リング上のエンターテイナー

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25話

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Fグループの第3試合を終えるとちょうどお昼ご飯の時間になった。
私は咲来の試合があったのでそれを観てから来る途中にコンビニで買ったおにぎりを2人で食べた。

咲来は2試合目は負けてしまった。相手はプロレス初心者ながら柔道の経験者だった。
打撃に強い咲来だがまだ寝技への対応は練習不足で、テイクダウンされた後はあっという間に関節技を決められてしまった。

私も寝技をそこまで得意とはしていないので咲来の練習が疎かになってしまった。自分の得意分野だけ教えていては限界があると感じさせられる。

ご飯を食べながら話しているとあっという間に時間が過ぎて私の2試合目が近づいていた。咲来に断りを入れて先に食べ終え、軽くアップを済ませてから会場に戻った。

今回のセコンドは石井百合で、また順番を待つ間に他愛もない話をしていた。

「石井さんは好きな技って何なんですか?」
「私はね、実はラリアットなんだー」
「えー、そうなんですか。カッコいいですもんね」
「そうなのー!男子のプロレスもよく観るんだけど、やっぱり力強くていいのよね!」

そういえば私との試合でも何度も使ってた。さっきの高山美優との試合でもまともに出せた技だ。

「でも私そんなに力強くないから、向いてないんだけどね」

石井百合はネガティブなことをよく言うけど、これには言葉が出ない。
好きな技と自分の身体能力に合った技は一致しないこともある。確かに彼女は決して身体が大きいわけではなく、どちらかと言うと細身だからラリアットはあまり威力が出ないだろう。本人の言う通り、向いてる技ではない。
でもこの技が好きって気持ちには抗えない。

「それでも、好きだから自分でも使いたいのよ。プロの試合で見たあの技を、自分でもやってみたいって思って」
「わかります。ああいうカッコいい技やってみたいって気持ち」

私に向いてる技って何なんだろう。ジャーマンスープレックスがお気に入りだし、これでいくつもの試合に勝ってきた。でも自分の身体能力を活かせる技が他にあったりするんだろうか。好きな技で戦い好きな技で勝ちたい。その気持ちは私にもよくわかる。

向き不向き、得意不得意、そして好き嫌い。

ジャーマンスープレックスが自分にとって不向きだとは思わない。好きな技がたまたま向いていて得意になったのかもしれない。でも選んだのは、好き嫌いで選んだのだと思う。そもそもプロレスが自分に向いてるのかどうかさえ本当はわからない。

自分が思うようにプロレスをやるために聖華をやめた。好き嫌い以外の選び方は私にはわからない。
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