ゆるっとRAID CORE【ゆるこあ】

コヨタ

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短編・小話シリーズ

龍調査機関と競馬観戦②

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 そしてまた翌週末。
 場所はもちろん、龍調査機関・休憩ラウンジ。

『さぁ、今週も始まりました!──』

 大型モニターから流れる実況が響くと同時に、ラウンジの空気がざわついた。

 いつもは静かな職員たちも集まり、テーブルを囲んでワイワイと盛り上がっている。
 白衣姿の職員たちがコーヒー片手に新聞を広げ、通信端末の画面をスクロールする様子。

「いやぁ、今日こそナイトオブウィシュがくると思うんだよね!」

「何回『こそ』って言ってるんですか先輩!」

「うるさい! 10年やってりゃ波があるんだ!」

 ──と、ベテラン勢(?)の笑い声が響く。
 そのくせ新聞の端には「※先週全滅」のメモが。

「ううーん……むむむ……」

 そしてセセラ。
 その喧騒の中、今週も壁際のソファに座ってラルトの方へ身を乗り出していた。

「なあ、ラルト……今日は馬券買わねえけど、それはそれとして、お前のパドック診断が見たい」

「え~!? また~?!」

「頼むって……ほら、先週のアメジストブレイズの読み、完璧だったじゃん」

「うう~ん……?」

 ラルトは頬に指を当てて考え込むようにしながらも──すぐにふわっと笑う。

「まあ、いいけどねえ~。お馬さん可愛いし、見るだけでも楽しいから」

「助かるっ!」

「『助かる』……?」

 ガッツポーズを決めるセセラ。その様子を見ていたシエリは、紅茶を片手に静かに口を開いた。

「……どうせラルトの診断を聞いたら『買っておけばよかった』と後悔するんじゃないか? 助かる、なんて言ってるあたり」

「先生マジでそういうこと言うのやめて! 本当に我慢するんだから今日こそは!!」

「ふむ、自己抑制の訓練にはなるかもな」

「その言い方が一番ムカつくんだよなァ!!」

 ラルトはくすくすと笑いながら、モニターのパドック映像をスッと指差す。

「ねぇねぇ、この子見て。ハルジオンステップって子。尻尾の振り方が軽やかで可愛いよ。たぶん、いいリズムで走れそう」

「……!!」

 セセラはうっかり前のめりに。

「……いや、買わない。買わない……」

 それを見ながら「顔が完全に買う人の顔してる」とレイラ。

 レイラとリル、西城兄妹もソファの向かいで並んで座っていた。
 レイラはクッションを抱えながら、真剣な眼差しでモニターを見つめている。

「なんか……この空気、緊張するね」

「だよな、わかる。あのゲートが開く前の静けさがたまんねえんだよ」

 リルが答える隣、アシュラも腕を組んで頷いた。

「戦場前の静寂に似てるよな。あの一瞬に全てが決まる」

「兄様、それ物騒な例え……」

 と、ラショウは呆れたように笑った。
