リング上のエンターテイナー

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32話

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交流試合が終わった次の練習で、私は咲来と一緒に職員室に行って、桜から聞いた話を先生に尋ねた。

「先生って翔瑛女子大だったんですか?」
「そうよ」

どうして知っているの?と、それがどうかしたの?が混ざった表情を浮かべながら、大したことじゃないように答えた。
それから私のことと桜から聞いた先輩の話をした。私が聖華女子学園の中等部に通っていたこと、そこに中西美月先輩がいたこと、中西先輩が翔瑛女子大に通っていて先生と知り合いなのではないかってことを。

「前田さん、美月の後輩なの!?」

先生は心底驚いているようだった。それもそうだ。私の出身中学は地元の公立校になっているから、美月先輩と繋がるものは見当たらなくて当然だ。

「はい。私が中学1年生の時に先輩は高校2年生でした。学年は離れてましたけど、とても面倒を見ていただいて」
「そうだったのね。美月はね、私のバイト先の後輩なの。私が4年生の時に入ってきて、あれこれ教えてあげたりしたわ」

先生が美月先輩の先輩なら、もしかしたら先生もプロレスをやっていたのではないか。でもやっぱりその期待は外れていた。バイトの先輩後輩だったのだ。

そこからが相談事だった。
指導者が欲しい。

先輩の話は咲来にもしていた。いつも練習の度に教えてくれる人欲しいよねって話もよくしていたので、美月先輩にお願いできたらいいなって。

「美月にうちの部の指導を?うーん。そうねー。朝日丘ってあまり部活に力入れてないじゃない?部活の指導は顧問と部員でっていうのが基本みたいなのよね。だから指導料みたいなのは学校からは出ないだろうから、美月が承諾してくれても負担になってしまうかもしれないわね」

そうか。ボランティアをお願いするようなものなんだ。それを聞くとお願いするのが申し訳なくなる。先輩がコーチだったら心強いと思ったんだけど。
望みが散ってしまい気持ちが沈みかけた私たちの顔を見かねたのか、

「でも、翔瑛ってこの近くだから、一回会って話くらいしてみてもいいかもしれないわね。可愛い後輩に面と向かってお願いされたら案外引き受けてくれるかもしれないし」

ニヤっと笑ってそんなことを言う。
先生は美月が大学にいるタイミングで会えないか聞いてみてくれるらしい。せっかくだから練習しているところを見せてもらおうなどと勝手なことを言っている。

「前田さんも大塚さんも一生懸命頑張っているんだもの。そういう人を見ると周りは手を貸したくなるものよ」

こうして先生は3日後に美月先輩と会う約束をしてくれた。学校で午前の練習をした後、翔瑛女子大に行くことが決まった。
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