゆっくりと頷くお父さん。そして、噛みしめるように言葉を紡ぎ始めました。
「娘や妻から、君のことはよく聞いている。君が悪いやつではないということは分かっているつもりだ。だが、ただ悪いやつではないというだけで、娘との結婚を認められるほど、私も寛容ではないんだ。だから、君に聞きたい。君は、私の愛する娘を、ちゃんと守ることができるのか? その命を賭してでも」
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