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1話完結・単発シリーズ
レイラたちと初詣
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正月の朝は、空気が澄んでいた。
冬の冷たさはあるが、痛いほどではない。
吐く息が白く、それすらどこかめでたい感じがする──そんな特別感に包まれた朝。
「うわ~……すごい人」
目の前の光景に、思わず声が漏れるレイラ。
その目の前──神社へ続く参道は、既に初詣に参列する人で大いに賑わっていた。
屋台の呼び声、鈴の音、子どもたちの笑い声や大人たちの話し声。
龍調査機関とは正反対の、ざわめき。
「……人、多いな」
レイラの隣で、リルは周囲を見回しながら呟いた。
「正月だからな。仕方ない」
そう落ち着いた声で答えたのはレイラとリルの後ろを歩くアシュラ。
人混みでも姿勢は崩さず、自然と隣を歩くラショウの歩幅に合わせている。
西城兄妹は、今日は黒を基調とした和装に身を包んでいた。
ただでさえめでたい日に、透明感のあるふたりのめでたい装いに、めでたさが止まらない。
「ラショウ、寒くない?」
「大丈夫。でも……ちょっと手が冷たいかも」
「じゃあ、これ使いな」
そう言って、アシュラは自分の手袋を外して差し出した。
「えっ、それだと兄様が……」
「いいから」
「…………」
短いやり取りに、レイラは少しだけ目を細める。
「……仲、いいね」
「今更何言ってんだよ」
即座にツッコむリル。
その少し後ろを、シエリとセセラが並んで歩いていた。
シエリは周囲を見渡しながら「こうして外に出るのも悪くないな」と関心していたが、その背丈の小ささゆえ、人混みの中で見失ってしまいそうだった。
「先生、あんまキョロキョロしてるとはぐれんぞ」
「フフ……レイラたちもキミも目立つから心配は無用。施設とは正反対だな、こんなに人が多くて、キラキラしている」
「キラキラ? 人、多すぎだろ。まあ……騒がしいのは嫌いじゃねえけどさ」
「意外だね」
「非常時以外の“騒がしい”は別枠だ」
理屈はよくわからないが、シエリは納得している様子だった。
◇
やがて、一行は手水舎の前に立つ。
「まずは清めてから。見てて」
セセラはそう言ってレイラに手本を見せた。レイラも柄杓を手に取り、見よう見まねで手を清めてみる。
「ひゃッ」
冷たい水に、思わず小さく息を吸った。
「冷たっ」
「正月だからな」
「なにそれ?」
続いてリルたちも手水を済ませ、拝殿の前では自然と全員が並んだ。
お賽銭を入れ鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝。
「…………」
レイラは目を閉じる。
──願い事。
少し考えて、結局、具体的な言葉にはしなかった。
今が続けばいい、そんな曖昧な願い。
参拝を終えると、空気が少し変わった気がした。
◇
「よし」
ぱちんと手を叩くセセラ。先程の参拝とは質の違う叩き方。
「ここからは自由行動だ。屋台見てくる」
「最初からそれ目当てだろ」
リルはすかさず言うが、セセラについて行った。レイラも慌ててその後ろに続く。
参道沿いには、ずらりと屋台が並んでいる。
焼きそば、たこ焼き、甘酒、チョコバナナ、りんご飴──などなど。
「いい匂い~……」
目を輝かせるラショウに、アシュラは軽く問う。
「どれにする?」
「うーん、甘酒かな」
「渋いな……じゃあ、俺買ってくるよ」
迷い無く動くアシュラ。
レイラはその様子を眺めていると、ふと横から「レイラは?」と言うセセラの声が聞こえてきた。
「え……?」
急に振られて、レイラは一瞬考える。
「じゃあ……たこ焼き」
「了解。お前は?」
レイラの隣にいたリルにも聞くが、「オレは別に」と短い返答。
「『別に』は一番困るんだけど」
「……焼きそば」
「最初から言えや」
その声音は不貞腐れているような響きだったが、セセラはフッと笑いながら屋台へ向かっていく。
「……いいね、平和だ」
少し離れた場所で、シエリは串付きのみたらし団子を手にしていた。
突然の団子の登場に、驚くレイラ。
「シエリ先生、いつの間に……!」
「先にチェックしていたのだ。レイラ……キミはこういうのは初めてかな?」
「うん。初詣って……行ったことなかったかも」
「そうか」
そしてシエリは団子をひとくち食べると──。
「味は……まあ、予想通りだな」
冷静な感想。
「美味しくない?」
「美味しいが、分析対象には向かない」