 でもラショウもやっぱり画面から目を離せない。

『全馬ゲートイン完了! スタートしましたっ!!!』

「「始まったっ!!」」

 瞬間、全員が一斉に前のめりになる。

 ラルトが小声で「あ、やっぱりハルジオンステップ良い出だしだね~」と言っただけで、セセラはピクリと反応。

「マジで!? いやいやいや、買ってない買ってない……でも……!」

「落ち着けセセラ」

 とシエリが呟くすぐ近くで、セセラはもちろん、レイラやリルたちも騒ぎ出す。

「無理! この緊張感やばい!」←セセラ

「なんで!? 買ってないならそこまで緊張しなくても……!?」←レイラ

「あっ、外から来てる! ブライトノーヴァ!」←リル

「いや、内側のハルジオンステップまだ粘ってる……!」←アシュラ

「がんばれ~!」←ラショウ

 レイラは思わず身を乗り出して、「……抜けた! ハルジオンステップが抜けたよ!!」と大興奮。

『ハルジオンステップ、粘った! 粘った! ゴーーールインッ!!!』

 一拍の静寂。

「……!!」

 そして、次の瞬間──。

「「うおおおおおおおおお!!!」」

 ラウンジ中に職員たちの歓声が爆発。
 セセラは頭を抱えて崩れ落ちた。

「……買ってねぇぇぇ!!!」

 シエリは肩をすくめながら、「予想通りだ」と一言。

「ぐぅぅぅ……またラルトの診断が当たって……先生の言う通りになっちまった……買っておけばよかった……」

 ラルトは苦笑しながら、「でも、今日買わないって言ったの薊野さんでしょ?」とセセラの顔を覗き込む。

「くそ……正論言うなよ……」

 リルは笑い転げ、レイラとラショウも顔を見合わせて微笑んでいた。

 しかしアシュラだけが腕を組んだまま「……次のレースはどうなる」と真剣な顔。
 その様子を見たラショウは「兄様、やる気出しすぎ」とつつく。

 しばらくラウンジは笑いの渦。
 競馬歴ベテランの職員が「おかしい、俺の理論式が通用しない!」と頭を抱え、新人職員は「“可愛いから走る理論”、最強説ですね!」と大喜び。

 ラルトはそんな中、ずっと笑顔だった。

「みんな楽しそうでよかった~。お馬さんたちも、きっと頑張ってるの見てもらえて嬉しいと思うよ」

 それを聞いたシエリはフッと笑って、紅茶を口にする。

「そうだな。……しかしセセラ、次も同じことを繰り返す未来が見える」

「その予言、外れてくれ先生……!」


 ◇


 夕暮れが射し込む休憩ラウンジ。
 連続の競馬観戦に、もはや職員の半数が集合。

 モニターの前は完全に“競馬カフェ”と化していた。

「最終レースいくぞー!」

「次も当たれー!!」

「次こそ当てるぞ!!」

 ざわつく空気の中、セセラはテーブルの上の出馬表を手に取り、ふと眉をひそめた。

「……なあ、レイラ……これ見ろ」

「ん?」

 首を傾げるレイラ。

「なんか……すぎねえか?」

「……?」

 視線が出馬表に集中する。

「えっ!?」

 印刷された名前を見た全員が、固まった。

 出走馬一覧:

