ゆるっとRAID CORE【ゆるこあ】

コヨタ

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1話完結・単発シリーズ

レイラと機関のクリスマス

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 今日はクリスマス。
 龍調査機関の廊下は、いつもより少しだけ静か。

 年末特有の慌ただしさが一段落し、当直以外の職員は既に帰路についている時間帯。
 白い壁と床に反射する照明は変わらないのに、どこか空気がやわらかい。

 その中でレイラはいつも通り、施設内を歩いていた。

 特別な予定は無い。
 クリスマスだという意識も、正直なところ希薄だった。

 ──そのはずだった。

「あ、いたいたぁ。レイラちゃん」

「?」

 不意に、女性の柔らかな声が背後からかかる。
 振り返ると、そこにはラルトの姿。

 長い金髪と白衣をふわりと翻し、手には小さな箱のようなもの。

「……ラルトさん?」

 レイラが眉をひそめると、ラルトは少しだけ照れたように微笑んだ。

「お疲れさま。……今日はね、これを渡したくて」

 そして差し出されたのは、丁寧にリボンの結ばれたプレゼントボックス。
 赤でも金でもない、落ち着いた深緑色の包装紙。

「えっ……! 私に?」

「そう。クリスマスだからね」

「……!」

 あまりに自然に言われて、レイラは一瞬、反応を忘れる。

 強請った覚えは無い。
 何かが欲しいと誰かに言ったことも、期待したことも無い。

 それなのに、自分のために──。

「……ありがとう……!」

 少しだけ、言葉が遅れて出てきた。
 ラルトはその反応だけでも満足そうに頷く。

「中身は後でゆっくり見てね。寒いから、体に合うといいなって」

「……うん……!」

 それ以上は何も言わず、ラルトはその場を離れていった。

「…………」

 手元にある優しいプレゼントボックス。
 ──最初は、これだけだと思った。


 ◇


「おや、レイラ」

「!」

 解析室の前で、そうレイラを呼び止めるのはシエリ。

 いつもと変わらない理知的な表情とふわふわの黒いドレスワンピース。
 だが、今日はその手に小さな紙袋。

 その見た目は、所謂“プレゼントを貰った幼子”でしかなかったが──。

「シエリ先生……?」

「キミに渡すものがある」

 即答。
 迷いも前置きも無い。

「今日が何の日か、わかっているかな?」

「……え、クリスマス……」

「正解」

 その回答に軽く目を細めて、シエリは紙袋を差し出す。

「えっ、シエリ先生、これ……!」

「研究とは無関係だよ。私の個人的判断で用意した」

 袋の中身は、質の良い手袋。
 指先までしっかりとした作りで、しかし動かしやすそうだ。

「冷えは集中力を削ぐ。キミは特に末端が冷えやすい」

 まるで観察結果の報告のような口調。

「……ありがとう……っ……!」

「礼は不要だよ。だが、使ってくれるなら私は嬉しい」

 それだけを言って、ワンピースを揺らしながらシエリは静かに背を向けた。

 ふたつ目の、プレゼント。

「……!」

 流石に、レイラも理解し始めていた。

 ──今日は、そういう日なのかもしれない。


 ◇


「レイラ」

 今度は、聞き慣れた低い声。
 振り返る前からわかる。

「リル……?」

 廊下の壁にもたれかかるようにして立つリルは、いつも通りの少し気怠げな表情。

 だが、その手には──。

「これ」

 無造作に持たれた箱。

 短く言って、押し付けるように差し出される。

「え、……なに……?」

「……やる。今日、そういう日だろ」

「……!」

 言い方はぶっきらぼうだが、箱はきちんと包まれている。
 リルが結んだわけではなさそうなリボンが、逆に目を引いた。

「オレが……選んだ。気に入らなかったら……まあ、その時はその時で」

 目を逸らしながら言葉にするリルに、レイラは小さく微笑む。

「ありがとう……!」

「…………」

 その素直な一言に、リルは一瞬だけ驚いた顔をしてから、フッと鼻で笑った。

「……どういたしまして」

 これで、3つ目。
 もう驚かない──と思っていた。


 ◇


「よお、レイラ」

 休憩スペース付近で最後に現れたのは、セセラ。
 白衣のポケットに手を突っ込み、いつもの軽い調子。

「あ……薊野さん……まさか」

「なんだよ『まさか』って……。まあ、そのまさかだろうが」

 そしてポケットから取り出されたのは、上品な黒い包装紙に包まれた細長い箱。

「事前に欲しいもん聞くのも野暮だろ。だから俺の独断」

「……!」

「開けてみ」

 促されて、レイラは包みを丁寧に開けてみる。

「……あ」

 中には、シンプルなペンダントが入っていた。
 シルバーの本体に小さな蒼い石がひとつ、主張しすぎない光を放っている。

「あんまり派手すぎんのはお前似合わねえだろうからな」

「…………」

 一瞬、言葉を失うレイラ。

「重い意味はねえよ。守りみたいなもんだ」

 セセラはそう言いながら、軽く肩をすくめた。

「お兄さんからのプレゼントってことで。受け取りな」

「……!」

 4つ目の、プレゼント。
 気づけば、レイラの手にはいくつもの温度が残っていた。

「……ありがと、薊野さん……!」

「『クリスマスプレゼント無かったぁ~』ってガキにゴネられる方が、俺はめんどくせえからな」

「ふふふ……!」

 誰に強請ったわけでもない。
 誰に期待していたわけでもない。

 それなのに、レイラが受け取った沢山の『想い』。

「……なんだろ……」

 そう小さく呟いた声は、誰にも届かない。

(嬉しい……!)

 だが、その胸の奥には──優しく残るものがあった。

 機関の白い廊下に、静かなクリスマスが降り積もっていく。

 それは決して煌びやかではなかったが、確かに温かい夜だった。




 おしまい








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