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しおりを挟む聖女は、獣人たちが座っているエリアをチラッと一度見てから視線をこちらに戻す。
彼女は風で崩れた前髪を片手で直しながら、ニコっと微笑み見つめてきた。
「では、本日から魔族国所属の聖女だとご挨拶しに行きますね。うふふ。」
そして、彼女は見事なカテーシをして去っていった。
その後ろ姿はスキップでもしそうな軽やかさがあった。
そのままターゲットである獣人がいるエリアに向かっていった。
「よかったですね魔王様。心強い味方ができましたね。」
私は隣に座っている魔王様に話しかける。
「異世界から召喚をされた彼女達には悪いですが、来て下さり感謝しかないですね。これで長い争いに幕を閉じれます。」
彼女らがこの世界に来れたのは奇跡に近い。
異世界から人を召喚するなんて、敵国同士お互いの国が疲弊するだけで禁忌であり、そもそも数千年もの間叶うことが出来なかった。
神が許さない限りできぬのだ。
だが、今回は召喚ができた。
神が許したということだ。
では、なぜ神はお許しになったのだろうか。
今度、聖女様に聞いてみよう。
私が頭の中で考え事をしている間、魔王様はいつの間にか従者に水が入った陶器のピッチャーとコップを受け取っていた。
従者たちは手練れで気配を消すのが上手い者が多く、人間の私には察知出来ない。
いつの間にか来ていたのだろう。
魔王様は受け取ったそれらに手を翳し、魔法をかける。
念には念を入れて、毒がないか確認しているのだろう。
そして、コップに水を注ぎ一口飲む。
安全であるのを確認したのか、私にそのままコップを差し出した。
「飲め。」
私はありがたく頂き、そのまま水を飲むことにした。
「ありがとうございます。」
一口水を飲むと、身体に水が染み渡っていくのを感じ取れた。
思いの外喉が渇いていたのだろう。
「ふふ。」
私は咄嗟に笑ってしまった。
そりゃそうだろう。
自国の未来がかかっていたのだから。
私はコップに入っていた水をすべて飲み干し、目の前のテーブルに置く。
すかさず、魔王様が追加の水を注いだ。
「ありがとうございますね。」
「もういいのか?」
魔王様はまだピッチャーを手にしながら次のを待っていた。
「ひとまず大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
私は魔王様に感謝を伝えるため微笑みかける。
魔王様はそんな私を見てからピッチャーを置いた。
そして試合観賞モードに意識を切り替えた。
私も視線をそちらに向ける。
勇者が色々な魔法を繰り出しているが、未だにセオドアが優勢であった。
無数の光る剣を上空に出現させ、一気にセオドアに畳み掛けるも避けられて終わる。
当たらなければ、魔族が唯一弱い光属性であっても効かぬのだ。
まぁ、そもそも勇者は魔法コントロールが苦手なのか命中率が低いのだが。
勇者は叫ぶ。
「くそ!当たらねぇ!」
そんな勇者の言葉に、セオドアは余裕に攻撃を避けながら彼に微笑む。
「だが、始めよりは幾分かコントロールできているぞ。」
「そうか。一応上達してんのか、これで。」
そう言いながら、勇者はまた新しい魔法を作り出そうとするが、作った魔法が途中で消えてなくなった。
それを見た途端、セオドアは勇者のことが心配でソワソワしだす。
「マサキ殿、そろそろ魔力量に限界が来たのではないか?先程から動きも鈍くなっている。」
「うん、そうみたいだ。俺、めちゃくちゃ眠い。」
立ちながらフラフラとしている勇者に、セオドアはさっきまでの試合では見せなかった素早さで彼の元に駆け寄って背中を支える。
「魔力枯渇はしてないようだな。大丈夫か?もうこれを終わりにするか?」
「あぁ、そうしてくれ。俺の負けだ負け。あぁーねみぃー。もうここで寝ちゃう。」
そう言いながら、勇者はセオドアに抱きついた。
眠いから彼に運んでもらう気なのだろう。
そんな勇者を振り払わずに、セオドアは彼を大事そうに姫様抱きをする。
そしてセオドアは観衆に聞こえるように大声を張り出した。
「皆様、お聞きになりましたでしょうか。これにて、この試合は私の勝利となりました。勇者殿はこれから念の為我々の救護室に責任を持って私がご案内します。勝利時の願いは、我が魔王様に委ねたいと思います。では。」
役目を終えたセオドアは、勇者を抱き抱えながら出口に向かって退出した。
バハムス王は視線を上空に向けて呆けており、王妃は青白く血の気がなさそうで寒そうであるのに汗がひどいのか自身が持つ扇をパタパタと仰いでいた。
第一王子は静かに私達を睨みつけていた。
そちらがふっかけてきたというのに、そんな顔されたって……。
私ははぁっとため息をついて、次のやるべきことをすることにする。
私は音を増幅させる魔法を手の平に作り出し、それに向けて声を放つ。
誰かさんと違って、あんな大声は出せないのですよ。
「素晴らしい試合を観させて頂きありがとうございました。バハムス王よ、この闘技場の隣には確か素晴らしい庭園がありましたよね。ご準備お願いしてもよろしいでしょうか?」
バハムス王はこれから起こるであろうことに怯えながら、静かに頷いた。
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