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孤児院編
015 ドッキドキ! お宅訪問
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既にこの都市に来てからは、殆どの日を交渉事に費やしている気がする。
そんな今日も「娘さんを僕に下さい!」というくらいの覚悟で、レオノーラパパさんにご挨拶に伺う事になっていた。
本日の話し合いの舞台は、コールウィン公国の首都にあるオルフォース公爵家のお屋敷へお邪魔している。
田舎貴族だった8LDKの自慢の我が家だった屋敷が、正面から見ただけで10個は入るんじゃないかという大きなお屋敷で、玄関で見渡す限りの侍女たちに出迎えられた時は、覚悟なんてものは蝋燭の炎程度まで、弱々しくなっていた。
まあ、見渡す限りの侍女は大げさに言いすぎた。訂正しよう。
モーセが海を割ったように左右に分かれて、頭を下げられた時は本当に自分が庶民派だと思い知らされた。
ノー贅沢ライフ! プリーズ! スローライフ!!
そんな敵地の真っ只中に立たされて、どうして勇気が奮えようか! 私には無理だね! 小市民万歳!!
来る前に、小市民代表であるロックにも同行を求めていたのだが、公爵家のお屋敷と聞いてロックは逃げた。
マリーに告白する為のプレゼント買うという理由で逃げやがった。まあ、母と妹がその理由を認めた為、ロックは逃げた先で逃げれなくなったのだが、ちゃんと気付いているのだろうか? 公開処刑まで秒読みだ。クックック。
マリーも長時間、母から離れる事を拒んだ為、私は1人空しく、敵地のど真ん中にいる。
そこで抵抗する気力を既に失った私は、やたらと風格と威厳のあるどこかで教育担当でもしていそうな侍女に案内されて、ラスボスの目の前に立たされた。
「我が家までご足労頂き、申し訳ありませんでした。私は、先日クロムウェル様にご迷惑をお掛けしたアウイン=オルフォースの妻で、サフィーアと申します」
優雅に挨拶をするその姿に私の直感が、この屋敷内の食物連鎖の頂点に立つ人物が誰であるかを教えてくれる。
ただ、見た目は、若々しく、肌も透き通るように白い。その長い髪の輝きも相まって、表現するなら宝石のようだという印象だ。
その本物の宝石にも劣らない瞳を見なければ、この人物がオルフォース公爵家を実質支配している人物であるとは気付けなかっただろう。
「つい見惚れてしまい、ご挨拶が遅れました。私がクロムウェルでございます。突然の面会を快く歓迎頂き、ありがとうございます」
さすがは小市民。自然と相手を煽てて生き残ろうとする処世術には、自分の事ながら自画自賛したくなるというものだ。………もう、田舎に帰りたい。
「なかなかお上手なのですね。この容姿については、クロムウェル様のおかげです」
そう言って、スタイルが分かる衣装に身を包んだ公爵夫人が、完璧な淑女の礼を披露してくれる。
この人は、確か3人の子供を生んでいるはずなのだが、とてもそうは見えない。
私より10歳程度しか違いがないと、贔屓目なしに思える程で、これが気まぐれ草を使った美容薬の効果であるならば、冗談でなく戦争が起こってもおかしくない程の効果だ。
互いの挨拶が終わると、席に座るように勧められて、私は言われるがままに席へと座る。
その直後に侍女が、私の席の前にお茶を用意する。
なんとなくお茶会のような感じだが、私は作法を知らない。あぁ、そうさ! 所詮田舎者さ!! これまで必要なかったんだからしょうがないじゃないか! 田舎貴族時代に他の貴族との交流なんてなかったよ!!
