リング上のエンターテイナー

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34話☆ 翔瑛女子大女子プロレス部

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翔瑛女子大のプロレス部の練習場はキャンパスの端の方にあった。先輩は食堂と練習場の間を自転車で移動している。学内を自転車で移動するのもまた新鮮だ。

案内された場所には私たちが使っている格技室よりも小さい建物があった。エアコンも付いているのか、この季節でもほとんど窓が閉まっている。

「失礼します!うわ、咲来、リングがあるよ!」
「ほんとだ。すごいね」

プレハブっぽい仮設感のある建物だけど中に入るとリングが設定してあった。

「ボクシング部と共用でね。ロープはプロレス向けに変えてもらったから、そんなに違和感なく使えるよ」

先輩は簡単に説明すると、中にいた女性と話し始めた。たぶん電話していた人だ。

翔瑛女子大2年大島莉子。高校時代には北関東大会にまで進んだらしい。かなりの実力者だ。卒業後も大学プロレスでさらに練習を積んでいて、きっと高校の大会ではなかなか戦えないレベルの相手だ。身長は私より低くて細身。相性は悪くないはず。

同じく2年竹内葵。この人も高校時代に関西大会に進出している。関西大会は私たちで言う南関東大会だからそのエリアでトップクラスの選手だ。

人生初タッグ。タッグのコツとか全然知らないんだけど。でも結局は1対1だしいいか。
この人たちに勝ったらコーチ引き受けてくれる、とか?いやいや。なんだか期待しちゃうな。よくわからないけど試合なら全力でやるだけだ。

最初は私が出る。相手は大島莉子がリングに上がった。

「この子たちタッグ初めてだからそこだけわかってあげて。陽菜、咲来ちゃん、あんまり考えすぎないでテキトーに入れ替わりながら戦ったらいいから。疲れるちょい前に代わるくらいで。じゃあ、始めるよー!ファイッ!」

美月先輩がゴングを鳴らして試合開始。
まずは手四つで組み合う。

え、なんで?押されてる!?ロープに振る押し出しも強い。ロープに体がバウンドする感覚。このリングが常設なのは羨ましい。いや、そんなこと考えてる場合じゃない。ロープの強い反発で体が押し出されて加速する。大島莉子がもう目の前に!ドロップキックだ。打点高い。そして体にずしっとくる。ロープに振った勢いがキックの攻撃力になってるんだ。まるで自分からドロップキックに突き刺さりに行ったみたいだ。

体勢立て直すのも早い。くっ、今度はボディスラム。これは大丈夫。受け身でダメージは最小限。でも後ろを取られた。え、腕絡めてくる、何この技。あ!フェイスロック!でも左腕動かせない!これ何、どうやって抜けるの!?

「チキンウィングフェイスロックよ。高校生はあんまり使わない?」

プロの試合で観たことある技だ。片腕を固めながらフェスロックを決める技。逃げられる前にこの形を素早く作るにはテクニックが要りそうだ。
かけられるのは初めてで、逃げ方がわからない。とにかくロープブレイク。背後から絡みつく大島莉子を引っ張って何とかロープにたどり着いた。と思ったら息をつく間もなく次は打撃の応酬。体重を乗せたエルボーが胸元に入る。重い。大島莉子の体格からは想像も付かない重さだ。息が詰まりそう。それにじわじわ削られるこのローキック。咲来に捌き方を教わっていなかったらもっとやばかった。とは言ってもこの蹴りはかなり厄介だ。たぶん間合いを詰めるとニーリフトを狙われる。完全に相手のペースだ。

「陽菜、交代アリなんだよー」
「あ、そうか。咲来!」

プロの試合では見ない変なタイミングだけど構わずタッチする。タッグマッチでは自分の方のコーナー付近にいる味方にタッチすると交代になる。普通は一発何か技を決めて相手が倒れている間に交代するんだけど、ローキックからの前蹴りで大島莉子との距離を取り、そのスキにタッチ。

打撃戦なら咲来の方が得意だ。じりじりと間合いを詰めてローキックで探りを入れる。時々ミドルやハイのモーションに入るけど、大島莉子が敏感に察知して間合いをあける。直後に距離を詰めて組み合って、ボディスラムで咲来を叩きつける。すると同じようにチキンウイングフェイスロックを決めた。

「咲来!ロープ!」

だめだ。咲来も初めての技で上手く対処できていない。振りほどこうともがいているけど、これはロープに逃げた方が確実だ。

強い。
私と咲来、全く違うファイトスタイルなのに大島莉子はしっかり対応し、その上で自分の得意に持ち込んでいる。
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