「それ……褒めてる?」
「最大限に」
◇
やがて、全員がそれぞれ食べ物を手に集まった。
「熱っ」
思わず声を上げるレイラ。たこ焼きを口にして、ハフハフと熱がっている。
リルはそれを見てやや呆れ顔。
「ちゃんと冷ましてから食え」
「あふッ、わ、わかってる……」
その光景を見ながらラショウは甘酒を両手で包み、ほっと息をついていた。
「ふふふ……あったまるね」
「正月っぽいな」
微笑むアシュラ。
そして各々が食べ終わった頃、ラショウはとある看板を見つけた。
「あ、おみくじだって!」
「引くか?」
「うん!」
自然な流れで、全員がおみくじを手に取る。
「…………」
レイラは紙を開き、じっと読んだ。
リルも気になるようで、そっと覗き込む。
「どうだった?」
「……小吉、だって」
「微妙だな」
「見て、『何事も焦らずに』って書いてある」
「さっきのお前じゃねえか」
ニヤリと笑いながらリルは自分の紙にも目を向ける。
──しかし。
「……大凶」
「え」
「嘘でしょ」
「マジ」
紙をひらひらさせるリルに、ラショウが心配そうに声をかける。
「リルくん、大丈夫……?」
「見ろこれ、『怪我に注意。無理は禁物』だってよ。無理だろあんな施設にいてそれは」
自虐のようなリルの言葉に皆どう反応してよいものか迷っているようだったが、アシュラだけがゲラゲラと笑っていた。
「……じゃ、次。俺」
続いてセセラ。
紙を見て、すぐに「ふーん……」と鼻で笑う。
「吉。無難。面白くねー」
そしてその隣で「私は……おお、大吉だ」と声を漏らすシエリ。
「さすが先生」
「統計的に見れば妥当だろう」
「…………うーん……?」
おみくじに対し数字を出され、やや疑問を抱きつつも誰も反論しなかった。
一行はおみくじを結び、再び歩き出す。
「…………」
人混みの中、レイラは少しだけ後ろを振り返った。
──賑やかな神社、屋台の灯り、皆の声。
「……楽しいね」
ぽつりと零れた言葉。
「だな。人多すぎだけど」
「そうだね、今年はレイラちゃんも一緒でよかった!」
「また皆で来ような」
「来年もな。俺は来年こそおもしれーおみくじ引く」
「私は来年も大吉を狙うぞ」
自然と、皆のそんな言葉が返ってくる。
新年の初詣。
特別な奇跡は起きない。
だけど、なんだか良い1年が始まりそうな1日だった。
「皆、今年もよろしくね……!」
おしまい
冬の冷たさはあるが、痛いほどではない。
吐く息が白く、それすらどこかめでたい感じがする──そんな特別感に包まれた朝。
「うわ~……すごい人」
目の前の光景に、思わず声が漏れるレイラ。
その目の前──神社へ続く参道は、既に初詣に参列する人で大いに賑わっていた。
屋台の呼び声、鈴の音、子どもたちの笑い声や大人たちの話し声。
龍調査機関とは正反対の、ざわめき。
「……人、多いな」
レイラの隣で、リルは周囲を見回しながら呟いた。
「正月だからな。仕方ない」
そう落ち着いた声で答えたのはレイラとリルの後ろを歩くアシュラ。
人混みでも姿勢は崩さず、自然と隣を歩くラショウの歩幅に合わせている。
西城兄妹は、今日は黒を基調とした和装に身を包んでいた。
ただでさえめでたい日に、透明感のあるふたりのめでたい装いに、めでたさが止まらない。
「ラショウ、寒くない?」
「大丈夫。でも……ちょっと手が冷たいかも」
「じゃあ、これ使いな」
そう言って、アシュラは自分の手袋を外して差し出した。
「えっ、それだと兄様が……」
「いいから」
「…………」
短いやり取りに、レイラは少しだけ目を細める。
「……仲、いいね」
「今更何言ってんだよ」
即座にツッコむリル。
その少し後ろを、シエリとセセラが並んで歩いていた。
シエリは周囲を見渡しながら「こうして外に出るのも悪くないな」と関心していたが、その背丈の小ささゆえ、人混みの中で見失ってしまいそうだった。
「先生、あんまキョロキョロしてるとはぐれんぞ」
「フフ……レイラたちもキミも目立つから心配は無用。施設とは正反対だな、こんなに人が多くて、キラキラしている」
「キラキラ? 人、多すぎだろ。まあ……騒がしいのは嫌いじゃねえけどさ」
「意外だね」
「非常時以外の“騒がしい”は別枠だ」
理屈はよくわからないが、シエリは納得している様子だった。
◇
やがて、一行は手水舎の前に立つ。
「まずは清めてから。見てて」
セセラはそう言ってレイラに手本を見せた。レイラも柄杓を手に取り、見よう見まねで手を清めてみる。
「ひゃッ」
冷たい水に、思わず小さく息を吸った。
「冷たっ」