「作法についてはお気になさらずに大丈夫ですよ。この度は我が家の不手際でお越し頂いておりますので」
そう言われるが、一応、知識として持っているだけの滅亡した国の作法でお茶を頂く。うん。最高級品だ。そうに違いない。
驚くほど口に含んだ際の香りに、つい顔が緩むのが分かる程だった。
「気に入って頂いてなによりです」
全く表情を隠すことが出来なかった自覚があっただけに少し恥ずかしく思ったが、お茶を飲んだおかげか、気持ちが落ち着いた。
「まずは、クロムウェル様の住まわれる場所、聖女の雫に関しては全て、クロムウェル様のご要望どおりにするように関係者に指示を既に出しました」
私がお茶を飲んで落ち着いたのを確認した公爵夫人が、本日の私の訪問目的である話し合いを開始して、2つあった私の目的の1つをあっさりと認めてくれる。
「クロムウェル様を不快にさせた企みをしたのは、オルフォース家の本意ではございません。全ては執事長の独断でした」
そして、残っていたもう1つの目的としていた事を、またあっさりと教えてくれた。
私はやっていない! 全ては秘書がやった事だ! 聞き方によってはそう聞こえなくもないが、執事長がレオノーラパパなので、やっていないとも断言出来ないのツライ。
犯人が誰かについては、一旦おいておくとしても、公爵夫人は、私の訪問目的を誤解なく理解している。
「いえ、今は元執事長と言うべきですね。今回の独断で、解任してマックスが再度、執事長をしておりますので」
私と接触が多かったマックスさんが顔を出さない理由も分かった。
忙しすぎて顔を出せないのだろう。なんというかご愁傷様だ。彼は落ち着いたら、私と同じようにのんびりとスローライフを楽しみたいというような事を言っていたのに。
それにしても、なぜ公爵夫人が私の相手などをしているのだろうか。
貴族の家の使用人などは基本的に夫人が管理をする事になる。執事長が昨日の時点で解任されていたとしても、公爵夫人であれば、そのせいで忙しいはずなのに………。
「クロムウェル様の事は、マックスより誠意を示して話をすれば、対話を無下になさらない方であるとお聞きしています」
私が疑問を感じた事で、また表情に出たのだろう。いい加減にこの癖をなんとかしないといけないのだが、腹芸ってどうやるんだ? いや、この場合は表情を偽るから顔芸の方か?
まあ、オルフォース公爵家側の誠意が公爵夫人の直々のおもてなしであるの事が分かった。それと、公爵は尻に敷かれている。と教えてくれた訳か。残念公爵だと思ってはいたが、期待を裏切らないでくれたと思っておこう。
「バッカスにも、何かあれば私へ相談するように手はずも整えてございます。今後はこのような事がないようにするとお約束致します」
バッカスさんの名前も挙がったという事は、今後の連絡員はバッカスさんという事なのだろう。巻き込んでごめんよ。バッカスさん。
それにしても、公爵夫人の話す姿と動作は一つ一つが絵になると言える美しさだ。この事を考えるとラピスラズリお嬢様も次期公妃なんて器じゃないのだろう。本物の教育を受けた人物というのは恐ろしいものだ。
「ですので、この度の不始末に関してのご説明をする機会を頂けませんでしょうか?」
胸に手を添えて、上目遣いで語るその仕草に一瞬魅了された。本当に恐ろしいものだ。くらっと反射的にYESと口にしてしまいそうになった。
転生してからこんなにもドキドキとしたのは初めてだ。だが人妻はマズイ。私は転生しても倫理は母のお腹の中においてきたりはしていない。NO浮気! NOハーレムだ!!
「あ、申し訳ありません。お願いよりもお詫びの方を先にするべきでした」
この公爵夫人の言葉にドキッと強く鼓動が高鳴るのが分かる。色々とヤバイ………。
「主人が対等であると認めた方に対して、我が家の者が不敬を働きました事、我が家を代表してお詫び致します。また、我が家で出来る事であれば何でも致します」
「な、なんでも!?」
青春真っ只中にいる男の子に対して、美人なお姉さんと言っても良い年齢にしか見えない相手に、その言葉を言われたら動揺しても仕方がないじゃないか!
「はい。この度、夫からの命を受けていたにも関わらず、クロムウェル様へ不敬を働きましたレオノーラもご希望があれば奴隷として差し出す用意がございます」
あっ。違った。このドキドキは、恋とかそんな甘いものじゃない。
肉食獣と同じ檻に入れられたような命の危機を知らせる本能の方だった。
やっぱり本物のお貴族様は怖ぇよ! このお屋敷から誰か助けて!!
