奴隷達と異常な日々

青海 兎稀

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第一章 異世界の常識

第2話 異世界人にこの世界の常識はありません

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「あっ、ごめんね?別に忘れてたわけじゃないし、君のことも、私はもっと知りたいよ」

だから拗ねないで?と、男の子の頭を撫でながら、男の子のことを観察する。
この3人の中で一番身長が低く、私より少し高いくらいの身長かな?多分170センチもないと思う。

何より、外見がとてつもなく可愛いのだ。
これが男のか…と、頬をだらしなく緩めてしまうくらいに可愛い。
こんなに可愛いと、女の子なんじゃ?と思ってしまうが、身体つきを見れば、この子が男であることが理解できる。

「ほんと?じゃあ、次は僕の事を教えるね!名前はさっきも言った通り、ファリエス・ランケルだよ!種族は、吸血鬼だよ。ほら、キバもあるでしょ?それとね、こう見えて僕、力が強いんだー!魔法は使えないけど、純粋な戦闘能力なら僕が一番強いんだよ!」

両手を腰に当てて、得意げにドヤ顔を浮かべるファリエス。
そんな姿も可愛らしくて、思わずクスリと声が漏れ出る。

私から見たファリエスの容姿は、色鮮やかなオレンジ色の髪に、まるで女の子のように黒のカチューシャを付けていて、瞳はまるで宝石のようなエメラルドグリーンの色をしている。
服装もみんなと同じ執事服なのだが、ジャケットは羽織っておらず、ロングパーカーを着ている。
そして、もっとも私が目を止めてしまったのは――口元から見えるキバだ。
まるで民話に出てくる吸血鬼のようなキバが、キラリと光って見えた。
吸血鬼なような、というか…種族が吸血鬼なのだから、キバがあるのは当然なのだろうが。
そんなファリエスは、両耳にリングのピアスを付けているようで、髪の隙間からキラリと輝いているのが見えた。

「えへへっ!今回のお嬢様は優しいねー!」

「ええ、そうですね」

「んじゃ、次は飼い主サマだな?」

3人が妖しく微笑む姿に、どこか背筋が凍るような感覚に襲われた。
何だか、今後のことを考えて、嫌な予感しかしないが…一回深呼吸をしてから、3人に目線を流してから口を開く。

「えっと、アズサって言います。異世界から来た普通の人間です。それで、えーっと……」

名前はさっきも名乗ったから別に名乗ることもないんだろうけど、皆名乗ってくれたから念のためにもう一度教えておく。
だけど、他に何を言えばいいのか分からなくて言葉に詰まる。

「……それだけか?」

ヴァルナが私の様子に、呆れた表情を浮かべて見てくるのに、「うっ…」っと声が漏れる。
他に何を言えばいいんだろうか?
皆と同じような自己紹介をしただけなんだが…何がいけないんだろう…。

「…だって、他に何を言えばいいの?てか、皆は私が異世界の人ってとこに驚かないの?」

「…ああ、そのことですか。良く異世界から迷い込む人がいるからってのもありますが、私達を見た時、目を見開いて硬直していたものですから、私たちのようなモノを見たことが無いのかな、と思いまして」

違いますか?と、リヒートから最後に聞かれて何も言えなくなる。

「観察力すごいね……私なら絶対分かんないよ」

「そりゃあ、飼い主サマみたいなちんちくりんには無理だろうなぁ」

「ち、ちんちくりん!?いくら何でも酷くない!?」

「あー悪い悪い!そんな怒るなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」

ケラケらと笑いながら、宥めるようにグシャグシャと頭を撫でられる。
その行動がまるで子供をあやす様にしか見えなくて、ムスッと頬を膨らませた。
そしたら、口元に手を当てながら、頭を撫でていた指でプスリと頬をつつかれて、頬の空気が抜けた。

「お前子供みたいな表情するなー!見てて飽きないし、本当に可愛すぎて、抱きしめたくなる」

「え、それはちょっと……」

「本気で嫌がるなよ……流石の俺でも傷つくわ」

ヴァルナの言葉にそっと後ずさり、距離を取れば、意外に本気で落ち込んでしまった。
きっと女性に拒絶されたことがないんだろう。だから、初めて拒絶されて、本気で落ち込んでしまったように見える。

