鈍感宰相は寡黙な魔王様に付き従う

みけみけみっみ!

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「聖女様、突然どうしたのです?落ち着いてください。」

 王太子はそう言ったあと、より一層怪訝そうな顔をする聖女に慌てふためく。

 私だって内心驚きましたからね。
 魔族国の影からの報告では、[異世界人は魔族と敵対すると言っていた]と聞いたのですが。
 聖女を説得するため、あれだけの種族を引き連れたというのに……。

 勇者と聖女、それぞれ意見は違うということなのでしょうか?

 
「私は至って平静ですよ。それで?どうして嘘の情報をマサキに?」
 

 聖女は腕を組みながら疑わしげに王太子を見る。
 
 王太子はそんな彼女を見てさらに焦りだす。
 
 
「聖女様?まさか私のことを疑っておいでに?確かに洗脳はされてませんでしたが、魔族の人間の扱い方は洗脳されてなどなくても同じではないのでしょうか。」

 そこで、聖女の隣にいた勇者が自身の顎に指で触れながら考え込む動きをする。
  
「美人さんだもんなぁー、俺だって――い"て"ぇ"!」

 すかさず聖女が勇者の頭を引っ叩く。
 
「あんたは話をややこしくするから静かにしなさい。」

 聖女は私に目線を向け、その後王太子に戻した。

「王太子様はどうしても、魔族は人間を迫害していると言いたいみたいですけれど……宰相閣下を見るにそんな待遇をされてらしているとは思えませんが。それに、王太子様の一方的な意見だけでは、正直とても信用できませんわ。」

 そんな王太子は、また嘘を隠すために嘘を重ねていく。
 
「……あぁ。貴方様は騙されているのですよ、あの魔族に。相手は世界征服を企む魔族なのですよ。その証拠に、魔王が他国の種族を従えて我が国に来たではないですか。」

 そして王太子は、私たちと共に来た他国の来賓の方たちに失礼にも指を差す。
 
 
 この馬鹿に何言ってもダメですよ聖女様。
 昔からすぐにあー言えばこー言うのだから。
 
 
「何故そう結論付けて争いを起こらせようとするのです?」

 それでも聖女様は疑ってかかる。

「何を!私たちだって無駄に争いなどしたくはありませんよ。私が言いたいのは、宰相閣下のように他国に連れ去られた仲間を取り返したいのですよ。本当は他国も自由にしてあげたいのですが、我が国だけでは到底太刀打ちできぬのです。それに――」

 王太子は悲しげに、時折誇らしげにズラズラと語りだす。


(……なんか色々な大義名分を唱えてますが、まぁ、ここからは想定通りの展開ですね。)
 
 
 何故、アンデリック国はこんなにムキになって魔族国に茶々を入れるようなことばかりするのか……。
 
 事の発端は、アンデリック国から他国に移民する人間が増加したためでした。
 しかも、若者が多く移民するのです。
 そりゃ、人間至上主義なんて時代遅れの考えは今どき古いですからね。
 国は出来るだけ移民しないよう徹底的に監視したのですが、いたちごっこで無駄に終わりました。
 
 それにより、平民から徴収できていた金が減少したのです。

 そして、散々贅沢していて財政に回す十分な金など蓄えていなかった王が考えた案は……
 
 実質ほぼ世界を支配している魔族国レンダリルにたかることでした。
 
 しかも、なんと魔族国もその要求を受け入れたのです。
 番第一の種族のため、人間の番を持つ者は特に理解を示したのです。
 お人好しにも程があります。
 
 そして、アンデリック国は様々な理由をつけて謝罪金をせびり続け、また贅沢三昧する繰り返し。

 私も学生の頃、王妃教育を受けているときに知りました。
 それはそれは驚きました。
 自国がそんな恥ずかしいことをしていたという事実に。

 私が王妃になったら、まずはそこから手直ししようと密かに思っておりましたよ。

「――ですから、この拉致問題をめぐって我が国は魔族国との交渉を重ねてきたのです。若者が多く拉致された今、我々の国は働き手が減ってしまいました。これでは国が潰れてしまいます。しかし、これだけ交渉をしても、未だに魔族国は拉致被害者を返すことはできぬと申すのです。」

 
 働き手が減っているところだけ真実ですね。

 聖女はあれだけの長話を聞いてあげている。
 
 勇者は聖女の言いつけ通り大人しくしている。
 何故か私のことをずっと見つめているが。
 
 
 聖女は首を傾げながら王太子に質問をする。

 
「拉致されたと王太子様は言いますが、その当の本人の意見も聞き入れましたか?他国に移民しただけであって、拉致などされてないのでは?ひとつ矛盾点が。宰相閣下は拉致された身ではないのですよね?」
 
「はい。先程も言いましたが、私は王太子様ないしアンデリック国に捨てられました。……それと聞いたところによると、アンデリック国は税金が高い割には治安が悪化しており、貴族は贅沢な生活をしていらっしゃるとか?ですので、若い人はそんな自国より他国のほうが希望が見えたのではないでしょうか?」