「正月だからな」
「なにそれ?」
続いてリルたちも手水を済ませ、拝殿の前では自然と全員が並んだ。
お賽銭を入れ鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝。
「…………」
レイラは目を閉じる。
──願い事。
少し考えて、結局、具体的な言葉にはしなかった。
今が続けばいい、そんな曖昧な願い。
参拝を終えると、空気が少し変わった気がした。
◇
「よし」
ぱちんと手を叩くセセラ。先程の参拝とは質の違う叩き方。
「ここからは自由行動だ。屋台見てくる」
「最初からそれ目当てだろ」
リルはすかさず言うが、セセラについて行った。レイラも慌ててその後ろに続く。
参道沿いには、ずらりと屋台が並んでいる。
焼きそば、たこ焼き、甘酒、チョコバナナ、りんご飴──などなど。
「いい匂い~……」
目を輝かせるラショウに、アシュラは軽く問う。
「どれにする?」
「うーん、甘酒かな」
「渋いな……じゃあ、俺買ってくるよ」
迷い無く動くアシュラ。
レイラはその様子を眺めていると、ふと横から「レイラは?」と言うセセラの声が聞こえてきた。
「え……?」
急に振られて、レイラは一瞬考える。
「じゃあ……たこ焼き」
「了解。お前は?」
レイラの隣にいたリルにも聞くが、「オレは別に」と短い返答。
「『別に』は一番困るんだけど」
「……焼きそば」
「最初から言えや」
その声音は不貞腐れているような響きだったが、セセラはフッと笑いながら屋台へ向かっていく。
「……いいね、平和だ」
少し離れた場所で、シエリは串付きのみたらし団子を手にしていた。
突然の団子の登場に、驚くレイラ。
「シエリ先生、いつの間に……!」
「先にチェックしていたのだ。レイラ……キミはこういうのは初めてかな?」
「うん。初詣って……行ったことなかったかも」
「そうか」
そしてシエリは団子をひとくち食べると──。
「味は……まあ、予想通りだな」
冷静な感想。
「美味しくない?」
「美味しいが、分析対象には向かない」
「それ……褒めてる?」
「最大限に」
◇
やがて、全員がそれぞれ食べ物を手に集まった。
「熱っ」
思わず声を上げるレイラ。たこ焼きを口にして、ハフハフと熱がっている。
リルはそれを見てやや呆れ顔。
「ちゃんと冷ましてから食え」
「あふッ、わ、わかってる……」
その光景を見ながらラショウは甘酒を両手で包み、ほっと息をついていた。
「ふふふ……あったまるね」
「正月っぽいな」
微笑むアシュラ。
そして各々が食べ終わった頃、ラショウはとある看板を見つけた。
「あ、おみくじだって!」
「引くか?」
「うん!」
自然な流れで、全員がおみくじを手に取る。
「…………」
レイラは紙を開き、じっと読んだ。
リルも気になるようで、そっと覗き込む。
「どうだった?」
「……小吉、だって」
「微妙だな」
「見て、『何事も焦らずに』って書いてある」
「さっきのお前じゃねえか」
ニヤリと笑いながらリルは自分の紙にも目を向ける。
──しかし。
「……大凶」
「え」
「嘘でしょ」
「マジ」
紙をひらひらさせるリルに、ラショウが心配そうに声をかける。
「リルくん、大丈夫……?」
「見ろこれ、『怪我に注意。無理は禁物』だってよ。無理だろあんな施設にいてそれは」
自虐のようなリルの言葉に皆どう反応してよいものか迷っているようだったが、アシュラだけがゲラゲラと笑っていた。
「……じゃ、次。俺」
続いてセセラ。
紙を見て、すぐに「ふーん……」と鼻で笑う。
「吉。無難。面白くねー」
そしてその隣で「私は……おお、大吉だ」と声を漏らすシエリ。
「さすが先生」
「統計的に見れば妥当だろう」
「…………うーん……?」
おみくじに対し数字を出され、やや疑問を抱きつつも誰も反論しなかった。
一行はおみくじを結び、再び歩き出す。
「…………」
人混みの中、レイラは少しだけ後ろを振り返った。
──賑やかな神社、屋台の灯り、皆の声。
「……楽しいね」
ぽつりと零れた言葉。
「だな。人多すぎだけど」
「そうだね、今年はレイラちゃんも一緒でよかった!」
「また皆で来ような」
「来年もな。俺は来年こそおもしれーおみくじ引く」
「私は来年も大吉を狙うぞ」
自然と、皆のそんな言葉が返ってくる。
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おしまい
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