 プリンセスレイラ

 リルドラゴン

 アシュラッキー

 サイキョウラショウ

 セセランパサラン

 シエリーン

「…………」

「…………」

「……っぷ!!!」

 最初に吹いたのはリル。

「おいおい、これマジ? 完全に狙ってんだろ!?」

 レイラも手で口元を押さえながら、笑いを堪えきれず肩を震わせた。

「ちょ、ちょっと待って、リルドラゴンて! 何それ?! 偶然!!」

 アシュラは額に手を当て、苦笑。

「アシュラッキー……俺か? そんな、ラッキーって言われても……」

 そしてラショウは「サイキョウラショウって……名前に圧がありすぎるよ……」と困惑中。

 セセラにも笑いの波がじわじわと来ている。

「誰だよ、ふふふ……っ、こんな名前で登録したやつ……笑うしかねえ」

 その隣でシエリは珍しく口角を大きく上げていた。

「シエリーン……語感がやたら可愛いな。私とお似合いだ」

「いや、先生が言うと余計ジワるんだけど!!」

 ラルトだけが「みんな面白い名前だねぇ~」と和やかに微笑んでいた。

 ──が。

『そして最後に紹介するのは……本レース1番人気、“ラルトサンダイスキ”!!』

「……………………は?」

 ラウンジが一瞬、静寂に包まれる。

 そして──。

「「アッハハハハハハハ!!!」」

 全員、腹を抱えて崩れ落ちた。

 コーヒー吹き出す職員続出。
 シエリですらテーブルを叩きながら、「アハハハハハ! そんな名前あるのか!? 反則だろう!!」と大笑い。

 ツボに入って涙目のレイラ。

「待って……ラルトサンダイスキって何……!? ほんとにそんな名前なの!? 誰の愛の告白!?」

 ケタケタとリルも笑いが止まらない。

「これ、誰が名付けた!? 全国ネットで『ラルトさん大好き』って叫ばれんのかよ!?」

 そしてラルト本人は顔を真っ赤にして両手をばたばた。

「えぇ~!? そんなお名前の子がいるのぉ~!? うそぉ~!? うわ~、恥ずかしい~~!!」

 セセラはもう笑いながら転げ回っている。

「ぎゃはははははは!! ダメだこれ、優勝だろ!! 名前で!!!」

 そんなラウンジ内の大騒ぎを知る由も無く、レースは粛々と始まった。

『ゲートイン完了……スタートしましたっ!!!』

 歓声が一瞬で戻る。

 プリンセスレイラが軽快に飛び出し、リルドラゴンがそれを追いかける形に。

「おいレイラ、オレ(?)がマークしてるぞ!」

「いや、リルも速いよ!? このまま私(?)とリルで決着……!?」

 そして、アシュラッキーとサイキョウラショウが並走。

「兄様、私たち並んでる!!」

「どうせならふたり同着にしてくれ……!」

 そして中団後方──。

『ラルトサンダイスキは、まだ後方! しかし手応えは十分か!!』

「きたきたきたきた!!!」←セセラ

「いけ!! ラルトサンダイスキ!!」←リル

「ラルトサンの脚が伸びてる!!」←アシュラ

「すごい! ラルトサンがどんどん前に出てきてる!」←ラショウ

「頑張れー! ラルトサンダイスキ~!!」←レイラ

 ──職員たちも含めて全員がその名を叫ぶ。
 ラルトも、笑いながら半泣きで手を振っていた。

「みんなそんなに呼ばないでぇぇ~~!!」

 実況の声が重なる。

『外からラルトサンダイスキ一気に伸びた!! まとめてかわすっ!!!』

「うわあああああ!!」

「いけぇぇぇぇ!!」

「ラルトサンダイスキィィィ!!!」

 もはや応援なのかネタなのかわからない。
 ひとしきり笑ったシエリは涙を拭いながら、「この名前で勝ったら伝説になるな……!!」と画面を注視する。

「てか俺もうラルトサンダイスキに勝ってほしくなってきた!! いけラルトサンダイスキ!!」

「薊野さんほんとにやめてぇ~!」

 ゴール前、馬群を抜けて──。

『ラルトサンダイスキ、差し切ったぁぁぁぁ!!!』

「!!!」

 ラウンジ内がまたも「うおおおおお!!」と爆発。
 拍手、歓声、笑い声が入り混じり、研究機関とは思えない騒ぎっぷり。

 リルも思わず叫ぶ。

「うおお……! 勝った……! ラルトサンダイスキが勝った……!!」

 レイラも「信じられない!! 名前も強さも!!」と驚嘆の声を上げた。

 周りの興奮をよそにアシュラは冷静な面持ちで、「……まさに奇跡だ」と顎に指を添える。

 ラショウも「おめでとう、ラルトさんの……代理みたいなお馬さん!」と拍手を画面に向けて送った。

「……ぁはっ、あはははははは!!」

 そしてセセラは──テーブルに突っ伏して笑い続ける。

「ぎゃはははははっ……!! ダメだ腹いてぇ……! もうこの世界おかしいって!!」

 シエリは肩で息をしながらも、満足そうに笑った。

「……久々に、心から笑ったよ。ありがとう、“ラルトサンダイスキ”」

「うう……っ……」

 顔が真っ赤なラルト。それでも、そっと手を合わせて呟く。

「はあ……、ふふふ……あの子、きっとこれからも愛されていくね~。がんばったもん」

 笑いに包まれたまま、週末は更けていく。

 この日の龍調査機関は、“史上最も平和でカオスな週末”として、後に語り草となったのだった──。




 おしまい








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