「あー、そういうことですか。」

 
 聖女は先程からの作った声ではなく、納得がいったためか素の声をだす。

 
「そ、そんなことを言った者は誰ですか!愛国心というものはないのですか!でたらめです!聖女様、耳をかしてはいけませんぞ!」

 王太子は図星なのか感情的に怒る。
 
 少し突いてみましょうか。

 
「一応移民した人を調査し、一人一人の意見を聞きましたよ。ですが、皆口を揃えて帰りたくない、私はもうここに住むと言うもんですからね。無理に、どこぞの国のように追い出す訳にもいかないですし。なので、我が国の対応としては[帰すことができない]となったわけです。」

 
 私は聖女から王太子に目線をうつす。

 
「我々に落ち度はないですが、働き手が減ってしまったアンデリック国のため、毎月多額の金を支払うことにしています。私だってあんなことをしてきた母国には戻りたくないです。私こそ賠償請求を求めたいところです。」

「真実かどうかは、実際に会って話をお聞きしないことには分からないではないですか!書面ではいくらでも捏造できますからね。」

 
 何故か堂々と語っていますね、お馬鹿さんは。

 
「では、赴けばいいではないですか。別に来るなと言ってはいないのですから。」

 
 ほら、こう言ったら次、あなたはどう言い訳しますか?

 
「んぐっ……!そ、それに、亡くなった者に対しては聞き取り調査などできませんよね。その中にだって拉致被害者だっていたはずです。不幸にも我らがこれだけ頑張っても、他国で一生を終えた者たちは我が国に帰ることができなかったのですよ。あぁ……なんてことだ。その者の家族はさぞお辛いだろうに。」

「だから、その家族にも謝罪金を出せと?」

「ああ!それと、我が国にもお願いしたいですよ!その民のために墓を作ってやらないと行けないからね!せめて我が国で安らかに眠れるようにしなければならないですからね!」

 
 ありゃりゃ、貰えるお金の話になると喜んでまぁ。
 分かりやすいですね。

 
「うわー、どこの世界でもこんな国あるんだ。」


 王太子よ、聖女がドン引きしていますよ。


「ですが!我もこのまま平行では埒が開かないと思い至ったのです。そう!我々には神に愛されし神子様であられる、とっておきのお方々が!」

 
 王太子は背筋を伸ばし、改めて勇者と聖女を紹介する。

 
「私は不参加でお願いします。」

「な?!聖女様!先程の私の話を聞いていましたか?」

「その話を聞いたからですわ。無理に争う必要はないわ。マサキだって同じ意見よね?」

「え?俺は別に。」

「なんでよ!」

 聖女は勇者の胸ぐらを掴んで揺する。
 そんな勇者の意見を聞き、すかさず王太子は喜びだす。
 
「勇者様!貴方はやはり良き理解者――」
 
「お前は黙ってろ。」

「っひぃ!」

 
 聖女が王太子に鋭い目線をむけ睨みつける。
 王太子は怖がって5mぐらい聖女から離れ距離をとる。

 
「難しい話は分からん、正直。だから、俺のしたいようにする!だって異世界転生だからな!」

「……転移よ。」

「そっか!そうだった!」

 
 聖女は頭を抱える。
 勇者様が猪突猛進なタイプだと、手綱を握る聖女様は大変そうですね。

 勇者は魔王の前に仁王立ちし、飾りの剣を魔王に向ける。

 
「ということで魔王よ!俺と一騎討ちの決闘を申し込む!」


 そのセリフを聞いた王太子は、急いで何やら王に合図を送る。

 その合図を待っていた王は立ち上がり、注目されるべく持っていた玉杖をカツン!と床にぶつけて音を鳴らす。
 

「どうか皆様、私の話をお聞きくだされ!」

王バハムスは全員に聞こえるように大声を出す。

「我々人間は昔から魔族に迫害されてきた歴史があった。今でもなお、拉致被害が多く報告されておる。我々を家畜同然だと思っておるのだろう。そこでだ!この問題を解決するべく我が国は異世界召喚の儀式を行ったのだ。儀式のことは皆も耳にしたことだろう。それにより、何人もの魔術師が亡くなってしまった。だが、我々は!我がアンデリック国は諦めん!魔族になぞ屈したりしない!」

 バハムス王は王杖を魔王に向ける。
 
「魔王アルファスよ!だが、私は慈悲深い。だから、勇者様と魔王のみの一騎討ちでこの問題を解決しようではないか。勝負に負けた者は勝った者の条件を無条件で飲む。これでどうだ?」

 
 静かにこの舞台を見守っていた魔王様は、自身の胸に手を添えて返答する。

「勇者との決闘の件、了承する。」

魔王から返事を得た王は、これまで以上に大声を張り上げる。
 
「では、今から我が国の闘技場にて行うことを宣言する!早いに越したことはないからな!魔王よ、異論はないな?」
 

「あぁ……、異論はない。」
 

 今から?!
 
 ……はぁ、やはりこうなりましたか。
 まだ、全面戦争よりかはましですが……
 これはこれで、魔王様が心配ですね……


一応、これで話がこれでまとまったと思った矢先、


「ちょっと待ってくれ!」


突然、近衛騎士団であるセオドアが横槍を入れてきた。
 
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