鈍感宰相は寡黙な魔王様に付き従う

みけみけみっみ!

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 鳥の鳴き声が外から聴こえる。
 屋敷の近くに生えている木に着地したのだろう。
 木々が衝撃でバサバサと音しているのが聴こえる。
 目を閉じていても、周りが明るいのが感じられる。

 もう昼か……
 いつの間にか寝ていたのだろう。
 それに、長く寝ていたみたいに身体中の節々が痛い。

 私は目を覚まし見知った天井を見つめる。
 
 ここは私の私室のようだ。
 
 しばらく見つめていくうちに、今までの出来事を思い出す。
 急いでベットから起き上がり、上着をめくって腹部を確認する。

 
「傷が……ないですね……」

 
 あれだけ深く刺されたというのに、奇跡的に生きていたみたいだ。
 
 その時、さっきまでそこで寝ていたベッドの上にたくさんの花が添えられていたことに気付く。

 
「何故……」

 
 私は上着を羽織り、とりあえず部屋から出て廊下に出てみる。
 しかし、誰もいない。

 突然それが寂しく感じ、私は無性に魔王様に会いたくなってしまった。

 
 魔王様には心配をかけてしまいましたし……

 
 目が覚めたことを伝えるため、彼に急ぎ会いに行こうと彼がよくいる書斎室に向かう。

 扉の前で私は軽く身だしなみを整えてから扉をコンコンと叩く。

 
「私です。ディオンでございます。」
 

 返事が来ないのはいつものことなので、そのまま扉を開ける。
 だが、お目当ての魔王様はそこにはいなかった。

 私は隣の休憩室にも入ってみたが、そこにも彼はいなかった。


 どこかお出かけになっているのだろうか?
 だが、部下は愚か使用人すら今まですれ違っていない……
 何かがおかしい……

 私は嫌な予感がして、城中を小走りで人を探して、探して、探しまくった。
 魔王様の寝室
 魔王様のドレスルーム
 魔王様がよくお昼寝に使っていた場所――


「はぁっ、はぁ、誰か、誰かいないですか――」

 
 探しても人が見当たらない。
 どうして……

 私は廊下にある窓に手をついて、思考を回転させるべく深呼吸する。

 すると、城には似つかない平民のような人の団体が城の中を自由に出入りしているのが目に入った。

 
 はぁ?
 何故彼らがこの城に出入り自由になっているのだ?
 魔王様がそうして良いと申したのだろうか?

 とりあえず、彼らがいる場所まで行って彼らに事情を聞くのが良さそうだ。

 私は病み上がりの体に鞭打つように、出来るだけ急いで走って目的の場所まで行く。

 
「はぁ……っ、はぁっ、はぁ。」

 
 ……ようやく人に会えた。
 ホッとする。
 
 私は嬉しくて初対面の人たちに微笑みかける。
 私は人に会えたことに喜び過ぎて、周りが騒ついているなんて気付いていなかった。

 
「うわぁ……、美人さんだ……。俺、こんなに美しい人初めて……。」

「笑顔も素敵……。」

「ママー、あの人綺麗だねー。」


 私は1番近くにいる、何かの制服を着ている女性に声をかける。
 
「私は宰相ディオンと申します。すみませんが、魔王様をお見かけしましたか?」

 すると女性は驚き首をかしげた。

「ふぇっ!?宰しょ……?魔王様?えっ?すみません。お名前をもう一度お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 
 あぁ、彼女は役職持ちに驚いているのでしょうね。

 
「ディオンです。」

「ディっ、ディオン?!ほ、本物?!嘘!」
 

 私の名前を認識したら、何故か彼女は目を大きく開いて驚き出した。
 そんなに驚くことなのだろうか。
 

「ちょっと!ちょっと待って下さいませ!」
 

 そして、彼女は制服の胸ポケットから通信魔導具を取り出して、それに魔力を流し込み作動させる。
 
 あのような魔導具はとてつもなく高い筈なのだが、何故彼女が持っているのか……。
 何処かの国の諜報員なのか?

 
「もしもし?!す、すみません。あの、館長いませんか?急ぎでお願いします。…………館長!あの、こちらM2にですね、ディオン宰相閣下と名乗る方がおられるのですが。……ええ、そうです。白髪の緑色の瞳のお方です。……はい。一度、一般侵入禁止区域にあるあの部屋をご確認をお願いします。……はい。分かりました。」
 

館長とやらと話を終えた彼女は、私を別室に案内した。

 
「すみません。ご確認したいのですが、ディオン様は先程までどちらにいましたでしょうか?」

 
 おかしなことを聞きますね……

 
「えっと、私の私室……なのですが……。」

 
 そう私は答えたというのに、彼女はまた更に瞬きが増え視線があちらこちらに泳ぎ、動揺しているのが見てとれた。

 
「あの、驚かないで下さいね。宰相閣下がいう魔王様……、つまりアルファス様はご存命していたのは、今から数百年前の出来事でして……。えっとですね……たしか、アルファス魔王が人族を保護国にしたその日に、閣下が人族の王子に傷害を負わせた事件がありまして。その時大層お怒りになったアルファス魔王は宰相ディオン以外の者を皆消滅させたとか。どう足掻いても生き返らぬ宰相ディオンに、悲しみにくれた魔王アルファス自傷的になり、最期には宰相に自分の生命を無理矢理注ぎ消滅した……とされています。」

 ――情報が追いつかない

「荒地に1人残された宰相ディオンは後日、他の魔族が自国に連れて帰りこのお城にある彼の私室に置いていきました。ですが、彼の容態は無事に魔王の生命が馴染み、魔族として生き返ることはできたが植物状態となっていました。彼はそのまま目が覚めぬまま今もなお長い眠りについている……とのことでしたが……、あ!ちょ、ちょっと!」

 
 私は彼女が私を止める声が聞こえたが、無視して部屋から飛び出す。

 このまま話を聞くのが耐えきれなかった。
 人前で失態を犯しそうで。
 
 
 私は無我夢中でさっきまでいた書斎室の部屋まで辿り着き、部屋に引き篭もる。
 念の為内鍵をかけて、扉にそのままズルズルともたれかかるようにズリ落ちた。
 

「はあ……はあ……」

 
 数百年前の出来事……?
 皆消滅……?
 セオドアも?
 聖女や勇者だっていた
 他国の仲間たちも……

 それに……魔王様も……

 私はこれから何を目標に生きていけばいいのか

 自信がない

 私だけ置いてかれた

 置いていくなんて狡いではないか魔王様
 
 私もそちらに行きたい

 だが……できない

 魔王様の生命のお陰で今まで生きていけたみたいだ

 しかも魔族として
 


 私はそっと自身の頭の角に触れる。


 
 さっき聞いた情報が頭の中で反芻するように渦巻く。


 これから長い時間を過ごさねばならないだろう

 彼がいないこの世界で……
 
 こういう時は泣けたらいいのだろう

 だが、泣く以前に情報をまだ処理しきれていない

 頭が動かなくなったように

 
 

 私は自身を抱きしめながらその場で床に寝転び眠ることにした。

 もう彼に会えないなんて嘘だ

 あの時代に戻りたい

 彼に会いたい

 せめて夢の中でも彼に会いたい
 
 
 
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