そんな今日も「娘さんを僕に下さい!」というくらいの覚悟で、レオノーラパパさんにご挨拶に伺う事になっていた。
本日の話し合いの舞台は、コールウィン公国の首都にあるオルフォース公爵家のお屋敷へお邪魔している。
田舎貴族だった8LDKの自慢の我が家だった屋敷が、正面から見ただけで10個は入るんじゃないかという大きなお屋敷で、玄関で見渡す限りの侍女たちに出迎えられた時は、覚悟なんてものは蝋燭の炎程度まで、弱々しくなっていた。
まあ、見渡す限りの侍女は大げさに言いすぎた。訂正しよう。
モーセが海を割ったように左右に分かれて、頭を下げられた時は本当に自分が庶民派だと思い知らされた。
ノー贅沢ライフ! プリーズ! スローライフ!!
そんな敵地の真っ只中に立たされて、どうして勇気が奮えようか! 私には無理だね! 小市民万歳!!
来る前に、小市民代表であるロックにも同行を求めていたのだが、公爵家のお屋敷と聞いてロックは逃げた。
マリーに告白する為のプレゼント買うという理由で逃げやがった。まあ、母と妹がその理由を認めた為、ロックは逃げた先で逃げれなくなったのだが、ちゃんと気付いているのだろうか? 公開処刑まで秒読みだ。クックック。
マリーも長時間、母から離れる事を拒んだ為、私は1人空しく、敵地のど真ん中にいる。
そこで抵抗する気力を既に失った私は、やたらと風格と威厳のあるどこかで教育担当でもしていそうな侍女に案内されて、ラスボスの目の前に立たされた。
「我が家までご足労頂き、申し訳ありませんでした。私は、先日クロムウェル様にご迷惑をお掛けしたアウイン=オルフォースの妻で、サフィーアと申します」
優雅に挨拶をするその姿に私の直感が、この屋敷内の食物連鎖の頂点に立つ人物が誰であるかを教えてくれる。
ただ、見た目は、若々しく、肌も透き通るように白い。その長い髪の輝きも相まって、表現するなら宝石のようだという印象だ。
その本物の宝石にも劣らない瞳を見なければ、この人物がオルフォース公爵家を実質支配している人物であるとは気付けなかっただろう。
「つい見惚れてしまい、ご挨拶が遅れました。私がクロムウェルでございます。突然の面会を快く歓迎頂き、ありがとうございます」
さすがは小市民。自然と相手を煽てて生き残ろうとする処世術には、自分の事ながら自画自賛したくなるというものだ。………もう、田舎に帰りたい。
「なかなかお上手なのですね。この容姿については、クロムウェル様のおかげです」
そう言って、スタイルが分かる衣装に身を包んだ公爵夫人が、完璧な淑女の礼を披露してくれる。
この人は、確か3人の子供を生んでいるはずなのだが、とてもそうは見えない。
私より10歳程度しか違いがないと、贔屓目なしに思える程で、これが気まぐれ草を使った美容薬の効果であるならば、冗談でなく戦争が起こってもおかしくない程の効果だ。
互いの挨拶が終わると、席に座るように勧められて、私は言われるがままに席へと座る。
その直後に侍女が、私の席の前にお茶を用意する。
なんとなくお茶会のような感じだが、私は作法を知らない。あぁ、そうさ! 所詮田舎者さ!! これまで必要なかったんだからしょうがないじゃないか! 田舎貴族時代に他の貴族との交流なんてなかったよ!!