「ご、ごめんね!?そんな落ち込むと思ってなくて……」

「別にいいって。てか、奴隷相手にそんな気つかなくていいからな?飼い主サマなんだから」

「それやだ。飼い主って呼ばれるのも、主様とか、お嬢様とか!普通に名前で呼んで欲しい……距離置かれてるみたいで、やだ」

ヴァルナは面白がって飼い主サマと呼んでいるんだろうけど、どこか見えない壁があるような、距離を置かれているようにしか感じなくて、心がズキリと痛んだ。
他の二人も、どこか距離を置きたそうに感じる。

「奴隷に名前で呼んでほしいと言う人なんて…初めて見ましたよ。異世界人は皆、アズサ様のような考えの人が多いんですか?」

リヒートが私の反応にクスクスと含み笑いを浮かべ、異世界人は皆、私みたいなものなのか?と首を傾げて見てくる。

「うーん…どうだろ?私と同じ人にこの世界で会ったことないから…。でも、私は友達みたいな関係になれたら嬉しいなって思うの」

「ふーん…。ま、俺らはアズサ様の奴隷だし?どんな願いも叶えるのが仕事だ。お望みならば、友達にだってなれると思うぜ?」

「うんうん!僕はアズサ様の考え素敵だと思うよ!」

「様も出来ればやめて、普通にアズサって呼んで貰いたいんだけど、ダメかな…?」

3人はどうやら私の言葉に乗り気なようで、早速名前で呼んでもらえた。様付けだけど。
でも、様付けも切実にやめていただきたい…。
元はただの一般人だし、どこにでもいる日本人だったから…様付けには慣れないし、呼ばれた時心臓がドキドキして変に意識してしまう。

何より、こんな見た目麗しい3人に様付けで呼ばれたら、どこかの国のお姫様にでもなった気分になる。
いや、実際お姫様なんて可愛らしい身分では全くないが。


「うーん…奴隷が主を呼び捨てにするなんて人見たことないけど、それが望みなら、僕らは叶えるよ、ね?リヒート、ヴァルナ」

「ええ、それがアズサ様――アズサの望みならば」

「当然だろ?――アズサの望みをかなえるのが役目だからな」

三種三様の笑みを浮かべて、私のお願いを受け入れてくれた。
そんなリヒート達の笑みに、思わず私の胸がドクンと高鳴るのを感じる。
何せ私が今まで付き合ってきた男性と言えば、どこにでもいる男ばかりで…こんなお伽噺に出てくるような美形に出会えるとは思ってもいなかったのだ。

「…かっこ、いいなぁ」

「え、っと…アズサ?」

「ん?どうかした?」

「その…声に出てます」

リヒートが困ったように眉を寄せて、視線を彷徨わせながら声を掛けてきた。
だが、リヒートが何を言いたいのか分からず、キョトンとした表情を浮かべて首を傾げる。

「リヒートちゃんと言わねえと分かんねえって。アズサ、お前さっきカッコイイって声に出てたぞ」

「えっ」

ヴァルナの言葉に思わず思考がフリーズしてしまう。
心の中で囁いた言葉が、まさか口に出ていたなんて、誰が想像しただろうか。
顔に血が上っていくのが自分でもわかるように、顔に熱が集まっていく。
きっと今の私は耳まで真っ赤になっているだろう…。

「忘れて…クダサイ」

「えー?何で?僕は嬉しいけどなぁー!僕ってカッコイイってあんまり言われないから、思わずドキってしちゃったもん!」

えへへと頬を指で搔きながら嬉しそうに、声が弾んでいる様子から、きっと本当に嬉しいのだろう。

「ファリエスは可愛いね」

「…それは、あんまり嬉しくないかも」

ファリエスの可愛らしい反応に、またしても頭をポンポンと優しく撫でながら口を開けば、今度は微妙な顔をされてしまった。


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