「作法についてはお気になさらずに大丈夫ですよ。この度は我が家の不手際でお越し頂いておりますので」
そう言われるが、一応、知識として持っているだけの滅亡した国の作法でお茶を頂く。うん。最高級品だ。そうに違いない。
驚くほど口に含んだ際の香りに、つい顔が緩むのが分かる程だった。
「気に入って頂いてなによりです」
全く表情を隠すことが出来なかった自覚があっただけに少し恥ずかしく思ったが、お茶を飲んだおかげか、気持ちが落ち着いた。
「まずは、クロムウェル様の住まわれる場所、聖女の雫に関しては全て、クロムウェル様のご要望どおりにするように関係者に指示を既に出しました」
私がお茶を飲んで落ち着いたのを確認した公爵夫人が、本日の私の訪問目的である話し合いを開始して、2つあった私の目的の1つをあっさりと認めてくれる。
「クロムウェル様を不快にさせた企みをしたのは、オルフォース家の本意ではございません。全ては執事長の独断でした」
そして、残っていたもう1つの目的としていた事を、またあっさりと教えてくれた。
私はやっていない! 全ては秘書がやった事だ! 聞き方によってはそう聞こえなくもないが、執事長がレオノーラパパなので、やっていないとも断言出来ないのツライ。
犯人が誰かについては、一旦おいておくとしても、公爵夫人は、私の訪問目的を誤解なく理解している。
「いえ、今は元執事長と言うべきですね。今回の独断で、解任してマックスが再度、執事長をしておりますので」
私と接触が多かったマックスさんが顔を出さない理由も分かった。
忙しすぎて顔を出せないのだろう。なんというかご愁傷様だ。彼は落ち着いたら、私と同じようにのんびりとスローライフを楽しみたいというような事を言っていたのに。
それにしても、なぜ公爵夫人が私の相手などをしているのだろうか。
貴族の家の使用人などは基本的に夫人が管理をする事になる。執事長が昨日の時点で解任されていたとしても、公爵夫人であれば、そのせいで忙しいはずなのに………。
「クロムウェル様の事は、マックスより誠意を示して話をすれば、対話を無下になさらない方であるとお聞きしています」
私が疑問を感じた事で、また表情に出たのだろう。いい加減にこの癖をなんとかしないといけないのだが、腹芸ってどうやるんだ? いや、この場合は表情を偽るから顔芸の方か?
まあ、オルフォース公爵家側の誠意が公爵夫人の直々のおもてなしであるの事が分かった。それと、公爵は尻に敷かれている。と教えてくれた訳か。残念公爵だと思ってはいたが、期待を裏切らないでくれたと思っておこう。
「バッカスにも、何かあれば私へ相談するように手はずも整えてございます。今後はこのような事がないようにするとお約束致します」
バッカスさんの名前も挙がったという事は、今後の連絡員はバッカスさんという事なのだろう。巻き込んでごめんよ。バッカスさん。
それにしても、公爵夫人の話す姿と動作は一つ一つが絵になると言える美しさだ。この事を考えるとラピスラズリお嬢様も次期公妃なんて器じゃないのだろう。本物の教育を受けた人物というのは恐ろしいものだ。
「ですので、この度の不始末に関してのご説明をする機会を頂けませんでしょうか?」
胸に手を添えて、上目遣いで語るその仕草に一瞬魅了された。本当に恐ろしいものだ。くらっと反射的にYESと口にしてしまいそうになった。
転生してからこんなにもドキドキとしたのは初めてだ。だが人妻はマズイ。私は転生しても倫理は母のお腹の中においてきたりはしていない。NO浮気! NOハーレムだ!!
「あ、申し訳ありません。お願いよりもお詫びの方を先にするべきでした」
この公爵夫人の言葉にドキッと強く鼓動が高鳴るのが分かる。色々とヤバイ………。
「主人が対等であると認めた方に対して、我が家の者が不敬を働きました事、我が家を代表してお詫び致します。また、我が家で出来る事であれば何でも致します」
「な、なんでも!?」
青春真っ只中にいる男の子に対して、美人なお姉さんと言っても良い年齢にしか見えない相手に、その言葉を言われたら動揺しても仕方がないじゃないか!
「はい。この度、夫からの命を受けていたにも関わらず、クロムウェル様へ不敬を働きましたレオノーラもご希望があれば奴隷として差し出す用意がございます」
あっ。違った。このドキドキは、恋とかそんな甘いものじゃない。
肉食獣と同じ檻に入れられたような命の危機を知らせる本能の方だった。
やっぱり本物のお貴族様は怖ぇよ! このお屋敷から誰か助けて!!
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